2023/06/27(火)のゾンビ論文 コロナ禍前後でゾンビゲームはどう変わったか?
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」(メイン)
「zombie」(取りこぼしがないか確認する目的)
メインの検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグことキシラジンに関する論文を排除する
「-viability」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。
それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」四件
「zombie」十件(差分六件)
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」は文学、比較文化学、ゲームデザイン学、情報科学が一件ずつだった。
検索キーワード「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」
エレン・オー作『ゾンビ犬ヒーロー、ハル』
原題:Haru, Zombie Dog Hero by Ellen Oh
掲載:Bulletin of the Center for Children's Books
著者:Danica Ronquillo
ジャンル:文学
Ellen Ohという作家が書いた小説『Haru, Zombie Dog Hero』のレビュー。人間ではなく犬がゾンビであるが、新しいパターンとして認識しておこう。
ジャンルを感想文にするか悩んだが、児童書の分析を感想文とするのはあまり好きではない。なぜなら、児童書には子供向けの学びが直接的に描かれていると思っているからだ。書いてあることを読めば即座に理解できる教訓は感想文たり得ない。どちらかと言えばビブリオバトルのような書籍紹介と呼んだ方がよいだろう。ということで、ジャンルを文学とした。児童文学でもよいかもしれない。
アブストラクトを読んだ所感では、本当に小説の紹介をする論文らしい。たとえば、アブストラクトには以下の一文がある。
このような若い読者への教訓が書かれている、と紹介されている。そして、これ以降には小説のあらすじ紹介が続く。
いたるところにミュータントとゾンビが! 悪役、暴力、利己主義: ポスト黙示録的 (パンデミック) ビデオ ゲームにおける人類の問い
二件目。
原題:Mutants and Zombies Everywhere! Or Villains, Violence, and Selfishness: Questions of Humanity in the Post-apocalyptic (Pandemic) Video Game
掲載:Games and Culture
著者:Phil Wintle
ジャンル:比較文化学?
ミュータントやゾンビが出てくるゲームの分析。詳細な内容をアブストラクトより引用する。
私はフィクション作品から制作当時の政治・思想・文化・歴史をうかがい知ることが好きだ。たとえば、『ゴジラ』(1954)を観て、戦後の勃興期の雰囲気に触れられるのがとても好きだ。ゴジラから避難する際の「また疎開か」というセリフ、目の前に迫りくるゴジラを目の前に母親が子供を抱きしめながら発した「もうすぐお父ちゃんのところへ行くからね」というセリフ。
しかし、これは戦後という比較的わかりやすい時代だから読み取れることだ。有名でない時代や全くの異文化をフィクションとして楽しむのは難しいものがある。何も知らない現代の日本人が『フォレスト・ガンプ』を観てその偉大さを知るためにはガイドが必要なのだ。
この論文はコロナ禍で作られたゲームにおける政治・思想・文化・歴史を後世に伝える格好の教材になるのだろう。この論文に限らず、似たような論文が書かれることは大変喜ばしい。
ただ問題がひとつあり、このような論文には歴史を定義する力があるのだ。本当はそうでないことでも、あるいはただのイチ側面でしかないことでも、宣言すれば正しい歴史だったことになってしまうのだ。誤認された歴史を保存しないためには、現在に生きる私たちがこのような論文、あるいは報告が出てきたときに批判的に検証する必要がある。
本題と全く関係ない話をしてしまったが、この論文に関して思うところは伝わったことと思う。本論文に関してはこれでおしまいとする。
ジャンルは比較文化学とした。コロナ禍前後の文化を比較して報告しているからだ。
ビデオ ゲームの読み込みインターフェイスとプロセスの設計品質に関する分類法の提案
三件目。
原題:A Proposed Taxonomy for the Design Qualities of Video Game Loading Interfaces and Processes
掲載:Proceedings of DiGRA 2023(Research Gate)
著者:David AntognoliとJoshua A. Fisher
ジャンル:ゲームデザイン学
zombieの単語は必ず"Double Zombie Door"という文字列で現れる。これは『バイオハザード2』に出てくるローディング画面のことらしい。
曰く、通常はステージを移動する際にロード画面としてドアを開くシーンが出てくる("Normal Loading Door"と定義)が、"Double Zombie Door"ではローディングでドアを開くと同時にゾンビがロードされ、さらに追加でゾンビがロードされるためにゾンビが二体出てくるというものだ。ゆえに、"Double Zombie"であると。
論文のタイトルが「読み込みインターフェイス」であるから、ゲームのロードの仕組みについて述べているのだろう。設計品質というのは、上の例でいえば「ゾンビが2体出てくるのはゲームの品質的にどうなの?」と解釈してよいだろう。
その分類法を提案するというのであるから、『バイオハザード2』以外のゲームもある。紹介されているのは『Mass Effect』、『Mass Effect 2』、『アサシンクリード』。各ゲームの詳細については触れずに、おいておく。
ジャンルはゲームデザイン学。
段階的なタイピング パフォーマンスの GTPのベンチマーク
四件目。
原題:GTP Benchmarks for Gradual Typing Performance
掲載:Proceedings of ACM REP 2023
著者:Ben Greenman
ジャンル:情報科学
ベンチマークというと、いくつかの競合製品を同じ条件で比較してスペックを付けるものだと理解しているが、それを"Gradual Typing Performance"という観点で行ったということだろうか。"Gradual Typing Performance"の定義は以下の通り。
私には何もわからないが、専門知識のある人間には理解可能なのだろうか。
zombieの単語はベンチマークの対象として現れる。そもそも何を目的として、比較対象として何を持ってきたベンチマークなのか、読み取れない。だれかがzombieという名の何かを開発したということなのだと想像するが、果たしてそれも正しいかどうか…。
ジャンルは情報科学。コンピュータにかかわることであるため。
検索キーワード「zombie」
このキーワードでは「zombie」ゾンビ論文がアラートに入ってくる。誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。
適者生存: ゾンビ企業と非ゾンビ企業の財務特性の比較分析
原題:Survival of the Fittest: A Comparative Analysis of Financial Characteristics of Zombie and Non-zombie Firms
掲載:Jönköping Universityに提出された修士論文
著者:Benjamin Larin
ジャンル:経済学
本文に"zombie firm"の文字列あり。タイトルからしてもゾンビ企業の論文。
YP-P10 ペプチドは、ヒト血液由来のエフェクター CD4+ T 細胞サブセットの in vitro モデルにおいて、Th2 細胞と Th17 細胞を選択的に減少させる
原題:YP-P10 Peptide selectively decreased Th2 and Th17 cells in an in vitro model of human blood-derived effector CD4+ T-cell subsets.
掲載:ARVO Annual Meeting Abstract
著者:Virginia L Calderを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学
タイトルからして医学。また、"Zombie dye (Biolegend)"の文字列を確認。ゾンビ試薬のことである。
黒色腫関連網膜症における網膜ON双極細胞による抗体内部移行のメカニズム
原題:Mechanisms of Antibody Internalization by Retinal ON-Bipolar Cells in Melanoma-Associated Retinopathy
掲載:ARVO Annual Meeting Abstract
著者:Ryan Hechtを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学
上の論文と掲載誌が同じ。Proceedingsらしい。使われたのは"zombie NIR"。
XIAPは、細胞の外因性および内因性のメカニズムを通じてそれぞれCD8 T-細胞応答の拡大を促進し、収縮を制限します。
原題:XIAP promotes the expansion and limits the contraction of CD8 T cell response through cell extrinsic and intrinsic mechanisms respectively
掲載:Plos Global Public Health
著者:Parva Thakkerを筆頭著者として六名
ジャンル:医学
"zombie Yellow"というゾンビ試薬を使った論文。
最新の暗号解析手法、高度なネットワーク攻撃、クラウド セキュリティ
原題:Modern Cryptanalysis Methods, Advanced Network Attacks and Cloud Security
掲載:Classical and Modern Cryptography for Beginners
著者:Rajkumar BanothとRekha Regar
ジャンル:情報科学
Googleアラートのメールより以下の一文が確認されたため、ゾンビPCに関する論文。「-DDoS」で排除された。
環境情報開示と融資活動の断絶
原題:The Disconnect Between Environmental Disclosures and Lending Activities
掲載:ecgi working papers
著者:Mariassunta Giannettiを筆頭著者として四名
ジャンル:経済学
"zombie firm"の文字列が見つかったため、ゾンビ企業の論文。ほかにも"zombie lending"、"zombie borrower"など。
まとめ
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」は文学、比較文化学、ゲームデザイン学、情報科学が一件ずつだった。
比較文化学の一件は、おそらく以前に全く真逆のことを言っていた気がする。たとえば、「時代に即していようが単なる感想文に興味を惹かれえない」といった。今回の論文でもそのような気持ちがないではないが、それでも感想文ではなくきちんとした学問だと捉えた。
この違いが何なのか。想像するに、目的と手段を正確に把握したからではないかと思う。今まで感想文として切断してきた論文たちは目的がわからなかった。おおよそ自己満足、たとえば「自分が知りたかったから」という目的を透かして見ていた。そして、手段が自分の感想とそれを否定しない先人の感想の引用であるように見えていた。自己満足、かつ欺瞞にも見える擁護であると認知していれば、それは確かに切断したくなる。
しかし今回は目的が自分の好みに合致していたために正確に認識できた。そして、手段についても(この記事では触れていないが)把握した。醜い、恥ずべき理由であるように思う。これを契機に感想文というジャンル分けを極力しないよう努めたい。元々控えようと思ってもいたし。
今日はねらいのゾンビ論文なし。
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