バイクツーリング 〜神奈川 箱根〜 後編 その3
交差点に来た。
芦ノ湖スカイラインが終わる。
ここから先は知らない道。
右折してすぐ料金所があった。
「どこから来た?」
「芦ノ湖スカイラインです。」
「いくら払った?」
「300円払いました。」
「じゃあ、このまま行っていいよ。」
ここはまだ芦ノ湖スカイラインなのかな?
急に下っていく坂道を右、左と曲がりながらぐんぐん下りていくと、すぐに湖畔に近づいた。
ここ、なんだか楽しい。
さっきまでは高原の中、一人で走っていたのに、急に人里に来た感じ。
その早変わりするみたいな感覚が面白いのかな。
楽しい気分だけよく覚えている。
下まで下りると、車がいた。
久しぶりに、車の後ろにつく。
車は、湖畔の道をゆっくり進む。
人の世界に戻ってきたような、冒険は終わって平穏な日常が戻ってきた映画のような、そんな安堵感と人恋しさで、車がゆっくりなのも全く気にならない。
芦ノ湖スカイラインとは打って変わって、周りは木々に覆われている。森の中を進む。
芦ノ湖はあまり見えない。
少し陽が傾いてきたことがわかる、木々の隙間から差し込む光は、午後がだいぶまわったことを表している。
走ってきたんだなぁ。
芦ノ湖スカイラインを。
湖の対岸、はるか上空にあるはずの道。
誰ひとり走っていなかった道。
どこまでも一人で、どこまでも道が続いていて…
自分のペースで、好きなように好きなだけ走ってきた。
神様は、こんな贅沢な時間をくれたんだなぁ。
誰も走っていない道を走ること。
それが、どれだけ願い、夢にみる幸せなことなのかは、バイクに乗っている人ならみんなわかるんじゃないかなぁ。
楽しかったなぁ。
幸せだったなぁ。
そんなことを思いながら、走り切った満足感とその余韻に浸りながら、車の列について走った。
この道は覚えている。
木々の中、丘のような緩やかなアップダウンを繰り返しながら、湖畔に沿って走る道。
帰り道に来たんだなぁとしみじみ思う。
そう思っていたのに、知らない看板が見えた。
これは・・・どっちに行くのかな?
んー。こっち。
通り過ぎながら、だんだん不安になる。
ほんとにこっちで大丈夫?
停まって自分の位置を確かめようかと思ったけど、もう少し進もうと思った。
迷ってもこの辺りならきっとわかる。
自分の庭にいるみたいな?
なぜだかすごい安心感。
車についてゆっくり走っていたら、突然大きな鳥居が見えた。
元箱根の鳥居?じゃない。
大きな神社みたいだ。
知らない。こんなとこ。
やっぱり迷ったのかな?
見たことのない風景に不安になりながら、大きなカーブでぐるっと鳥居の前を通り過ぎると、ほどなくして知っている景色が現れた。
ここだ!帰り道。
なぜか、この交差点は何度も夢に出てきている。
箱根新道の脇を通る旧街道。
お玉ヶ池の脇を走り抜ける。
夢の中では、突然この交差点にいる。
ここがどことつながっているのか、夢のわたしはよくわからなくなっている。
その道だと確信し、先に進む。
お玉ヶ池がない。茶屋の前を通る時も、通れない時もある。
そんな夢をよく見ていた。
いつも閉まっている甘酒茶屋。
あっ!開いてる!!
通り過ぎてしまう。
でも、諦めきれない。
その先の建物沿いに、歩道から乗り上げてバイクを停めた。
初めて停まる。甘酒茶屋のバス停。
昔の東海道沿いの茶屋なのかなと勝手に思っている。
今見たら、創業400年の老舗と地図に書いてあった。
茶屋の隣の建物。
陽射しが透けて見える。
茶屋に向かう。
中でお餅を頼んで、縁側に腰かけた。
昔の風景みたい。
周りを見渡す。
人はそれなりにいるけど、距離を保てるので安心して座っていられる。
お餅がきた!
今日は食べてばっかりだなぁ。
でも、おかげで身体を休められる。
ゆっくり味わって、美味しくいただいた。
空を見た。
帰りは休憩をよく取って…
アドバイスでもらった言葉を噛み締める。
ここから先に、好きな道がある。
夢でよく見たのは、この道を走りたかったからじゃないのかな。
夢では、いつもバイクで来ていた。
多分、どこよりもよく覚えている道。
好きな峠道。
さぁ。走りに行こう。
最後のお楽しみだ。
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