2023/08/15(火)のゾンビ論文 ゾンビと不死者を特定する

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」

  4. 「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)

  5. 「zombie」(取りこぼし確認その2)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。ただし、条件4の通り、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは完全な排除をねらう。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」一件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」一件

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」一件

  4. 「zombie -firm -philosophical」二件(差分一件)

  5. 「zombie」三件(条件4との差分一件)

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は医学が一件だった。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

生命状態を確認してデータベースから「ゾンビ」を見つける

一件目。

原題:Finding “Zombies” in Your Database by Confirming Vital Status
掲載:Journal of Registry Management
著者:David K. O'Brien
ジャンル:医学

この論文におけるゾンビの扱いを端的に表す文章を引用する。

Cases incorrectly reported as deceased are referred to here as “zombies,” as they are the “living dead” in the registry database. Zombie cases are problematic as they contribute toward artificially high mortality rates and artificially low survival rates. They are the opposite of “immortals,” a term used in the literature to indicate cases that are alive in the registry database but are actually deceased.
誤って死亡者として報告された症例は、登録データベースでは「生ける死者」であるため、ここでは「ゾンビ」と呼ばれています。ゾンビの例は、人為的に高い死亡率と人為的に低い生存率をもたらすため、問題です。これらは、登録データベース内では生きているが、実際には死亡しているケースを指す文献で使用される用語「不死者」とは対極です。)

データベース上では「死亡」として登録されているが、実際には生きているという状態をゾンビと呼んでおり、一方、データベース上では「生存」として登録されているが、実際には死んでいるという状態は"immortal"(不死者)と呼んでいる、と。

フィクションで「あいつはもう助からない」と言われた人間がもしも生きて帰ってきたら、確かにまずゾンビであることを疑う。その点では、死んだと思ったら生きていた場合をゾンビと表現することは極めて妥当に思える。一方、生きていると信じているのに実際は死んでいたら、それを確認するまでは間違いなく死んでいない。というか、死体が一生見られなければ確認できない。その点では確かに不死と評して差し支えないように思う。

驚くべきことは、ワシントンポストが「半分死んで半分生きているから、新自由主義はゾンビ」などと雑なレビューをする一方で、データベース管理者がゾンビと不死者をきちんと定義づけて分別している点だ。別に「死んでいると思ったが生きていた。だから不死なのだ」と定義してもよいし、「生きていると思ったが死んでいた。私たちはゾンビを生者と誤解していたのだ」と定義してもよいのだ。もっと言えば、片方をゾンビA、もう片方をゾンビBと雑に定義しても誰も困らない。しかしきちんと定義している。そこに私は強く感心した。目的をもって定義したとはいえ、だ。

ここでいう「データベース」というのは、"Alaska Cancer Registry (ACR)"(アラスカがん記録)のこと。がん患者の状態や治療歴を記録するデータベースである。

そのデータベースにゾンビが現れると、死んでないのに死んでいることにされるため、ここからデータを抜き出して使う場合に不適切な結論が導き出される危険がある。そこでこの論文では、ゾンビを特定する手段を編み出し、その後の経過を調べ、報告している。

ジャンルは医学。内容を一般化すれば情報工学でも通りそうだが、医学目的に特化しているように感じられたため、医学とした。



検索条件1-3の差分(差分なし)

「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は差分がなかった。

生存しているか死亡しているかを調べる論文がひっかったのだから、「viability/biolegend」で差分があってもよさそうなものだが。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。

ディズニーのゾンビ三部作における黒人の怪物性と白人のレトリック

原題:Black monstrosity and the rhetoric of whiteness in Disney’s Zombies trilogy
掲載:Critical Studies in Media Communication
著者:Linsay M. CramerとGabriel A. Cruz
ジャンル:メディア学

おそらく「-gender」で排除。これは経験則だが、論文で黒人を扱う場合は同時に女性差別にも触れるケースが非常に多いからだ。不文律…欧米流の同調圧力がありそうだ。

しかしディズニーにゾンビ三部作があるだなんて初めて知った。内容は『フリークスシティ』によく似ているように思う。



検索キーワード「zombie」

「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。上記条件からも排除され、こちらの条件でのみ引っかかった論文がゾンビ企業・哲学的ゾンビの論文であれば、ねらい通りといえる。

利息と固定資本の形成

原題:INTEREST EXPENSES & FIXED CAPITAL FORMATION
掲載:Umeå Universityに提出された論文
著者:Henrik Östlund
ジャンル:経済学

「-firm」で排除。ゾンビ企業についての記述がある論文。



まとめ

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は医学が一件だった。

ゾンビと不死者の対応は面白い。死んでいると思ったが生きていたらゾンビ、生きていると思ったが実は死んでいたら不死者。前者は漫画でよく見た記憶がある。たとえば、アバン先生が「幽霊じゃないですよね」とかなんとか言われていたような気がする。

一方、後者は漫画でもほかでも見た記憶がない。思い出すのは「カイトは生きている!」だが、すぐ次のページで死んでいることが明かされたし、この例に漏れず行方不明になったキャラクターの安否はドラマになるため明かされないままということはあり得ない。

そう考えると、不死者に該当するのは猿空間ではないだろうか。生きているキャラクターの姿が突然見えなくなる。死んでいないはずだが、その後永遠に漫画に出てくることはない。読者の中では生きている(=データベース上では生きている)が、漫画のメタ的観点から言えば死んでいるといって差し支えない。猿空間は死から切り離された異空間だったのだ。

今日はねらいのゾンビ論文なし。


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