2023/05/18(火)のゾンビ論文 ホラーと女性と加害者と
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」(経済学・哲学・情報科学のゾンビ論文避け)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」(-companyの効果を図るため)
このうち、「zombie -firm -philosophical -DDos」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないか、「zombie」の内容も確認する。また、4月まで経済学のゾンビ論文の排除を目的として「-company」を設定していたが、その効果があるのか改めて測定する。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos」一件
「zombie」一件(差分ゼロ件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -company」一件(排除ゼロ件)
「zombie -firm -philosophical -DDos」の一件は女性学だった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -DDos」
身体、身体、そして身体: ホラーメディアにおける女性の身体
一件目。
原題:Bodies, Bodies, and More Bodies: The Female Body in Horror Media
掲載: Bowling Green State Universityに提出された修士論文
著者:Jenna M. Sule
ジャンル:女性学
タイトルからして、ホラー映画の女性被害者の肉体が執拗なまでに性的に描かれることについての問題提起かと思ったのだが…。『死霊のしたたり』とか『死霊の盆踊り』とか。アブストラクトから主題が分かる部分を抜粋してみよう。
なんと、ホラー映画で女性の加害者が出た際に、彼女らの肉体が作中でどのように描かれているかに注目したのだそうだ。しかも、特に「トランスジェンダー、太った女性、黒人女性など、社会から疎外された女性グループ」に焦点を当てるのだそうだ。非常にアメリカン。
浅学ながら、私は女性が加害者であるホラー映画をほとんど知らない。パッと思いつくのは、『エスター』『スピーシーズX 美しき寄生獣』『ミザリー』くらいだろうか。日本のホラーなら『リング』『呪怨』『仄暗い水の底から』などがあるが、女性の身体に焦点を当てる論文では女性であろうと幽霊はお呼びではないだろう。
この論文に「zombie」の単語が現れるのは、『Dead Rising 3』というゾンビサバイバルゲームから、ダーリーン・フライシャーマッハーという太った女性について論じているためだ。Wikipediaによると、ダーリーンはゾンビ・アポカリプスが起こった世界で正気を失った人間で、七つの大罪のうち暴食を司るボスキャラクターらしい。彼女がどのように性悪に描かれているかを分析・解析した、ということだろう。
ほかに「加害者に描かれる女性の肉体」として例を挙げられているのは、トランスジェンダーとして『サイコ』のノーマン・ベイツに、『Ghostland』のCandy Truck Woman。太った女性として『Monster House』のConstance Nebbercracker、『コララインとボタンの魔女』のエイプリル・スピンクとミリアム・フォーシブル。黒人女性として『マー サイコパスの狂気の地下室』のSue Anne。
例示が正しいとは思えない点もあるが、ゾンビを好き勝手に使わないなら私は別に構わない。とにかく、上記の例を挙げながら女性の肉体と加害者性について論じるようだ。
ジャンルは女性学でよいだろう。女性性に注目して論を展開しているからだ。フェミニズムでもよい。
検索キーワード「zombie」(差分なし)
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
しかし、検索結果は全く同じで、差分はなかった。
検索条件「zombie -firm -philosophical -DDos -company」
ゾンビ企業には"zombie company"という表記もあることから、そういったゾンビ論文を排除するために設定した検索条件。
この検索条件では「zombie -firm -philosophical -DDos」にヒットした論文のうち、「company」の単語を含むゾンビ論文が排除される。その排除される論文が経済学の論文であれば、目的を果たしていることになる。
今回、排除はなかった。フィクションキャラクターに注目する論文なので、「-company」で排除されないのは妥当と言える。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos」の一件は女性学だった。
ジャンルを映画感想文とどちらにするか少々迷った。人文学系の一部は、単なる感想を「他にも同じことを言っている人がいるから!」と参考文献を差し込んで好き勝手論じるケースが多いように見える。そうしたければそうすればよいのだが、客観性が担保されているようには到底思えない。
一方、前回の記事では英文学に関する論文の奥の深さに嘆息した。今回の論文との違いを語るならば、狭い分野領域に対してチューンされ、専門家同士でしか研ぎあうことのできない鋭さを感じたのだ。
具体例を列挙して誰それの主張がこの例にも当てはまる、という論理展開は近視眼的で発展性がない。自分の目の前にあるものだけを観て、見える範囲でだけ使える理論を組み立てるのは、まさしく感想文と呼ぶべきだろう。だから、今回の女性学の論文は感想文としてもよかった。
一応言っておくと、映画レビュアーの中には見える範囲の外でも使用に耐える理論を組み耐える人間もいる。
今日はねらいのゾンビ論文なし。
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