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行きつけのケーキ屋☆

行きつけのケーキ屋がある。

小さい頃住んでいた町の商店街にあるケーキ屋さん。

店内に一歩入るとふわっと生クリームの香りに包まれる。

今も昔も変わらない。

甘ったるい香りじゃなくて、上品な甘い香り。

それだけでもう、うっとりとしてしまう。

誰もが笑顔で買いに来る「ケーキ屋さん」は、

私の保育園の頃の将来の夢だった。

高校生の時に引っ越したけれど、そこまでは車で15分ほどの距離なので、

私が車に乗るようになってからは、

実家の誰かの誕生日には姉を乗せて、

一緒にまたそのケーキ屋へ行くようになった。

昔から、

母はモンブラン

姉はチーズケーキ

兄はチョコレートケーキ

私はモンブランかショートケーキ

そして父は最後に残ったフルーツケーキかショートケーキ。

父はいつも「おまえらから選べ。」と言う。

いくら「お父さんは何がいいの?」と聞いても、

「俺は何でもいいから、お前らから選べ」だった。

フルーツケーキはいつも最後まで残るのに、

子どもの頃はなぜか毎回フルーツケーキを買うのだった。

メロンや黄桃など色とりどりのフルーツケーキは目にも楽しく、

こういうケーキが父は好きなんだなと思っていたけれど、

実はチョコレートケーキが好きだと知ったのは今年のこと。

父にとってケーキとはこれ!というイメージが

この色とりどりのフルーツケーキだったようだ。

子どもが好きそうな賑やかな見た目から、

つい選んでしまう理由だったのだろうなと思う。

それとも遠い昔に憧れたケーキだったのかもしれない。


商店街に訪れるたび、閉店しているお店が多くなった。

そのケーキ屋さんには喫茶スペースもあり、

小さい頃一度だけそこでフルーツパフェを食べたことがある。

いつだったか、レジの後ろのコルクボードに

コーヒーチケットがいくつも留められているのに気がついた。

そのチケットに書かれた名前をよく見ると、

周りの商店街のお店の名前がそれぞれ記されていた。

八百屋、床屋、金物屋、薬屋、文具屋、肉屋、布団屋、駄菓子屋・・・。

周りのお店の人にとっても、コーヒーを飲みに来る憩いの場所、

そしてお互いに支え合うような商店街なんだなと思った。

今、このコルクボードにはいくつチケットが残っているのだろうか。

今も残っているお店はこのケーキ屋さんとあと半分も無さそう。

どこのケーキよりもこのお店のケーキが好きだから今も通うのだけれど、

もちろん応援したい気持ちでもある。

というわけで今年の敬老の日も行きつけのケーキ屋さんへ。


・・・お休みでした(笑)。

実家へ引き返す道にも、新しくできたとても流行っているケーキ屋がある。

ちらりと目をやるとガラス張りの店内には人がたくさん。

駐車場を出入りする車も多かった。

以前行きつけのケーキ屋が休みの時に一回買ったことがあるけれど、

見た目も綺麗で、美味しい。

これだけ流行る理由がある。

だけど今回は通り過ぎる。

「今日行くのはここじゃない」

なぜなら、ひいおばあちゃんの行きつけだったケーキ屋さんも

別にあるんです(笑)。

実家を真ん中に、最初の行きつけのケーキ屋とは逆方向の。

ここは開いていてホッとする。

先ほどの人気店と違い、お客さんは私たちだけだった。

店員さんは白髪のおじいさん一人。

私たちがガラスケースから人数分のケーキを選び終えると、

白髪の店員さんが箱に詰めて、レジを打つ・・・

一つ数字を入力して「あ」と何かに気がつき、

レジにささるキーを回した。

そしてまた人差し指だけで今度はカタカタと順番に

ケーキの値段を入力していく。

ガチャーンと勢いよくレジが開いた。

今日は敬老の日。

ここに来て良かったなと思った。


「カタカタとケーキ屋のレジ敬老の日」

季語:敬老の日

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