あの日にかえりたい~第一章 再会~


あんなに好きだったひとを
忘れていく。


あんなに大切だったのに
気持ちが離れていく私がいる。


悲しい。

さみしい。

受け入れがたい。

"なんで、あんなに
好きだったんだろう"なんて
今更振り返っても、


わかるはずなんてない。

そんなことは、


多分、当時の私にだって
わからなかったはずなのだ。


理由なんて、特になくて
ただ、好きだった。


悔やまれるのは
時の流れだけ。


あんなにお互い好きだったのに
どうしてか、

彼には彼の風向きがあって
私の方には吹いてこなかった。

それだけ。

もうすでに

人の力でどうこうできる問題でも
なかったんだろう。


・ ・ ・


"遅いよねー、秀人。
せっかくサヨが大阪から来てるのにさ"

久しぶりに再会した、
以前の仲間たちのグラスが
どんどんあいていく。


有楽町駅から東へ3分。
夜の東京の呑み屋。

"あいつ、デート中じゃないの?"


…え?

ふてくされたような
しみちゃんの声に

耳を疑う。

デート中って?

聞き返そうと口を開きかけて

若い女子の、高くて溌剌とした声にさえぎられる。


"秀人さん、最近モテてるんですよ"

にこっとこちらに笑顔を向けて
意味ありげに彼女は言った。

彼女の名前は
吉行まいこ。

東京に住んでいた頃
面倒を見てた会社の後輩で

私を誰よりも慕ってくれている。


"へぇー…"
精一杯声をしぼりだす。

嘘だー…と思う。

思うけれど、彼女は、適当な嘘なんてつけない子だ。

"たぶん、モテ期ですよ。
今、相当 調子のってるんじゃないのかな?"

"はは、秀人、ほんまにあいつは…


それ以降の会話が

まるで、耳に入ってこない。

そっか、
2年半も離れてたんだから
彼女くらいいるよね。


予想はしてたけど。

予想はしてたけど。

自然と
お酒のペースが早くなる。


"お、サヨ。いい飲みっぷりじゃん!
次なにいくー?"

姉御肌の由美がメニューを傾けた。

そうだ、今日はみんなと
久しぶりの飲み会なんやから。


飲もう。

そう決意して、
由美のメニューを受け取る。


"えー?なにしよっか…

な。まで言わせてくれずに
空気が変わって。

"おー、秀人、きたきた"
という、しみちゃんの声。

ガラスばりのドアの方を
弾かれたように
振り返ってしまう。

"ごめんごめん!だいぶ遅れたわ!"
"あ…"

靴を脱いで座敷にあがろうとした
秀人がこちらを見た。


一瞬、時間がとまる。


"うっわぁ、サヨさん
久しぶりなー!"

すぐに、満面の笑顔で
手を掴んでぶんぶんされる。


その表情と手と手の感触に
複雑な気持ちに
なりながら、

私は今一番
気になっていることを聞いてみた。


"うん。秀人、久しぶり!
デート中やったの?"

秀人が苦笑する。

"え?ちゃうちゃう。
仕事やっちゅうねん。"

"あ、そうなん?"


長く東京にいるせいか

イントネーションが
おかしくなっている
彼の大阪弁で発せられた

"仕事やっちゅうねん"と
いうフレーズにほっとして

自然と笑顔が作れる
ようになった。

なんだろう、このきもちは。


"にしても懐かしい!
サヨさん全然変わってへんやん!
雰囲気も、その笑顔も"

"ほんま?"

今度は私が苦笑する番だ。


"秀人はなんか
ちょっと変わったよねー"

つつきながらそう言うと、
嬉しそうに彼は

"やろ?
オトナの男になった?"

なんてほざいて、
にかって笑うのだ。

2年半も離れていたなんて
思えないくらい

自然に、うちとけた。


喋りたいことは2年半分、
山のようにある。


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