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忘れられないサービス介助士さん

先日、とある出来事がきっかけで「サービス介助士」という資格があることをはじめて知りました。

ある駅で、私はその「サービス介助士」というバッジをつけた駅員さんにとても親切にしていただいたのです。

その方に出会わなかったら、私はきっと今頃
とても憂鬱な気分で落ち込んでいたでしょう。

その日、私は今住んでいる地方から久しぶりに東京へ行く機会があり、はじめて「えきねっと」というアプリを使ってスマホで新幹線のチケットを購入しました。

使い方は簡単で、出発地と到着地を入力すれば、乗車可能な新幹線のチケットが表示されるので、それをタップして購入するだけです。

行きは何の問題もなくスムーズにチケットを購入して東京へ行くことができました。ところが、帰りの新幹線で事件は起きました。

行きと同じように出発地と到着地を入力し、地元の駅に停車する新幹線のチケットを購入したつもりでした。

ところが、目的地へ向かっているはずの新幹線の車内で聞こえてきたのは「次は~、○○。○○を出ますと次は○○に停まります」という、私が住んでいる県ではなく、隣県の地名を告げるアナウンス。

3時間の長旅に備えてのんびり車内でお弁当を食べていた私は耳を疑いました。「え??うそでしょ!?なんで!?」パニックになりながらも、このままでは隣県へ行ってしまうことだけは確かなので、とりあえず降りなければと思い大急ぎで荷物をまとめて慌てて新幹線を降りました。

ホームでスマホの画面を開いて、購入したチケットをもう一度確認してみました。

えきねっとアプリの申込一覧には「東京―○○」と、間違いなく私の住む地域の駅名が表示されています。ところが、その表示をタップして次の画面を開くと、到着地が隣県の地名に変わっているのです。

どういうことなのかまったく理解できず、ホームで駅員さんにスマホの画面を見せながら説明すると「ええーーっ!?本当だ、何でだろう??ちょっとわからないので窓口で相談してもらえますか?」とのこと。

階段を下りて改札口へ行き、改札の駅員さんにもう一度画面を見せながら説明すると、その駅員さんも「んーーー??何ででしょうね?確かにこれはちょっと…。何とかできると思うので、この画面を見せて発券の窓口で相談してみてください」と、私に同情するような口ぶりで、優しく対応してくれました。

その時点では私も、これはアプリの不具合か何かだろうから、きっと本来の目的地へ行く新幹線のチケットに振替をしてくれるのではないかと思っていました。

ところが、発券窓口の担当者にスマホの画面を見せて説明したところ
「我々のほうではどうしようもありませんので、こちらでは何もできません。チケットを新たに買ってください。」と、さっきの駅員さんとは打って変わって機械的な口調であっさり一蹴されたのです。

納得がいかない私は
「でも、このえきねっとアプリの申込画面には東京―○○ってちゃんと表示されてるのに、違うところに行くっておかしいじゃないですか!?」と食い下がってみたものの、取りつく島もなく
「申し訳ありませんが、我々の責任ではありませんので」の一点張り。

しばらく沈黙した後、
「チケットの確認メールが届いていると思いますが、そちらは確認されましたか?」と言われ、私はメールを確認していなかったことに気づきました。

東京を出るときは、とにかく時間がなくて乗車前に慌てて購入したため、アプリの申込画面しか見ておらず、メールは開いていませんでした。

そしてメールを開いてみると、すべてが明らかになりました。
私が購入したチケットは、新幹線で隣県の駅へ行き、そこから在来線で私の住む駅へ向かうというルートだったのです。

私はそもそも、出発地と到着地を入力すれば、到着地に停車する新幹線が表示されるものだと思い込んでいたことに加え、普段、電車にほとんど乗らないため、隣県経由で在来線で到着するチケットが表示されるとは、まったく想像していなかったのでした。

発券の担当者は無表情のまま
「メールにはきちんと書かれていると思いますので、お客様の責任になりますね」と言いました。

自分がよく確認していなかったのが悪いとわかっても、なんだか悔しい気持ちになったのは、その担当者のあまりに冷たい突き放すような物言いが、とても悲しく腹立たしかったからだと思います。

当然、間違えて買ったチケット代はそのまま、もう一度、新たにチケットを買い直すしかないということになり、私はがっくりと肩を落としました。

チケット代の出費が二重になってしまうこと。
乗れるのは最終の新幹線しかなく、家に着くのは0時を回ってしまうこと。
列車の到着までまだ1時間以上もここで待たなければならないこと。

その最悪な状況に打ちのめされ、絶望的な気持ちになりながら
改札口の隅っこでスマホの画面を開き、
もう一度、新たに新幹線のチケットを購入しようとしていたときでした。

「お客様、あの、もう一度さっきの画面見せていただけますか?」

そう声をかけてきたのは、改札口で私に同情してくれた駅員さんでした。

私は
「でも、発券の窓口の人に、新たに買い直すしかないって言われました」
と半泣きになりながら言うと

「ご事情がご事情なので、もうちょっと他に何かいい方法がないか調べてみますので、少しお待ちいただけますか?」
そう言って、あれこれと調べて、少しでもチケット代が戻ってくるように手を尽くしてくれたのです。

どうすればいいか、一つひとつ丁寧に説明してくださり、
私のスマホの画面を確認しながら
「これが今こうなってるので、これで大丈夫です」とか
「これはこのままにしておいて大丈夫ですので、安心してください」とか
とても親身に寄り添ってくれました。

その駅員さんの姿からは
「目の前の人のために、できる限りのことをしてあげたい」
という真摯な気持ちが伝わってきて、私は
「こんなに優しい駅員さんがいるんだ…」と、感動を覚えました。

ふと駅員さんの胸元を見ると、
「サービス介助士」と書かれたバッジがついており、
私はそのときはじめてその言葉(資格)を知ったのです。

そしてその駅員さんは、発券の窓口まで付き添ってくれて、「これこれこういう事情だから…」と、担当者に説明をしてくれました。

私はそのときにはもう、チケット代が戻ってこようがこなかろうが、この駅員さんがここまで親切に、親身になって尽してくれたことがただただ嬉しくて、それだけでもう十分だという気持ちになっていました。

そして気がつくと、ついさっきまで悲しくて泣いていたはずの涙は、いつのまにか嬉し泣きの涙に変わっていました。

最後の最後まで
「これで大丈夫ですから、ご安心ください」と優しい言葉をかけてくださった駅員さんに、私は感謝の気持ちがあふれて涙が止まらず
「本当に、本当に、ありがとうございました」
と、ぐちゃぐちゃの顔で駅員さんにお礼を言って改札を後にしました。

新幹線に乗った後で、お名前を確認すれば良かったと思いましたが、時すでに遅し。

だけど私は「サービス介助士」というバッジをつけて働く、あの駅員さんのことを一生忘れません。

私も、あんな風に仕事がしたい。
私も、誰かの役に立ちたい。
そして何より、人の心に寄り添える人でありたい。
そう心から思った出来事でした。

あの駅員さんからもらった優しさのバトンを、
私もこれからの人生で必ずつないでいこうと思います。




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