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「無知なはず」に支えられている/最近読んでいる本-2020-11-21

最近はひたひたと本を読んでいる。

多読でもなく、少ないわけでもなく、精読でもなければ、パラパラ読んでいるわけでもない。水がひたっていくように、ある一部分を読んでは、考えをめぐらし、また読んでは、考えをめぐらしているような読みかたである。こういうときに読む本は、わかりづらい本ほどよく、わかりやすい本だと考える余白がなくてちょっとおもしろくない。

そんなかんじでひたひたと読むのにちょうどいい本たちを紹介していこうと思ってnoteを開いてみた。いつもはかなり厳選して読みやすそうな本をnoteで紹介するのだけど、今回はちょっと難読なものもあるし、その人の人生のフェーズによってはさほど響かないかもしれない本もあると感じているので、有料読者さんのみの限定公開にした。

有料記事にしちゃう前に、ひとつだけ引用したい文章がある。このあと紹介するアンドレ・モーロワの『私の生活技術』という本の最後に、こんなくだりを見つけた。

君たちは困難な時代に人生の始まりを迎えている。歴史の中には、いかなる弱い泳ぎ手をも成功にまで押し上げてくれた満潮の時代もあった。しかし君たちの世代は荒れた海を、波にさからって泳ぐ。それはつらいことだ。最初のうちは、息が切れるかもしれぬ。とても向こう岸にはたどり着けない、と思うかもしれぬ。だが安心していい。君たちの前にも、同じように高い波に出くわした人びとがいたが、波に呑まれたりはしなかった。
(略)最後に、君たちは謙譲にしてかつ大胆であってほしい。愛すること、思考すること、働くこと、指揮をすること、そういったことはみな難しいものであるから、そのうちのどれひとつとして、思春期に夢みたようにうまく成しとげることができないまま、ついにこの世を去るということもあろう。しかしまた、いかにそれらが難しく思えても、不可能でないことは確かだ。君たち以前に、すでに無数の人間の世代が、それらを成しとげながら、人生という、二つの暗闇にはさまれたこの狭い光の地帯を、なんとか横切ってきたのだ。

わたしのなかにずっととめどなく支えになっているのは、これだ。目の前に困難があっても、「これは歴史上のだれかがぜったい経験ズミのはず」と思ってしまうことだ。ちょっとしたこまりごとも、途方もない困難も、「いや、だれかが知ってることがあるはず」と真っ先に思える。そしてきっと先人がなにか文章に残しておいてくれてるはずだ。そういうふうに思えることそのものが、すごく心の支えになっている。

数年前に断捨離がブームになったときに、「本は一回読んで理解しないとだめ」「読んで身になったらすぐ捨てる」という話を聞いて、なるほどな!と思った。でもわたしはその本を一回では理解できないし、何度読んでも「今のわたしには受け取れないところが絶対ある」と思ってしまって、まったく捨てられない。時代に逆行した捨てられない人間なんだなあと苦笑した。

でも、不思議と「自分は無知なはずだ」という気持ちに日々支えられてもいる。まだわたしの知らない知識や学びが世の中にたくさんあり、出会っていない人がたくさんいて、自分の手元にある本ですらわかってないかもしれないのだ、と思うことって、その分だけ可能性がひろがっている、ということでもある。それはとてもありがたいことだ。なにかのヒントがあるかもと思いながらページをめくる瞬間は、わたしの支えになっている。

これから紹介する本は、最近買って読んだものがほとんどだけど、たぶん捨てられずに10数年手元にあると思う。そしてまた何度かページをめくっていくんだろうな、と思ってしまう本たちだ。


アンドレ・モーロワ『私の生活技術』

なぜ手にとってしまったのかわからない不思議な本だ。Amazonのレビューも1件もない。大和郡山の「とほん」さんで買った。フランスの小説家であり伝記作家であるアンドレ・モーロワが、「考える技術」「愛する技術」「年をとる技術」など生き方の英知をいっぱい凝縮させた、若者に向けたちいさな本だ。「愛する技術」についてはちょっと古いジェンダー観が見え隠れするものの、ほかの章は年をかさねても色褪せない本質があるように見える。


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