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教訓



皆さん、こんにちは♪
今日は修行時代の話です、良かったらお付き合いください

パン作りの世界に飛び込んだのは、30代のはじめ。
きっかけは、子供の頃の「パン屋さんになりたい」という夢を思い出したからでした

パン作りの経験はありませんでしたが、それまでも職人仕事をしていたので、習いにいくより現場に入った方が圧倒的に成長が早いことは知っていました。
そこで地元で美味しいと評判の、当時はまだ珍しかった天然酵母パンを作るお店に就職したのが始まりです

「せっかくなら、一流の店で」
「仕事の流れが見られる小さめの店」

この2つの条件を満たす、感動するほど食パンとカレーパンが美味しいお店でした

古くから地元にあるそのパン屋さんは店構えは小さいものの、ホテルやペンションなどからも注文が入る人気店

先ずは、パン生地の種類を覚えるため販売からスタートとなりました
製造が希望でしたが接客も好きだったので、お店の様子を知る準備期間として取組みました。

こう言うときの私は分かりやすくやる気を出すので、大抵の場合は周りからの評価がいいんです。
ところがこの店では勝手が違いました

あるとき店の片付けをしていると、パンの残り具合を見にきたオーナーが言ったんです

「麻生さんは、自分に自信があるんだね」

突然のことで、意味が分からず
「は?」と聞き返すと

「自分に自信があるだろ?」

「はぁ…どうでしょう」
やっぱり意味が分からず、曖昧な返事をすると

「自分に自信があるのはいいけど、うちでは変なプライドは要らないから」
そう言って、店を出ていったんです

正直、カチンときました

「なに、あれ⁉︎」
「勝手に決めつけないでよね!」
帰りの車中、釈然としない怒を独り言

数日後、その言葉がまだ頭の片隅に残ったまま仕事をしていると、店長がやってきて

「麻生さん、まだ製造の仕事を希望していますか?」と聞いてきた

「はい、勿論です」と答えると

「オーナーから、そろそろ麻生さんに製造に入ってもらおうとお話があったので、明日から始めましょう」

「え? はい…ありがとう…ございます」

こうしてオーナーの意図が全く分からないまま、製造の仕事が始まりました

待望の仕事でしたが、始めてみると翻弄されることばかり
オーナーのパン作りへのこだわりは強く、餡子、カスタード、ジャム、カレー、ハム、ベーコン、ソーセージ、惣菜類、etc…
とにかく手作り物が多い店で、その仕事量の多さといったら目が回るほど

慣れない大量の仕事を必死になってこなすものの、くる日もくる日も年下の店長にダメ出しを貰うんです。
パン職人の世界では新人であろうと歳上であろうと、出来なければ容赦なく注意や叱咤が飛んできました

それ迄の仕事で、なまじ小さな結果を出していたので、今思うと恥ずかしいようなプライドも邪魔していました。

「こんなはずじゃなかった」

製造に入って1ヶ月もしないうち、そんな風に考えるようになって
出来ない自分への不甲斐なさや、歯痒さ、悔しさ、情けなさ

「こんなはずない」「何で⁉︎」

自分はもっと器用にこなせると思っていたのに、何をやっても思うようにいかない

汗まみれ粉まみれになりながら、行き場のないストレスをぶつけるように鉄板掃除をしていたときです。休憩から戻ったオーナーが

「麻生さん、前にも言ったけど変なプライドは要らないんだよ」

「はい? あ、はい…」

またしてもよく分からないまま鉄板掃除に戻り、暫くしてハッとしました。
この店では自分は1番未熟な下っ端だということにやっと気付いたんです。
過去の自分にしがみつき、何処かおごった気持ちで仕事に向かっていたと反省しました。
なぜ自分は器用に熟せるなんて思ったんだろう?

「今ここで精一杯やらないと後悔する」

もっと素直にならなきゃと思いました。
オーナーは、おそらく早い段階で私の本質を見抜いていたのかもしれません
このとき、私の中で仕事に対する何かがかわ変わりました

その後も大変な日は続きます
夏になるとパン屋の売り上げが下がるのですが、ホテルやペンションからの注文が増えるんです。
お店のパンを焼き終わった後、ペンション用のバケットを100〜200本、ホテル用のバターロールやクロワッサンを200〜300個焼いていました

焼成を担当していた私は、クーラーのない製造室で毎日ふらふら
仕事も雑になっていたのでしょう

「麻生さんにとっては沢山の中の1つでも、お客さんはその1つのパンを食べるんだよ」

オーナーにそう言われたことがありました。
とにかく数をこなすことに必死で、その仕事の先にいるお客さんのことなど全く考えていませんでした。
これは時々思い返す、大切にしている言葉の1つです

この後2年程して、体調を壊してこの店を退社しました。
心身共に大変な2年でしたが、その分学びも多く今ではとても感謝しています

辞める少し前、オーナーから思いがけなく
「麻生さんなら、自分の店が持てるかもね」と言っていただいたことがあります。
余り褒められることがない職場だったので、この言葉はとても嬉しかったのを覚えています

最近、当時はすぐに理解できなかったオーナーの言葉をよく思い出すんです。
今こそ教えてくれる人が居てくれたら、と思うからかもしれません

「自分は今、奢った気持ちになっていないか?」
「1つ1つのパンに気持ちが入っているか?」
「お客さんの顔が想像できているか?」


何が正解か分からない今、頼りになる有り難い教訓です

さて、今日はこれからベーキングです
今日も最後まで読んでいいただき、ありがとうございました♪

皆さんの今日1日が、素晴らしい体験になりますように

#教訓 #修行時代 #パン屋

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