2023/11/18(土)のゾンビ論文 撤回された後も生き続ける学術論文、ゾンビ文献

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender

  2. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、検索条件2では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」三件

  2. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」三件(差分はゼロ件)

検索条件1は情報工学、書評、ゲームデザイン学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

ゾンビ論文、データ大洪水コラム

一件目。

原題:Zombie papers, the Data Deluge column
掲載:Library Hi Tech News
著者:Donna Ellen Frederick
ジャンル:情報工学

ChatGPTのようなAIソフトに論文を探させて勝手に学習させるという動向がある。しかし、論文には何かしらの不備が後から発見されて撤回されるものもあり、AIソフトはそのような論文を拾って学習に使用してしまう。このような、撤回されたにも関わらず活用されてしまう論文をゾンビ論文と呼び、その概説を行っている。

AIの応用に関する話が主題であるから、ジャンルは情報工学で良いだろう。


マイケル・K・ジョンソン著『思索的な西部: 地域とジャンルの人気のある表現』

二件目。

原題:Speculative Wests: Popular Representations of a Region and Genre. By Michael K. Johnson
掲載:The Western Historical Quarterly
著者:Brenden W Rensink
ジャンル:書評

西部劇を下敷きにした様々な物語について分析した、Michael K. Johnson著『Speculative Wests: Popular Representations of a Region and Genre』の書評。西部劇をベースにしたゾンビの話もあるらしい。ちょっと心当たりがないが…。

ジャンルは書評。


The Parable Task での共同ストーリーテリング: 普及パフォーマンスにおけるゲーム デザイナーとしての劇作家

三件目。

原題:Collaborative Storytelling in The Parable Task: The Dramaturg as Game Designer in Pervasive Performance
掲載:University of Massachusetts Amherstに提出された修士論文
著者:Percival Hornak
ジャンル:ゲームデザイン学

『Humans V Zombies』というSteamでプレイできるゲームのゲームデザインを分析した論文。要するにゾンビが出てくるゲームのゾンビだ。それ以上のことは立ち入らない。

ジャンルはゲームデザイン学。



検索条件4「zombie -firm -xylazine -biolegend」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

「狂気の悪夢のよう」: 真夜中のバワリーにおけるノイリッシュな吸血鬼主義と逸脱

原題:“Like a crazy nightmare”: Noirish Vampirism and Deviance in Bowery at Midnight
掲載:ReFocus: The Films of Wallace Foxの第五章
著者:Marlisa Santos
ジャンル:評論

「-gender」で排除。様々なホラー映画の評論。なぜゾンビは吸血鬼と一緒に語られることが多いのだろうか。日本で吸血鬼はあまり人気がないからか、私にはわからない。


幼児教育におけるばかげた攻撃的な遊びが(見えない): 子どもたちの理解

原題:(In)visibilidade das brincadeiras lúdico-agressivas na educação infantil: compreensões a partir das crianças
掲載:LINHAS CRITICAS
著者:Raquel Firmino Magalhães BarbosaとBeatriz Pereira
ジャンル:教育学

「-gender」で排除。ゾンビを倒すゲームを扱っている。


悲しみと児童心理ドラマ

原題:Grief and child psychodrama
掲載:Zeitschrift für Psychodrama und Soziometri
著者:Csilla Kubovics-Juhászを筆頭著者として、四名
ジャンル:心理学

「-gender」で排除と推測。タイトルからして、ゾンビが出てくるドラマを見た児童に心理、主に悲しみ?を分析する論文だろう。


アン・ウルス著『まったくの幽霊ではない』

原題:Not Quite a Ghost by Anne Ursu
掲載:Johns Hopkins University Press
著者:Kate Quealy-Gainer
ジャンル:心理学

「-gender」で排除。いくつかの紹介文に目を通したが、ゾンビではなく幽霊が出てくる小説のようだ。その書評。


アフロフューチャリズムと投機的転換

原題:Afrofuturism and the Speculative Turn
掲載:The Cambridge Companion to Contemporary African American Literature
著者:Madhu Dubey
ジャンル:評論

「-gender」で排除と推測。Googleブックスで一部閲覧できるのだが、zombieもgenderもphilosophicalも引っ掛からない。だが、「アフロ」でzombieときたら、フェラ・クティが扱われていると予測できる。


トム・テイラー著『ゲーム: 動物、ビデオゲーム、そして人類』

原題:Game: Animals, Video Games, and Humanity by Tom Tyler
掲載:Configurations
著者:Kaori Nagai
ジャンル:書評

「-philosophical」で排除。ゾンビが出てくるゲームを扱った『Game』というエッセイの書評。



まとめ

検索条件1は情報工学、書評、ゲームデザイン学が一件ずつだった。

私はこれまで「zombieの単語が出てくる論文」をゾンビ論文と呼ぶこととしていたが、まさか本当にゾンビ論文(原語:zombie paper)なるものが存在するとは思っていなかった。

早速Googleスカラーで調べてみたが、ヒット件数は33件。私がこよなく愛するSZRモデルも"zombie paper"と呼ばれているし、ゾンビ映画を題材にしているからゾンビ論文と呼ぶことも、スパムをゾンビになぞらえてゾンビ論文と呼ぶケースも見られる。つまり、様々な研究者がそれぞれの定義で好き勝手にゾンビ論文を呼称し、利用しているということだ。あるいは、ゾンビ新聞という意味でzombie paperという単語を使っていることもある。

ということで、私が気づかなかったのも無理がない。ヒット件数が少なく、かつ好き勝手な定義で使われているのだから。しかし以下の通り、「撤回されたにも関わらず後続の研究に影響してしまう」という意味でzombie paperという言葉を使っているケースも、いくつかあった。"zombie literature"(ゾンビ文献)という言葉が見られるため、私定義のゾンビ論文と区別するために「ゾンビ文献」を使うこととする。

We have witnessed the development of the so-called “zombie literature”: more often than expected, retracted papers continue to be cited in a positive way, as if they were still a valid science1. This is due to a variety of reasons, but chiefly has been attributed to the lack of clear and consistent flagging of retracted papers (often only the retracting note is available) and to the lack of a central repository, for all retracted papers, which could be used for checking the status of the literature cited by a given manuscript in preparation.
私たちは、いわゆる「ゾンビ文献」の発展を目の当たりにしてきました。予想よりも多くの場合、撤回された論文は、あたかもまだ有効な科学であるかのように、肯定的に引用され続けています。これにはさまざまな理由がありますが、主に、撤回された論文に対する明確かつ一貫したフラグ付けがされていないこと (多くの場合、撤回メモのみが利用可能) と、すべての撤回された論文に対する中央リポジトリの欠如が原因とされています。)

Nature Cell Death & Disease掲載
Enrico M. Bucci著
『On zombie papers』より

… Rather, in scientific publishing, the phrase “zombie literature” refers to papers, deemed invalid for any number of scientific reasons, that are retracted by the journals that published them yet continue to be cited without any apparent acknowledgment of their lack of validity (e.g., ref. 1).
(…むしろ、科学出版において「ゾンビ文献」という言葉は、科学的理由で無効であるとみなされた論文を、その論文を発行した雑誌によって撤回されたにもかかわらず、正当性の欠如を明確に認めずに引用され続けている論文を指します(例えば、参考文献 1)。)

PNAS掲載
May R. Berenbaum著
『EDITORIALOn zombies, struldbrugs, and other horrors of thescientific literature』より

Zombies are the walking dead. In scientific literature, the Zombie Papers continue to exist and do not die even after the retraction which in itself is a slow process, inconsistent, and inadequate. The top-level evidence and practice guidelines based upon systematic review and meta-analysis get contaminated by the false data from paper mills and Zombie Papers. Science relies on trust. The research and publication of evidence must be ethical and trustworthy.
(ゾンビはウォーキング・デッドです。科学文献では、ゾンビ論文は撤回後も存在し続け、消滅することはありませんが、それ自体がプロセスが遅く、一貫性がなく、不十分です。系統的レビューとメタ分析に基づいたトップレベルの証拠と実践ガイドラインは、製紙工場やゾンビペーパーからの虚偽のデータによって汚染されています。)

Journal of Karnali Academy of Health Sciences掲載
Jenifei Shahら著
『Zombie Papers: A Threat to Science』より

日本版Googleでも検索してみたところ、いくつかヒットした。

 これは私も何度も記事にするなど、最悪の研究不正として一部では知られる元弘前大の研究者S氏の論文が、撤回されたにもかかわらず引用され続けているという事実を指摘する記事です。一部では診療ガイドラインにさえ根拠として引用されているわけです。
 これらは「ゾンビ論文」と呼ばれています。撤回され「死んでいる」にもかかわらず、引用され続け影響を与え続けるということです。
 一部では撤回論文を注意喚起するなどこうした状況に対処する動きも出ていますが、長期にわたって科学コミュニティを混乱に陥れ、患者に害を与えるわけです。

Hatena Blog 科学・政策と社会ニュースクリップ掲載
カセイケン著
『日本発「ゾンビ論文」の恐怖』より

しかし、いったん不正が検出されて論文が撤回されても、虚偽または不正確な科学的知識がその後の研究過程に影響を及ぼし続ける可能性への懸念が残ります。つまり、ゾンビ論文現象に見られるように、撤回された論文が、さらには撤回された論文を引用した論文が、高い頻度で引用され続ける可能性があるのです。

Forte掲載
『不正研究の出版の防ぐ』より

ちなみに、日本版Googleで「"ゾンビ論文"」を検索すると私の記事がトップに来た。自分のGoogleだけ?だけじゃなかったらすげーうれしい。

今回はねらいの論文がなかった。


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