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18滴目 大丈夫




大丈夫

お母さんのお手伝い
ゆうげの支度

餃子を包むのは
小さ過ぎたり
大きくなって破れたり
あんまり得意じゃないけど
慣れてきたよ

コロッケの衣を付けるの好き
小麦粉のお皿 →
溶き卵のお皿 →
パン粉のお皿
順番にくぐらせて
俵形なのがうちのコロッケの特徴

お父さんとお母さんの部屋にある
だいぶ使い古した
分厚い料理の本
ああいつも食べてるの
ここに載ってる

いつも並んでる
綺麗で美味しい料理
当たり前に食べていた

お肉噛みきれなくて
いつまでも口に入ってて
こっそりトイレで吐いてたの
バレてなかったかな

風邪を引くと作ってくれる
片栗粉がゆ
お砂糖が入ってて甘くてドロドロで
好きだった

お庭のピンクと白の
桃の花の木の近くの
大きなタイルの台所
本物のお皿をならべて
いつも一人で お母さんごっこ
お花や葉っぱや石で
綺麗に盛り付けるのが
楽しいの

お庭の鯉の池が見える縁側で
喫茶店ごっこ
ガラスのテーブルの上に
お紅茶とお菓子を載せて
私は籐と麻の回転椅子の上
ぐるぐる回りながら
お気に入りのお母さんとのあそび

お庭のきれいに剪定された長い植栽の列
今日はお布団と枕が乗っかっていた

玄関前の廊下に山のように取り込まれた
お日様の匂いのお布団の上で 
死んだふり
救急車呼んでくれるかなぁ♪
「あら?」
見てる見てる
近づいてきた
けど
向こうへ行ってしまった…
けど
微かにほのかに
笑いをこらえた気配がした

「メガネ、メガネ」
歩きまわるお母さん
「ワタシノメガネミナカッタ?」
あのおとぼけたお母さんが可笑しくて好き

「メガナイ、メガナイ」
お兄ちゃんと一緒に
コンタクトをさがす洗面所の
ビニールタイルの床

見つけてあげたときの達成感


車の助手席
校区一の急坂を登る
お母さんの白い軽自動車
クーラーを全開にしてると
無理をしてるエンジンのすごい音
お母さんまでなぜか無理して
うーうー声を出すの
やっぱり可笑しいと思う

急ブレーキすると
助手席の私に
大慌てで
咄嗟に腕を出す
二重のシートベルト

はしかで私が入院中
夜中に突然吐いたときも
お母さんやっぱり血相変えて
ナースコール

(そんなに慌てなくてもいいのにな)

排水溝に足を滑らせて
太ももが擦り傷で血だらけになったときも
やっぱりお母さん大慌て
頭混乱してるみたいに
大慌て

ちゅうがくせい
お母さん忽然といなくなっちゃった

最近おかあさんて
ちょっと面倒くさいな
いらいらする
(今思えばあれは紛れもなく思春期の萌芽)
だから
まあいなくてもいいか
きっとなんとかなる
おとうさんおじいちゃんおばあちゃんいるし
おてつだいさんもくることになったし

せいりがきても
もうちょうになっても
じんたいきれてまつばづえになっても
くるまとぶつかっても
くらやみでおとこのひとにへんなことされても
きんしんしゃにいつもへんなとこまさぐられてても
くちにてをつっこんでたべものはいても
まわりのせかいがとおくにみえても

どうってことないどうってことない
あたし大丈夫

だいがくじゅけんも
はじめてのひとりぐらしも
かれしできなくても
かれしとわかれても
大丈夫
あたしひとりでだいじょうぶ
だってひとりで
あたしずっとだいじょうぶ


社会人
あたしひとりじや
もうだめみたい
ひとりじや
どうにもならないみたい

結婚してくれるひと
みつけなきゃあたしひとりぼっち

こそだて大変でも
あたしひとりでがんばるの
みんなはばーばに手伝ってもらっても
みんな夫にやさしくしてもらっても
みんな夫とキスしてても
あたしキスなくても

キスなくても
セックスだけでも
だいじょう…ぶ…

帰る家ができたから
もう
ダイジョウブ

ってことにする


スター

光を放て

上から下から
孤高の光


===


written by 古瀬詩織

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