2023/09/19(火)のゾンビ論文 AIでゾンビの脅威度をデザインする

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

  4. 「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)

  5. 「zombie -firm -consciousness」(取りこぼし確認その2)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」/「-consciousness」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-botnet」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、検索条件4と5では、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -botnett -xylazine -biolegend -gender」三件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -viability -gender」三件

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」三件

  4. 「zombie -firm -philosophical」六件(差分三件)

  5. 「zombie -firm -consciousness」二件(条件4との差分四件)

検索条件1-3は教育哲学、評論、ゲームデザイン学が一件ずつだった。



検索条件1「zombie -firm -philosophical -botnet -xylazine -biolegend -gender」

あとがき: 世界的アポカリプスにおけるゾンビの教育と文化: ウォーキング・デッドの教育学

一件目。

原題:Postscript: Zombie education and culture in the global apocalypse: Pedagogies of the walking dead
掲載:Educational Philosophy and Post-Apocalyptical Survivalという本のあとがき
著者:Michael A. PetersとTina Besley
ジャンル:教育哲学

Educational Philosophy and Post-Apocalyptical Survival(教育哲学とアポカリプス後のサバイバル)という本のあとがきのタイトル。本自体はゾンビ・アポカリプスに限定しておらず、各章のタイトルを拾うと、「アフガニスタン戦争」「キリスト教ファシズム」「核戦争の脅威」「気候や生態系の変化」「ポスト真実」など、世界の終わりとして考えられる様々な要因が挙げられている。

ただ、ゾンビが関係ありそうなものはあとがきしかない。どうやら比較的現実的な世界の終焉を想定して本を執筆したらしい。そして、あとがきでのみゾンビ・アポカリプスに言及したということは、たとえば「ゾンビによる終焉でも興味を持ってもらえればよいかも」くらいの触れ方をしていると想像できる。アメリカにおいて、ゾンビはすっかり教育ツールのひとつになってしまったのか。

ジャンルは教育哲学。教育学でよいと思うのだが、本にそう書いてあるので。


企業生物学が母なる自然に巻き込まれるとき: Netflix のバイラルホラー「ザ・レイン」の分析

二件目。

原題:When Corporate Biology Gets Caught up with Mother Nature: An Analysis of the Netflix Viral Horror the Rain
掲載:Contemporary Horror on Screen
著者:Richard Pamatatau
ジャンル:評論(西洋中心主義批評)

タイトルの通り、ネトフリ作品『ザ・レイン』の分析をする論文。『ザ・レイン』は北欧を舞台にしたゾンビドラマで、雨によってウイルスが拡散することでゾンビ・パンデミックが広がるらしい。また、雨によって拡散されたウイルスの魔の手は自然界にもおよび、自然が不自然への変貌する様子も描写されるとのこと。各話40分程度らしいし、面白そうだから見てみよう。

論文自体は、雨の解釈や企業の権力性、西洋主義への警鐘などを、この作品から読み取るようだ。標準的な欧米人文学評論といったところか。

雨でウイルスが広がるというのは『バタリアン』でもあったし、ちょっと違うが『ゾンビーバー』は川に落ちた有害物質が川に拡散することでビーバーがゾンビ化する物語だ。同じ調子で『ゾンビーバー』も読み解いてみてほしい。探してみたが、『ゾンビーバー』専門の評論論文はなかった。悲しい。

ジャンルは評論。細分化するならば、西洋中心主義批評といったところか。


人工知能を活用してホラーゲームに緊張感をもたらす体験を生み出す

三件目。

原題:Using Artificial Intelligence to Create Tension Inducing Experiences in Horror Games
掲載:University of Skövdeに提出された修士論文
著者:Rivindu Wickramarachchi
ジャンル:ゲームデザイン学

ゲームのレベルデザインをするためにAIを活用する論文。その事例として、ゾンビがプレイヤーを襲うための思考ルーチンにAIが搭載され、プレイヤーにとってちょうどよい難しさを提供することで緊張感がもたらされるケースを紹介している。

ゾンビを倒すゲームを扱う論文は多く、ゾンビを撃ちまくるリアル系統のFPSの感覚がプレイヤーに与える心理的影響やゾンビと対峙するVRゲームのリアル感を高めるためのフィードバック機構に関する論文が主である。この論文のようなホラーゲームに注力した論文は珍しいように思う。

ジャンルはゲームデザイン学。



検索条件1-3の差分(差分なし)

「DDoS/botnet」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は差分がなかった。



検索条件4と5「zombie -firm -philosophical / consciousness」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。

また、哲学的ゾンビのみを排除するには「-philosphical」(哲学的な)と「-cousciousness」(意識)のどちらが良いかを探るために、検索条件の4と5を比較する。

前者は哲学的ゾンビが英語でphilosophical zombieとつづることから、後者は哲学的ゾンビが人間の意識の有無に注目した概念であることから、それぞれ排除可能と想定している。

今回は、検索条件4で七件、つまり検索条件1-3との差分が三件ヒットした。一方、検索条件5では三件のみヒットし、過剰に排除していた。

主観の変化:『マザー』と『ゲット・アウト』で他者の視点を取り入れる

原題:Shifting Subjectivities: Adopting the Perspective of the Other in Mother and Get Out
掲載:Contemporary Horror on Screen
著者:Melanie Robson
ジャンル:評論

「-gender」で排除された。検索条件4にのみヒット。

マザー!』と『ゲット・アウト』が主人公に母親を選んだことの新しさを論じる。今まではホラー映画の母親というのは主人公にとって「外部」の人間だったらしく、母親が主人公になるのは珍しいのだとか。そんなことないと思うけど。


「説教する殺人者」: 現代アメリカのミュージカルにおけるホラーと「ヴィクトリア朝」文化テキスト

原題:"Killers Who Preach": Horror and the" Victorian" Culture Text in the Modern American Musical
掲載:Northern Illinois Universityに提出された博士論文(リンクはProQuest)
著者:Amy Erickson
ジャンル:評論

おそらく「-gender」で排除。検索条件4にのみヒット。

まあ、本物のゾンビを扱った論文ではないだろう。タイトルを読めば内容もあらかた想像がつく。

ProQuestの論文は一定期間がたつと消えてしまうので、どうにか排除したいのだが、正直に「-ProQuest」とでも検索キーワードに入れておけばよいのだろうか。


スクリーン上のシェイクスピア: ロミオとジュリエット

原題:Shakespeare on Screen: Romeo and Juliet
掲載:Shakespeare on Screenという本
著者:Victroa BladenとSarah Hatchuel、Nathalie Vienne-Guerrinの三名
ジャンル:評論

おそらく「-gender」で排除。検索条件4にのみヒット。

シェイクスピアとゾンビの論文はつい先日扱ったばかりだ。それとどれほど異なるのか、アブストラクトからだけではわからない。


検索条件5「zombie -firm -consciousness」で排除された論文

検索条件4と比較して以下の四件が排除されていた。

  • あとがき: 世界的アポカリプスにおけるゾンビの教育と文化: ウォーキング・デッドの教育学(教育哲学)

  • 主観の変化:『マザー』と『ゲット・アウト』で他者の視点を取り入れる(評論)

  • 「説教する殺人者」: 現代アメリカのミュージカルにおけるホラーと「ヴィクトリア朝」文化テキスト(評論)

  • スクリーン上のシェイクスピア: ロミオとジュリエット(評論)

一番上の論文は教育哲学を名乗るくらいだから、もしかしたら哲学的ゾンビに触れていたかもしれない。表題からして、その可能性は著しく低いと考えられるが。

残りの評論のゾンビ論文は可能性がさらに低い。というか、評論の「-consciousness」排除率は異常に高いように思う。

したがって、今回も「-consciousness」が哲学的ゾンビを排除するのに適していないことがわかった。ただ、評論を排除しすぎる点はよいかもしれない。最初の目的こそ哲学的ゾンビの排除だったが、本物のゾンビの論文さえ排除していなければ、アラートチェックが楽になるのでむしろ採用すべきかもしれない。



まとめ

検索条件1-3は教育哲学、評論、ゲームデザイン学が一件ずつだった。

教育哲学の論文は、「世界の終焉にあたってどう生きるか?」を提示する論文だと考えられる。ただ、そうそう世界に終焉は訪れない。終末時計とかいう不謹慎ギャグが示すように、本物の脅威が現れたとしても世界は中々滅びない。さらに、脅威が世界を覆っても、人間世界が滅びるとも思えない。文明世界は滅びるかもしれないが、世界の舵を取る人間が変わるだけだ。

となれば、「世界の終焉にあたってどう生きるか?」という問いはほとんどフィクションに等しい。であれば、世界の終焉がゾンビによってもたらされても、現実に存在する本物の脅威によってもたらされても、大差ないはずだ。

だから私は期待した。ゾンビに触れていれば、この論文は本物のゾンビ論文と判定してもよいのではないかと。だが、ゾンビはあとがきで触れる程度だった。ゾンビはしょせん中々起こりえない仮定にも満たないフィクションなのだ。悲しい。

今回はねらいの論文がなかった。


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