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麦はなくとも

コツコツと軽快なブーツの踵。
季節を引き留めるかのように香る金木犀。

秋と冬の間を行ったり来たり。

季節の移ろいを最も感じるのは、やはりマーケット。盛夏の桃や西瓜が、梨や蜜柑に変わり、そこに葡萄が加わった。


一瞬だけメロンが顔を出したかと思ったら、今度はプラムやドラゴンフルーツが大きい顔をしている。

初めて見る果物も多い。たとえばゴツゴツとした林檎に似たそれ。
艷やかで真紅で、まるでおままごとの道具みたいね。

人は興味のないものは目に入らないという。
売り場をよくよく見てみると、籠いっぱいの茶色い木の実。

知らなければ知らないで、食べなければ食べないで、そのままひっそりと過ぎ去って行くのだろう。

人との出会いに少し似ていると思った。
この国の短い秋は、あと2回。

食いつけたものしか食べない中年になってしまうのを、どうにかこうにか、一生懸命に拒もうとするのです。

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