2023/11/28(火)のゾンビ論文 本物の音素表現を有する話者に擬態する音韻ゾンビ

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender

  2. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、検索条件2では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」二件

  2. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」四件(差分は二件)

検索条件1は言語学、衛生学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

ケベック州のフランス語圏の英語学習者による /h/ の表現について

一件目。

原題:On the representation of /h/ by Quebec francophone learners of English
掲載:Frontiers
著者:Paul JohnとSimon Rigoulot
ジャンル:言語学

タイトルの通り、カナダにあってフランス語を第一言語とするケベック州において、英語学習者が「h」の発音をどう扱うかを調べた論文。割と詳細な内容がアブストラクトに書かれているが、詳細であるがゆえによくわからない。

zombieの単語が出てくる文章を引用する。

We also consider the possibility that, rather than having overcome this constraint, some highly advanced learners are ‘phonological zombies’: these learners become so adept at employing approximate representations in perception and production that they are indistinguishable from speakers with bona fide phonemic representations.
(また、高度に進んだ学習者の中には、この制約を克服できていないどころか、「音韻ゾンビ」になっている可能性も考えられます。これらの学習者は、知覚と産出において近似的な表現を用いることに非常に熟達しており、本物の音素表現を有する話者と区別がつかなくなります。)

同論文より

「この制約」というのは、「高度にマークされた喉頭特徴のみを含む表現をレンダリングする喉頭入力制約」とのこと(Google翻訳ママ)。なんのことやら…。

そして、音韻ゾンビという概念が導入されている。かみ砕いて解説すると、「本物の音素表現を有する話者」というのがいて、本来ならばフランス語話者はそうなるのが望ましいのだが、「知覚と産出」における「近似的な表現」を用いることで、「本物の音素表現を有する話者」と区別がつかなくなるらしい。

「本物の音素表現を有する話者」を生きた人間と置き、「近似的な表現」の使い手を生きた人間に擬態するゾンビになぞらえている、といったところか。この理解が正しいとしたら、それって結構な侮辱じゃないの…?

あるいは、「音韻」「音素表現」「知覚と産出」などを理解すれば、ゾンビに喩えられるような特徴が見いだせるのかもしれない。残念ながら、私にそのような素養はない。

ちなみに、"phonological zombies"でGoogleスカラーを検索してみたが、この論文を含めて二件しかヒットしなかった。単数形の"phonological zombie"も検索してみたが、こちらも別記事で二件

一件だけ閲覧可能な論文があったので、音韻ゾンビ部分を引用する。下のケースでは、何かしらの発音(=音韻)そのものが復活することを音韻ゾンビと呼んでいるようだ。使われ方が違う。

In the second scenario, the SC comes back to life, but as a phonological zombie, as it were, i.e. as an ‘undead’ rule, by generalizing in a lexically diffuse fashion.
(2 番目のシナリオでは、SC は復活しますが、語彙的に拡散した方法で一般化することにより、いわば音韻ゾンビとして、つまり「アンデッド」ルールとして復活します。)

Proceedings of the 5th Patras International Conference of Graduate students in Linguistics掲載
Frans Hinskens Meertens著
『Of clocks, clouds and sound change』
より

ジャンルは言語学。


ポリオワクチンとがん: 神話の誤りを暴く

二件目。

原題:Polio Vaccine & Cancer: Debunking the Myth
掲載:NewsBreak
著者:Michael Simpson
ジャンル:衛生学

ポリオワクチンがガンを引き起こすという反ワクチン陰謀論について解説するNews Breakの記事。

ポリオワクチンはもちろんポリオを防ぐワクチンのこと。厚労省の以下のページが詳しい。しかしポリオワクチンとガンの陰謀論めいた関連については触れていない。薬害における陰謀論は政府が嘘であると明示すべきではないかと思う。

zombieの単語は次の文で出てくる。

However, given that every anti-vaccine trope, even after being thoroughly debunked, we know it will return as the newest and most favorite anti-vaccine claim, just like a zombie.
(しかし、あらゆる反ワクチンのお決まりの展開として、完全に嘘であることが暴かれた後でも、まるでゾンビのように、最新かつ最も人気のある反ワクチンの主張として戻ってくることを私たちは知っています。)

同記事より

過去、証拠とともに否定された概念が再び蘇る。これはゾンビアイデアの一種である。今回はポリオワクチンが反ワクチンの主張のえじきになり、しかも使い古された内容だったために、ゾンビに喩えられたのだろう。

ジャンルは衛生学。薬害系は衛生学にジャンル分けしている。



検索条件4「zombie -firm -xylazine -biolegend」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

仮想現実のホラーゲームとゲーム内の恐怖

原題:Virtual Reality Horror Games and Fear in Gaming
掲載:Communication
著者:Tammy Jin-Hsuan Lin
ジャンル:ゲームデザイン学かメディア学

「-gender」および「-philosophical」で排除。ゾンビが出てくるゲーム(特にVRゲーム)でプレイヤーがどう恐怖を感じるかを調査した論文。

ゲームのストーリー性に触れるからゲームデザイン学、あるいはVRに注目しているからメディア学。悩む。


新しい用語? 談話、区別、定義

原題:A New Terminology? Discourses, Distinctions, Definitions
掲載:Reboot Culture: Comics, Film, Transmedia
ジャンル:メディア学

「-gender」で排除。様々なメディアで"reboot"という単語が無秩序に乱用されているとして、その定義を紹介する論文。



まとめ

検索条件1は言語学、衛生学が一件ずつだった。

「音韻ゾンビ」が気になる。なぜ言語学でゾンビという表現を使う必要があったのか。気になるが、本物のゾンビを指して使っていないことは間違いない。気になるのも今この瞬間だけで、明日には忘れているだろう。

今回はねらいの論文がなかった。


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