5月28日 「幸せな18円」

自分の日記を読み返してみる。

4月17日
朝早起きして外にタバコを吸いに行った。
外でたら黄色のゴミ袋が捨て場にあって、
「あっ今日は可燃ゴミの日だ」って思って
自分も出そうと思ったらちょうどゴミ収集車がきた。
あー間に合わへんまた来週かってなってたら、
ゴミをかぶせる青い網をゴミ収集車の人が道端に
そのままにしてたからカゴに入れよ〜って思ってカゴに
入れた。
そしたらちょうど近所のおばあちゃんかな?
初めて見る人だったけど、
「これ入れてくれたん?」って話しかけてくれて、
「カゴの外に出てたんで入れようと思って」って
返したら柔らかい笑みで「ありがとう」って言ってくれた。
そんなぁおばあちゃん。
そんなこと言ってくれるなら何回でもするよ。
でも朝早起きしてあのタイミングで外出てなかったら
この会話もなかったし、このおばあちゃんとも
出会ってなかったのかなと想うとなんだか
幸せな気持ちになった。
最近の中で一番幸せな時間だった。
近くにいてもうちょっと話していたかったな。
ソワソワしてちょっと照れちゃった。
あのおばあちゃんが毎週ゴミ収集車が来たときに
この青い網をちゃんと畳んでカゴに入れてくれてるんだね。
ありがとうおばあちゃん。

自粛期間が3週間くらい過ぎた日の出来事。

こんなたわいもない短い会話だったけど

人と話すことがいかに楽しくて心地よかったことか。

天気も良くて寝起きのなまった体を思いっきり伸ばして、春の朝の涼しい風を浴びながらタバコを吸って吐いて、それからまたもう一度大きく息を吸う。

「早起きは三文の徳」とはこのことか。

小学校、中学校でこの言葉を学ぶより実際に自分の体で体験した方が何倍も理解できるし、この出来事は僕にとってずっと残り続けると思う。



でもこの時した行いが良かったことでも

それを毎回できるかどうかはわからない。

少なくとも僕は気づいても見て見ぬふりをすることもある。



5月28日。

朝の10時からホテルの清掃のバイトがあった。

今はコロナの影響で12時30分くらいには仕事が終わるから、終わった後はそのホテルのワーキングスペースで自分の作業をする。

というのがバイトの日の大体のルーティンになる。

この日もバイトが昼に終わってちょうどお腹が空いたからセブンに行ってパンを買おう。と思って財布を開いたら、中身は370円、、

今日は5月28日。残り3日を370円で過ごさないといけない。

でも僕は腹が減ってる。それとコーラも飲みたかった。

こういう時、少しでも我慢できればいいんだけど、もうコーラを飲みたくなってる時点でこの時の僕の頭の中には1にコーラで2にパン。

コーラって罪深い飲み物。バイト終わりで喉がカラカラな僕をあの黒い液体が誘惑する。飲んだ後の喉の刺激を想像する。

うん。当然我慢することなんてできなかったよ。

コーラを買うお金を逆算して、パンに使える金額は270円までと計算が出たから

それで買えるパンを二つ選ぶ。

そのあと近くのお菓子屋にいってコーラを買う。

残った金額、、、


18円。


一周まわってニヤける。

こーいう時、僕は良くないことに焦りや不安よりも、あーなんか18円しかないこのカツカツの生活も下積み時代だよなー。大事だよなー。

と自分に酔う。

ちゃんと今月は乗り切れるという計算のもと買ってるから安心しきっているというのもある。



足早でバイト先に戻ってパンとコーラをいただく。

一口一口と食べるたびに飲むたびに空になってる僕の胃の中に滑り台のように流れて落ちていき胃を幸福感に満たす。

なんてことは食べてる時は微塵も思うことはなく、ただただ美味しい!と幸せ!という気持ちですぐにたいらげた。

ごちそうさまでした。美味しかった。



そこから今では大学を辞めて東京で仕事をしてる友達と電話をして、演技のレッスンをリモートでし、夕方には大学の授業をリモートで受け、気づいたらあっという間に20時。時間の速さが恐ろしすぎる。

あ、この東京で仕事してる友達はこれから日記に何回も登場すると思う。笑



それから夜20時に大学の同期の女の子と電話で話をした。リモートと電話で人と話すことが今日一日を占める。


会話の内容は、卒業制作について。

卒業制作は僕ら学生にとっては4年間の集大成となるわけでどんな映画を撮るのか、このコロナの状況で何か新しいものを発見できないか、じゃあ具体的にカメラをこう置いてみよう、部屋を暗くしてみよう、と試行錯誤の毎日。

彼女との電話もそういった会話をしていたんだけど、その中で彼女が

「リモートで授業受けてて、講師の人が喋ってる時にその講師の家の近くでヘリコプターが通ってさ!その音がデカ過ぎて講師の人も気づいたんだよね。『あー、ごめんなさい』って言っててさ。でもその数分後くらいに自分の部屋からもヘリコプターの音が聞こえてきて『あ、これ同じヘリコプター見てたんだな』ってドラマチックなこと想像しちゃったんだよね」


彼女は、おもしろい。

考え方といい、発言といい、

そんな彼女と話すのはとても心地がいい。

そういったリモートで撮影する時に音を使って工夫できないかなーと彼女は言う。

単純に彼女はそういった音に敏感なんだろうなと感じた。敏感というか鋭いというか。

僕は右耳が全く聞こえない。

これは生まれつきなものだから、別に悲観的になるわけでもない。

ただ他の人より音に無頓着なところがある。

時々、両耳聞こえる人はどんな風に音が入ってくるのか想像する。羨ましいとも思う。

でもきっとそんな変わらないんだろうな。ないものねだり笑


で、その後は、色々と雑談をして電話は終了した。時間を確認すると20時30分を過ぎていて僕も帰路につこうと荷物を整理し、バイト先までいつも自転車で来てるから、屋上の自転車置き場に向かう。

思った以上に今日は疲れたなー、帰ったらご飯作れないなー、月きれいだなー、明日は晴れるなー、夜風気持ちいいなーとたくさんの事を一気に感じた。



自転車で帰ってる途中、

もうすぐ家に着くくらいのところで

ふと頭によぎった。

両耳からイヤフォンを外し、

外の音に意識を向ける。

夜の田舎町に響くカエルの鳴き声。

雑音じゃない。

気持ちよかった。

今年初めてのカエルの鳴き声を聞いて

もう夏に近づいてるんだなと思った。

さっき話した彼女の言葉を思い出して本当によかった。

このカエルの音を聞いてる人がたくさんいて

同じ音を聞いていてそれぞれ思うことがあったりなかったり。

毎年聞き慣れてるはずのカエルの鳴き声は

今日だけは特別なものになった気がする。

気分がいい。

気分がいいから家の前に落ちていたゴミを拾った笑笑

空のタバコの箱が二つ、シャボン玉かな?がペシャンコに潰れていたやつ、あとコンタクトの入れ物?のゴミ。

画像1

特に何の意味もないけど、

4月17日に起きたことみたいに

そこからまた嬉しいことが起こるかも知れない。

それだけで充分。



これが所持金18円になった僕の1日。



学生最後の日記 祥