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【小説】欲しいもの

記憶の中で自分が笑っている。

自分の記憶で自分が笑っているのは、

どう考えても変なのだが、

不思議とそれが、変だとは思えない。

「お母さん。」

「お母さん。」

母はいつも二度以上呼ばないと返事をしない。

「どうしたの。」

「ここにあったケーキ知らない。」

「ああ、あれ、PTAで一緒のお母さんにあげたのよ。」

「なんか悪かった?」

何時ものように、悪びれることなく返事をする。

「なんかって、初めて作ったケーキだし、

味も見てないし、失敗かもしれないし。」

山ほどある言い訳を並べようとした。

「いいでしょ、あんたが作ったんだし、又作れば、

でも、太るから食べない方がいいでしょ。」

又だ、その度に嫌になる。

じゃ、作る前に言ってよね。

その言葉は出る前に押し殺した。

言えばどれほどの反論が自分を襲うか解らないから。

多分、大概のの母親がそうだと思うが、

子供の言葉に躍起になって反論する。

まあ、勿論、自分は自分の母しか知らないのだが、

母親とはそういうもの。

「自分で食べてみたかったんだよな、

俺も食べてみたかったよ。」

父の言葉が援護してくれる。

「でも、うちは、太りすぎばっかりだから、

食べない方がいいのよ。」

ちょっと膨らんだ父のお腹を見ながら、

母が言う。

こうなると,母の独壇場だ。

「食べるのを控えなさいよ。」

「作るのが好きなら、人にあげたらいいでしょ。」

言葉が止まらない。

私は楽しくない気持ちを押し殺し、

笑う。

笑うしかないから笑う。

母には、変な子。

言われても、

紛らわす為、笑っている。

自分は笑いたかったんじゃないんだ。

話したかったんだ。

命令や言含めは嫌。

普通に話がしたかった。

私が見た自分の笑顔は夢だ。

見えるはずがない。

見たくもない。

欲しかった物を諦めた笑いは。







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