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2020/07/23 傾きおじさん

近所にどういうわけか頻繁に会ってしまう可愛いオジサンがいます。オジサンはちょっと傾きながらちょこちょこと小股で歩いていて、すれ違いざまにごく控えめに、ムスメに向けて腰のあたりでバイバイと手を振り、控えめな笑顔を残して去っていきます。

私はそのオジサンが大のお気に入りで、遠くからちょこちょこ歩くオジサンを目視すると、「可愛いオジサンが来たよ!」とムスメにも注意を促し、二人で熱い視線をビシバシ送り、すれ違うその瞬間をこの数年楽しんで来ました。

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私たちのすれ違いの刹那も回数を重ね、オジサンはだんだんと距離を詰めてきました。そのうちムスメに握手を求めるようになり、私は円満なすれ違いの持続を望むあまり、ためらうムスメに「さっさと握手をしろ」と無言の圧力をかけておりました。しかし本当は、可愛いオジサンの案外低い声や積極的な一面を垣間見て、ちょっと驚いてもいました。

ある晩、滅多に歩かない道をムスメと二人で歩いていると、向うから可愛いオジサンが傾きながらちょこちょこやって来るではありませんか。私は思いがけない所で会えた喜びもあってか、オジサンが立ち止まったそこで

「僕の家ココ」

と指さした先が、日頃から羨望の目で見ていた、立派な低層マンションであったため、非常に驚いて

「ええーっ、高そう!」

と大声を上げてしまいました。私としたことが、こんなに驚いてしまっては、オジサンが安いアパートに住んでいそうと思っていた事がバレてしまうじゃありませんか。オジサンは何とも思っていないようで、

「ちょっと高いから引っ越したいんだよ、あなたのマンション賃貸?」

と可愛く傾きながら聞くではないですか。ええっ?オジサン同じマンションを視野に入れてる?ていうか私が住んでるマンション知ってんのかよ、と動揺しながらも、「分譲なんですよー」とその晩はオジサンと別れました。

下世話な私は家についてすぐ、そのマンションの賃料を調べてみました。やはり、私の想像通りめちゃくちゃ高いし、物凄く広い。いつも手ぶらかスーパーの袋を下げて歩いている可愛いオジサン、そんなに広い場所に何を置いているのか気になりすぎます。

 大地主、億トレーダー、いやいや、オジサン案外センスいいもの着ているような気がする、スティーブ・ジョブス風だからデザイン系やアート系の凄い人かもしれない。そういえば冬はカッコイイ革のジャケットを着ていたわ、私ったら木造アパートに住んでるなんて勝手に決めていて申し訳ない!

可愛いオジサンが何者かを探る私のすれ違いはこれからも続きます。早く知りたいものです。

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