見出し画像

大学時代について思うこと

 みんなは大学時代というと恋にバイトに充実した思い出を語るかもしれない。筆者もそうでありたいのだが、現実には、充実からほど遠い大学生活を送っていた。 

 大学2回生のときである。筆者は、女子が多そうという理由だけで国際関係ゼミを採った。すると、案の定、女子が多い。国際関係に全く興味がなかったものの、女子の前で無様な姿は見せたくなく、ゼミの前日に一夜漬けで勉強しては、もっともらしく「アメリカが悪い」的なことを吹いていた。

 国際関係に強いやつを演出する中、グループ発表のお題が出される。筆者は卓球の石川佳純似の女子アジア系の留学生男子の3人グループになり、研究発表に向けて打ち合わせを重ねた。普段は変なこだわりで空気を壊すが、このときばかりは女子の好感度アップ狙いで黒子役に徹した。

 留学生男子の活躍もあって研究発表は大成功となり、おかげさまでもう1人の女子とも親しくなる。そして、ついには石川佳純似の彼女の方から同じサークルに入ろうと誘われたのだ。

 貴重な女子からの誘いにテンションが上がったが、筆者は、はしゃぐことなく、慌てることなく、「まあ、行ってもいいけど。」とクールに返して、彼女と一緒にサークル見学に向かったのである。

 ここまではまだ良かった。しかし、現実はそんなに甘くない。

 彼女のサークルが大学内のサークル棟に無い時点で「おや?」と不思議に感じたが、ゼミ発表した仲間であるし、そこまで深く考えはしなかった。また、サークルの目的が幸せを追求することというのもイベント系のサークルくらいに考え、チャラいやつらと一緒にやっていけるかを案じていた。

 ゼミの女子と一緒に古い雑居ビルの一室へ入ると、サークルメンバーと思しき年上風のメガネ男ギターを抱えた男子が談笑していた。メガネ男は明らかに大学生ではなく、いかにも神経質そうなのに対し、ギター男子は柔和な顔立ちで、話しかけやすそうなタイプである。

 新人の登場を素直に喜ぶギター男子やゼミの女子とたわいもない話で盛り上がる。なんとなくいい感じだと思いつつ、その間、一言も発さないメガネ男が気になっていた。すると、こちらの心情を察したのか、突如、メガネ男が「君はいま幸せかい?」とストレートに尋ねてきたのだ。

 とりあえず筆者が「幸せです」と答えると、メガネ男は「君の幸せは何点だい?」と聞いてくる。あまり高くてもまずいと「70点です」と答えると「なぜ100点じゃないと思う?」とさらに追及する。「100点は遠慮しました」とも言えず沈黙してると、メガネ男は「100点とならないのは人生の意味を知らないからだ」と何やらホワイトボードに書き始め、いつの間にか、ギター男子やゼミの女子までメガネ男の講釈を真剣な表情で聞き入っているのである。

 それから30分以上経過してもメガネ男の講釈は終わる気配がなく、さすがに筆者も、これは宗教勧誘的なものでメガネ男はそのリーダー格なんだろうというのが察せられた。

 本来なら、宗教に関心がない筆者はここでさっさと帰るべきだった。しかし、モテナイ筆者が女子の誘いと期待しただけに失望も大きく、思わず、メガネ男に対抗して「人生とはただの暇つぶしだ」と中二病的反論を始めてしまったのである。

 人生の意味を知りつくしたと思われるメガネ男からすれば、到底、許すことのできない主張だっただろう。何より講釈の途中でちょいちょい口を挟まれるのは本当に鬱陶しかったと思う。

 お互い感情的になったが、最後は、メガネ男の方が「君はうちのサークルに向いてないね」と不毛な議論を打ち切った。一方、筆者は、ゼミの女子に声をかけることもできないまま、その場を立ち去ったのだった。

 あれから月日もたつが、いまだにあのときゼミの女子に一言だけでも声をかけて帰れば良かったと思ってしまう。これができなかったのが当時の筆者の限界であり、残念な大学生活の原因でもある。

 ただ、思い起こせば悔やむことは数多いが、この件も含め大学時代の思い出はいつも楽しく、筆者はなかなか学生気分が抜けきれない。そして、春になって桜をみると、つい大学時代に戻りたいなどと思うのであった。

 

 


  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?