2023/08/25(金)のゾンビ論文 死を忌避するゾンビヒューマニズム

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」

  4. 「zombie -firm -philosophical」(取りこぼし確認)

  5. 「zombie」(取りこぼし確認その2)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」/「-bot」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-viability」/「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

また、「zombie」の内容も確認するのは、上記の検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる目的である。ただし、条件4の通り、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは完全な排除をねらう。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」一件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」ゼロ件

  3. 「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」ゼロ件

  4. 「zombie -firm -philosophical」二件(差分一件)

  5. 「zombie」三件(条件4との差分一件)

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は情報科学が一件だった。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」

重要インフラの回復力と持続可能性のリーダー

一件目。

原題:Critical Infrastructure Resilience and Sustainability Reader
掲載:このタイトルの本がある
著者:Ted G. Lewis
ジャンル:社会工学

"zombie computer"(ゾンビPC)の文字列がよく見られる。ゾンビPCはコンピュータウイルスに感染し、サーバへ集中アクセスをしてダウンさせるというDDoS攻撃に使われるコンピュータのこと。DDoS攻撃に特化した本ではなく、インフラの一種としてサイバーセキュリティに言及している。

Through the book, you'll examine the intersection of cybersecurity, climate change, and sustainability as you reconsider and reexamine the resilience of your infrastructure systems.
(『Critical Infrastructure Resilience and Sustainability Reader』では、Ted G. Lewis が、保護が必要なインフラストラクチャ、その保護方法、障害の影響について明快で説得力のある議論を行っています。本書を通じて、インフラシステムの復元力を再検討し、サイバーセキュリティ、気候変動、持続可能性の接点を考察します。)

WILEY 『Critical Infrastructure Resilience and Sustainability Reader』より



検索条件1-3の差分

「DDoS/bot」と「viability/biolegend」で検索結果に差異が生じるか調べる。

今回は「DDoS/bot」に差分が見られた。

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」一件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -viability -gender」ゼロ件
「zombie -firm -philosophical -DDos -xylazine -biolegend -gender」ゼロ件

差分だったのは次の一件。

重要インフラの回復力と持続可能性の読者

DDoS攻撃に関する言及があったため、差分となった。また、「-bot」ではなく「-botnet」であればアラートから排除できることを確認した。



検索キーワード「zombie -firm -philosophical」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業と哲学的ゾンビは意図的に取りこぼすこととする。

パンデミックの子犬: (ポスト?) パンデミック時代の多分野

原題:Pandemic Puppy: Polydisciplinamory in (Post?) Pandemic Times
掲載:Cultural Studies↔ Critical Methodologies
著者:Stacy Holman JonesとDaniel X Harris
ジャンル:人文学

アブストラクトから論文の概要を引用する。

This performative piece considers human–animal relations in pandemic and post(?) pandemic times, in particular the exponential increase in pet adoptions during the COVID-19 lockdowns and the subsequent spectacular rise in pet relinquishments and abandonments following the easing of lockdowns and restrictions. We consider Jack Halberstam’s argument around the “zombie humanism” of pet ownership in relation to Donna Haraway’s ideas on human–animal kinship and …
(このパフォーマティブな作品は、パンデミックおよびパンデミック後(?)の時代における人間と動物の関係、特に新型コロナウイルス感染症によるロックダウン中のペットの養子縁組の急激な増加と、その後のロックダウンや制限緩和後の驚異的にペットの放棄や遺棄の増加について考察しています。私たちは、ペットの所有に関する「ゾンビ・ヒューマニズム」をめぐるジャック・ハルバースタムの議論を、人間と動物の親族関係に関するドナ・ハラウェイの考えと関連づけて考察し、そして…)

Cultural Studies↔ Critical Methodologies 『Pandemic Puppy: Polydisciplinamory in (Post?) Pandemic Times』より

"zombie humanism"は過去にも扱ったことがある。その時も『Deep Canine Topography: Captive-Zombies or Free-Flowing Relational Bodies?』というペットに関する論文だった。

この記事を書いた時にはゾンビ・ヒューマニズムについて理解できなかったが、ゾンビ論文のアラートチェックを通して人文学的な思考が身についてきたのか、ある程度分かるようになった気がする。ゾンビ・ヒューマニズムを説明する文章を以下に引用する。

In this talk, Halberstam argued against new versions of humanism that seek life at all costs, that seek to extend life, prolong life, invest in the good life, and that see death as the ultimate form of failure. Halberstam used the metaphor of the zombie to explore new dynamics between prolonged life for the wealthy and the diminished opportunities for longevity for everyone else. Our current matrix of extended life can be understood in terms of the bio-political but this is a ‘zombie biopolitics’ that creates new balancing acts between bio- and necro-political regimes. Zombie humanism, accordingly, arrogates liveliness, dynamism, vibrancy and resonance for itself and consigns all other forms of being to the status of inertia and stasis.
(この講演でHalberstamは、どんな犠牲を払ってでも生を求め、寿命を延ばし、良い人生に投資し、死を究極の失敗の形と見なすというヒューマニズムの新しいバージョンへの反対意見を表明しました。 Halberstamは、ゾンビをメタファーとして使い、裕福な人々の寿命の延長と、それ以外のすべての人の長寿の機会が減ることとの間にある新しいダイナミクスを探りました。私たちの現在の延長された寿命のマトリックスは、生政治の観点から理解することができますが、これは生政治体制と崩壊した政治体制の間に新しいバランスをとる行為を生み出す「ゾンビ生政治」です。したがって、ゾンビ・ヒューマニズムは、活気、ダイナミズム、活力、共鳴をそれ自体のために放棄し、他のすべての存在形態を慣性と停滞の状態に委ねます。

ici-Berlin 『Jack Halberstam: Zombie Humanism at the End of the World』より

何が何でも死を否定し、生きることを諦めないヒューマニズムがある。それは生きるために生きているがゆえに目的に乏しく、その人生は停滞してしまう、といったところだろうか。「何が君の幸せ?何をして喜ぶ?」という問いを持たぬままに、ただただ生き延びることは人間性を失ったゾンビに身を落とすことに等しい。それがゾンビ・ヒューマニズムなのだろう。ゾンビ生政治というのは何なのかわからないが…。

そして、元の論文に戻れば、無目的に生きているにも関わらずコロナ禍から来る死の恐怖から逃れるためにペットを飼い、そして捨てる、という文脈でゾンビ・ヒューマニズムを引用しながら批判するのだろう。

論文の内容はインタビュー形式なので口語が多く、わからない。



検索キーワード「zombie」

「zombie -firm -philosophical」との差分を確認する。上記条件からも排除され、こちらの条件でのみ引っかかった論文がゾンビ企業・哲学的ゾンビの論文であれば、ねらい通りといえる。

人柄・意識・技術

原題:Personhood, Consciousness, and Technology
掲載:Human Flourishing in a Technological World
著者:Jens Zimmermann
ジャンル:神学(哲学?)

「-philosophical」で排除。神学的観点から技術開発を述べるらしい。

何かをゾンビに喩えて論じているのはわかるが、肝心の喩えが閲覧できない部分にあるので、それ以上はわからない。


まとめ

「zombie -firm -philosophical -bot -xylazine -biolegend -gender」は情報科学が一件だった。

ここ数日、人文学的文脈の「ゾンビ・〇〇」を見ることが多い気がする。ゾンビというくくりで論文を調べて半年がたつが、たまに同じ分野の似たような研究でゾンビ論文がヒットすることがある。きっと、学会発表後だったり、共同研究者が内容を分けて論文投稿をしたり、といったことがあるのだろう。

とはいえ、前回はゾンビ・ナショナリズムとゾンビ・カトリックで人種差別を説き、今回はゾンビ・ヒューマニズムでペットに対する人間の愚かさ(?)を説く。同じ人文学的な用語に見えるが、だいぶ毛色が異なるか。

今日はねらいのゾンビ論文なし。


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