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【リリス完全解説1】西洋占星術の2つのリリス〜象意と起源

※本記事は皆さんに読んでいただきたいので投げ銭方式を採用し、全文無料公開にしました。

 久しぶりの投稿です。現在書籍の自主出版の執筆に励んでいるので、投稿は休み気味となっています。

 今日は、サビアンシンボル分析セッションにご参加くださる方にも非常に影響が強い方が多く、私自身のパーソナリティにも多大な影響を与えている「リリス」についての解説記事です。結婚の相性分析にも欠かせません。

 当記事は、おそらく現在インターネット上に存在する中で、最も占星術のリリスについて明快に、論理的に解説したものです。全文無料公開しますので、ぜひ最後までお楽しみください。



太陽とアングルの5つの軸でイメージを掴む

 占星術の用語については、簡単にですが辞書的に利用できる記事を用意しています。

 目次から目的の用語にリンクしていますので是非ご利用ください。

 そしてご自身の出生図にリリスを表示する手順は、記事後半で解説しています。ご自身のリリスの位置を確認してから読みたい方は、リンクから「Astrodienstで3つのリリスを表示する方法」に飛び、出力してください。

 では本題に入りましょう。当記事は「太陽と月」のような陰陽構造が、「月とリリス」にもあるという解説をしています。

 そのイメージを大まかに掴むために、まずは「太陽とアングルの5つの軸」での「陰陽」を軽く説明することから始めます。

 10天体の中で、言わずもがな太陽と月は他の天体と比較して大きな影響を個人の意識にもたらします。占星術における太陽は、私たちの住む地球の動きを写したもの。つまり地球そのもの。月はその地球から、夜空に最も大きく光り輝く衛星です。

 その太陽に、陰陽の存在があります。ジオセントリックチャートの太陽に対する、「もうひとつの太陽」がヘリオセントリックチャートの地球です。

 上の図で解説するように、例えばジオの太陽が射手座の10度であれば、ヘリオの地球は双子座の10度と、ちょうど180度反対の関係になります。

 生まれた時に、偉大なる太陽は射手座の方向にあった。自分の栄光への道は射手座にある!と思いきや、その偉大なる太陽から地球を見ると、地球は双子座の方向にある。実は真反対の姿。

 リリスは、ジオの太陽(上昇)に対する、ヘリオの地球(下降)のような位置付けです。

 「君は輝かしい射手座だと自分自身を見ているようだけど、私から見たら君は双子座で、双子座の課題を忘れないように。」と、憧れの太陽さんから言われてしまう。目指しているものと真逆なので、ちょっとどうしていいか分からない。うまく課題をこなせない。

 という感じ。他のアングルでも考えてみましょう。

 「オレはアセンダント牡羊座だぜ?牡羊座のノリで生きていくかんな!」と猪突猛進していると壁にぶち当たり、気づけばスマートな天秤座の人間にどんどん先を越されていく。そして自分のDSC、天秤座の課題と向き合わされるようになる。

 「ワイMC乙女座だから、皆さんの需要と要望には、何でも細かく対応できまっせ!」と事務所の看板を掲げているものの、「細かいこと説明するのマジめんどくさ。インスピレーションで理解してくれない?」なんてぼやくのが、自分の根っこであるIC魚座。

 ASCとMCが上昇で、DSCとICが下降です。

 「太陽とアングルの5つの軸」に、私は上昇と下降を定義しました。上昇が陽で、下降が陰。陰は、陽に対するシャドウのような性質(地球、DSC)であったり、内面(IC)であったりします。

 この上昇と下降、すなわち陽と陰の関係が、実は月にも存在しています。それがリリスです。

もうひとつの月 ブラックムーン&ダークムーン・リリス

 ではリリスの話を始めましょう。「軸」のように180度関係ではありませんが、「もうひとつの月」「裏の月」「奥底に潜む秘めた月」的な計算上のポイントがリリスです。私生活や素の感情を担う月が結婚生活に非常に重要であるように、もうひとつの月であるリリスも結婚の相性に多大な影響を与えます。もちろん個人のパーソナリティにもです。 

 実体を持つ天体ではなく計算上のポイントであるリリスは、非常にややこしいことに下記3つのリリスが設定されています。

1.       Trueリリス(ブラックムーンリリス)
2.       Meanリリス(ブラックムーンリリス)
3.       ウォルテマスの月(ダークムーンリリス)

  分類としては、ブラックムーンとダークムーンの2種のリリスがあり、そのうちブラックムーンリリスはTrue(真実)とMean(平均)の2つが計算上の位置として設定されています。

 最初のうちは3つも存在する時点でリーディングの妥当性が低いのではないかと思っていたのですが、分析を重ねるごとに、どれも全く無視できないという結論に至りました。相性分析だけでなく、個人のパーソナリティを理解するためにも、月と同様に重要です。

先にリリスの象意を簡単に箇条書きにすると、以下のようになります。これはブラックムーンとダークムーンに共通です。

2種のリリス(True / Mean / DM)に共通する象意
【1】秘めたる欲望や想い / 抑圧された怒り
【2】それらの欲望、想い、怒りの解放
【3】光に対しての闇 / 闇を光へ昇華する
【4】父性(男性)的なものへの反抗心
【5】娼婦性とフェミニズム / 常識的な男女関係の拒否
【6】反社会(超社会)的、反権力的精神
【7】不平等や差別への反骨精神

 これらの意味を理解し実際にリーディングに活かすには、2種のリリスの象意と由来を知る必要があります。共通した象意もあれば、片方に特有の象意もあるのです。

 2023年7月時点、ダークムーン特有の象意として私が立てている仮説はこちら(根拠は記事後半と次の記事で解説します)。

ダークムーンリリス(DMリリス)の象意
【1】虚実の「虚」をあらわすもの
【2】無(虚)から有(実)を生み出す創造性
【3】目に見えないものへの意識(精神世界への適性)
【4】現実的なものへの強い反抗心
【5】最も深層にある隠されたプリミティブな月

 ほとんど憶測として語られ続け、コピー&ペーストのような情報しか存在しないリリスを、明確に、論理的に紐解いていきます。

 最初に、現在リリスとして最もメジャーに読まれている「ブラックムーン」から解説していきますね。


ブラックムーンリリス(Trueリリス / Meanリリス)

 TrueリリスとMeanリリスは計算方法が違うだけで、どちらも月の軌道の中にある「遠地点」または「第2の焦点」です。まずは遠地点から説明します。

 月は地球のまわりを正円で公転しているのではなく、距離が近くなったり遠くなったりします。月が最も地球から遠ざかる計算上のポイント(遠地点)を、占星術ではブラックムーンリリス(黒い月)と呼びます(下図)。

ブラックムーンリリス=月の遠地点 or 月の軌道の第2焦点

 月は正確に楕円を描いてはおらず複雑な軌道をもっており、遠地点を正確に計算することは難しいようです。そこで月の軌道の平均(mean)から遠地点を計算して使用します。これをMeanリリスと呼びます。

 一方でTrueリリスの「True」は「(事実・現実に合致している意味で)真実の」の意であり、より正確な位置を示す遠地点です。しかし、これも天文学的な現実とは一致しないことが多く、Trueという呼び方は誤っているとする意見もあります。故に、ホロスコープを出力するアプリケーションにおいても、デフォルトでTrueを使うものとMeanを使うものと分かれており、どちらが正しいという結論は出ていません。

 遠地点ではないリリスの計算方法として、月軌道の第2の焦点を用いることもあるようです。これもまた、正確な楕円を描いていない月軌道から焦点を求めることは遠地点よりもさらに難しく、現在では焦点からリリスを計算する人はほとんどいないと思われます。しかし第2の焦点も遠地点も同じ方向に存在する(同じ度数となる)ので、どちらの計算方法でも特に問題はないようです。

 次は、現在ほとんど読まれていないダークムーンについて解説します。

 

ダークムーンリリス(ウォルテマスの月)

 もうひとつ、月の遠地点(または焦点)と同様に古くから占星術に利用されている計算上のポイントがあります。それは「ウォルテマスの月」から定義された「ダークムーンリリス(暗い月)」です。

  1898年、ドイツの天文学者ゲオルグ・ウォルテマス(Georg Waltemath)博士は、月とは別に第2の衛星(第2の月)が存在すると主張しました。

 第2の月は公転半径103万km、公転周期119日、会合周期177日で、直径は700kmあり、「特定の時間帯に見ない限り、望遠鏡なしでは観測できないほど太陽光を反射しない」「夜、太陽のように輝くことがあるが、1時間ほどしか輝かない」とウォルテマスは説明します。

 そして1898年2月に4日間だけ観測できると予測を立てましたが、12名がそれを観たと主張するものの、大多数は観測できず、天文学界からは否定されました。

 同年、科学誌の権威『サイエンス』に「第3の月」の存在を送っていたことが、サイエンス1898年8月号に掲載されます。すでに第2の月は誤りであったと知られていたため、嘲笑の的になりました。第3の月の直径は746kmとされ、それほど大きな衛星であれば後世の観測により簡単に発見できるはずですが、現在までに第2、第3のどちらの月も観測された記録は存在しません。

地球の第2衛星発見を発表したポスター

 ウォルテマスの発表から20年後の1918年、イギリスの占星術師セファリアル(本名:Walter Gorn Old)は、「ウォルテマスの月は目に見えないほど暗く普段は観測できないが、太陽面を通過する時に観た」と主張。もちろん、これも現在までに観測されたことはありません。彼が見たのは第2の月ではなく、太陽の黒点だったのでしょう。

 しかしセファリアルは、「ほとんどの時間帯において目に見えないほど暗い月」というウォルテマスの月の性質から、この存在しない「もうひとつの月」をリリスと名付け、占星術に取り入れました。このあと「リリスにまつわる伝承と神話」の章で詳しく解説しますが、アダムの最初の妻であるリリスを、月を象徴するイヴとの対比で考えたのでしょう。

 セファリアルが名付けたリリスは、以後ダークムーンリリスとして認識されるようになります。

ダークムーンリリス = ウォルテマスの月からセファリアルが定義したもの
実際には存在しない
【参照】wikipedia ウォルテマス / セファリアル / 月以外の地球の衛星

 ウォルテマス博士も占星術師セファリアルも「第2の月」を見たと主張しましたが、それは彼らの勘違いであり、現実にそれらは存在しません。「もうひとつの月」は科学的に否定されています。
 このような事実から、唯物主義的な考え方を持つ人は、存在しない第2の月から人間の気質を読み取るなど馬鹿げていると考えるかもしれませんが、占星術においては第2の月が実在しているか否かは問題ではありません。実際、12サインは夜空の12星座と位置も大きさも異なります。

 ウォルテマスの月に関しては、むしろ「存在しないもの(見えないもの)」であることがダークムーンリリスの象意となっています(これは本記事後半で意味を詳しく解説しています)。

 古代より「黒い月」のような伝承は数多く存在します。光り輝き、闇夜を照らす明るい月と対照的な「もうひとつの黒い(暗い)月」のような存在を、世界各地で人類は想定し続けてきたようです。

 このような古代から続く人々の意識の積み重ねや集合意識のようなものが、セファリアルを始めとする占星術家によって「リリス」としてホロスコープに刻まれることになりました。

 リリスの位置は科学(天文学)的に計算されたものですが、リリスは月や太陽、火星や金星のように存在しません。しかしリリスを読めば、リリスに強いアスペクトを持つ人々に、共通の影響を与えていることが明確に読み取れます。

 不思議に思うかもしれませんが、よく考えると不思議なことでもありません。アセンダントなどのアングルも計算上の位置情報であり、そこに実際に何かがあるわけではありません。太陽が男性や夫、月が女性や妻などの象意も、人類がいわゆる「科学的根拠」無く考えだしてきたものです。

 リリスもそれと全く同じです。しかし、そもそもこのような科学的根拠無しに提示するものは科学界から「疑似科学」のレッテルを貼られてしまいます。この問題については、私が次の記事で、超具体的な「リリスに(及び占星術に)妥当性がある」とはっきり分かる、ひとつのエビデンス(実例)を提示します。

 ここまで、リリスとは月の遠地点またはウォルテマスの月であることを解説しました。次は、どちらにも共通するリリスの象意の元となる、神話や伝承を解説していきます。

 その前に少し余談ですが、日本に初めて西洋占星術を伝えた隈本有尚はダークムーンリリスを定義したセファリアルから占星術を学んでいます。 

熊本有尚(くまもと ありたか)
日本の教育者、天文学者、数学者、心理学者、占星術師。

 彼の出生時間は不明ですが、生まれた時間によってはダークムーンリリスとドラゴンヘッドが誤差1度以内で合となります。ダークムーンの生みの親から占星術を教わり、それで人生の可能性を拡大させた(ドラゴンヘッドの象意)とは、興味深いストーリーです(次の記事で、ダークムーンリリスが占星術と非常に相性が良いことを明快なエビデンス付きで解説しています)。

 しかしダークムーンリリスは、現在ほとんど無視されているような感受点です。世界最大の占星術サイトAstrodienstのFAQ内「リリスをチャートに表示させることはできますか?」の答えには、ブラックムーンの表示方法のみが掲載されています。

リリスにまつわる伝承と神話

 下の絵はジョン・コリア作の「リリス」で、体に大蛇を巻きつけて恍惚の表情を浮かべるリリスが描かれています。この絵が象徴するように、リリスには娼婦性や背徳的な象意があります。性的な欲求はもちろん、その他社会に対して公然とは出せない秘めた欲望や、抑圧に対する反抗心をリリスが担います。 

ジョン・コリア作「リリス」

 占星術におけるリリスの象意は、惑星と同じようにいくつかの伝説や神話から構成されていますので、重要なところをいくつかピックアップして解説していきます。

 

リリスの語源 女悪魔リリートゥ

 占星術発祥の地、古代バニロニアの女悪魔リリートゥは、出産の際に亡くなった女性の念から生まれたと考えられている、リリスの主要な語源のひとつです。サキュバスらしい魅惑的な外見を持つ、生殖不能の悪魔であり、妻を持つ男性を襲撃して夫婦を死別させ、子供を食べるとされています。

 サキュバスとは、性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる民間伝承における超自然的存在です。キリスト教の教義では悪魔扱いで、天使や悪魔は実体を持たない霊的存在であるとされるため夢魔とされていましたが、後にサキュバスは夢の中に出現せずに肉体を持った状態で登場することが多くなりました。  

 肉体を持った状態で登場することは、リリスを理解するひとつの鍵です。天体の中で最も肉体性をあらわすのは月ですが、リリスにも同様の象意があると解釈できます。肉体を持っている=肉体に閉じ込められている=月のように非常にプライベート(私的、個人的)な心のありかをリリスも担っている、ということです。 

ロヴィス・コリント『聖アントワーヌの誘惑』悪魔たちはサキュバスを使って聖アントワーヌを誘惑しようとした(wikipedia)。


リリスの公転周期

 月の遠地点としての計算上のポイントであるリリスは、8年10ヶ月(3226日)で12サインを1周まわります。ひとつのサイン(30度)を移動する日数を計算すると、平均268.8日となります。人間の妊娠期間は受精日(受胎)から平均266日で、月の遠地点が1サインを移動する期間と重なります。リリートゥは出産の際に亡くなった女性の念から生まれたとされているので、これは興味深いところです。

 出産して子供を育てる「月」の行為の念から生まれているので、「アンチ・月」的な象意が導き出されます。

 

イヴ以前の最初の女 リリス

 キリスト教旧約聖書の最初の書である創世記には、イヴが誕生する前に、アダムの妻であったという伝承があります。イヴはアダムの肋骨からつくられたとされますが、リリスはアダムと同じく神が土からつくったとされます。男のアダムは女のリリスを支配下に置こうとしますが、同じ土から生まれたリリスは、アダムと対等に扱われるよう要求しました。しかし神もアダムもそれを受け入れず、怒ったリリスはエデンの園を去っていきました。

 アダムは神にリリスを取り戻すように願い、3人の天使がリリスのもとへ遣わされ、脅迫的にエデンの園に帰るように迫りましたが、リリスは拒否しました。命令に背いたリリスに怒った神は、リリスの下半身を蛇に変えてしまいました。

 ひとりになったアダムは、寂しさから自分の肋骨でイヴをつくったとされます。自分自身から生み出したので、イヴはアダムに従順な存在となりました。

 そのイヴは蛇にそそのかされ、禁断の果実(善悪の知識の木の果実)を食べてしまいます。蛇はリリスを象徴するものでしょう。下の写真は、ノートルダム聖堂の入り口にあるレリーフです。下半身が蛇の女がイヴを誘惑し、笑っています。

 怒った神は、イヴに罰を与えます。女性に子供を産むことと、出産に伴う痛みの罰を与えて男性に服従させ、「おまえの望みはおまえの夫のものだ。そして彼はおまえを支配する」と伝えたようです。

 

対照的なイヴとリリス

 男性への服従と出産の痛みを神から押し付けられたイヴと、男性の支配下に置かれることを断固として拒んだリリスは対照的です。リリスは悪魔のリリートゥと同様に、子供(男児)を殺すというエピソードもあります。

左:ヴィクトル・カルロヴィッチ・シュテンベルによるイヴ
右:ジョン・コリアによるリリス

 イヴは出産と男性支配の苦しみからリリスのように自由に生きたいという願望を持つかもしれないし、リリスとしても、苦しみながらも人類の母となったイヴが羨ましかったかもしれません。

  イヴとリリスは、占星術における月とリリスの関係です。肉体的な性別がどちらであれ、内面に抱える女性性や秘めた欲望としては月もリリスも同じですが、性質的に光と闇の対比があります。 

占星術におけるリリスの象意

 占星術におけるリリスの象意としては、実際は誰もが持っているが、社会の中では規律や義務感の中で抑え込んでいる、原始的で野生的な欲求や衝動であると考えられます。日常では自己の内面の奥底に閉じ込めている、秘めたる欲望です。社会的、つまり土星や10ハウス的なルールに縛られていないとは、逆に広大な宇宙と繋がっているという意味でもあります。この意味から、リリスは冥王星と似た象意を持ちます。

 「軸」ではありませんが、リリスは月の遠地点(地球から最も遠ざかる場所)なので、最も地球に近い位置にある月と、最も地球から遠い位置にある冥王星という対比です。軸とは異なる形で、月の陽と、リリスの陰の、切り離せない関係があります。

 リリスはそのエピソードからフェミニズムや女性解放運動の象徴となっています。男性や神のいる地球を離れて宇宙に視点を置けば、男性と女性に格差などあるはずがありません。リリスはこの社会で自由を奪おうとする格差、不平等、権威に対する反抗心の象徴にもなるでしょう。リリスはアダムのみならず神にも背いた存在です。一般的にリリスといえば性的な意味合いが強調されますが、「あらゆる男性性、父性、権力、不平等に対する反抗心」はリリスが持つ非常に大きな象意です。

 日本の占星術の第一人者である松村潔氏は「トランスサタニアン占星術(2019)」で「リリスに本質的には背徳的(性的)な意味はない」という意見を掲載しています。リリスは地球から最も遠ざかるポイントなので、地球に依存しながらも従属せず、地球の磁場から異世界に入っていくための梯子であると主張します。地球のルールには馴染めないが、精神的に大きくなっていくには必要な、反社会的ではなく超社会的な性質であるということです(やはり冥王星やトランスサタニアンと似た解釈です)。

 私たちは実社会の中で抑圧している想い、欲望、怒りなどを、芸術の中に映し出します。芸術は現代的な感覚では実用性が無いと判断されるものですが、人間の意識や精神を解放します。実際に行動に移せば犯罪となるような行為も、絵画、音楽、小説、映画の中では許容され、または称賛され、人々はそれらを感じることを生涯に渡って求め続けます。誰もがリリスを心の中に秘めていると解釈しても良いでしょう。故に、リリスとアーティストは非常に相性が良いです。 

 (ブラックムーン)リリスはおよそ9年で12サインを1周します。イヴのような母性を象徴する小惑星セレスは5年、善の意識、社会的価値観、拡大と発展を象徴する木星は12年が公転周期です。リリスはその間にあります。木星で社会的価値観としての善の意識を獲得する前に、または抑圧された精神性を解放(拡大)して真の発展を遂げる前に向き合わなくてはならない、自己の内面に潜む荒々しい欲望であると考えられます。誰しもが、ただ権威に従い義務を果たすような母ではいられません。それは本質的には良い母ではないのです。

 抑圧に閉じ込められた原始的な欲望がリリスであり、その秘めた欲望や心の闇を理解し、芸術や表現に昇華して、束縛された人々の精神を解放するような意識の象徴でもあります。実際、リリスは芸術や宗教など、現実と乖離がある分野では有効に働くと考えられています。芸術でなくとも、心の中の闇(ブラック/ダークネス)を咀嚼したあとに、人々の精神を解放するような光へと昇華する行為のすべてはリリス的であると言えます。出生図にリリスの強いアスペクトを持つ人は、常識や既存の価値観を超える感性を持ち(リリスは超社会的です)、それをアートや表現に変える能力があるでしょう。

『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する第2使徒「リリス」
生まれた場所は黒き月。
第1使徒は白き月で生まれた「アダム」。

 アニメやゲームのキャラクターなどにも多用されるリリスにはどうしてもオカルト的な印象が付きまとい、真面目に論理的に解説された例をあまり見かけません。しかしこれまで述べてきたように、リリスは太陽、月、アングルと同様に真正面から向き合うべき非常に重要な感受点であり、パーソナリティやアイデンティティに多大な影響を与えます。

 夫婦や恋人間では、このような他者に見せることのない秘めたる欲望や衝動をオープンにします。だからこそ、リリスは結婚の相性にも深く関わるのです。結婚する動機にもなれば、組み合わせによっては離婚の動機にもなります。

バーガーキングにも「怒りのリリス」(笑)

ブラックムーンとダークムーンの象意の違い

 ここまでリリスの伝承、神話、占星術における象意を解説しました。次に疑問が浮かぶのは、2種のリリスの「占星術における象意の違い」です。

  • Trueリリス:月の遠地点の正確な位置

  • Meanリリス:月の遠地点の平均的な位置

  • DMリリス* :ウォルテマスの月

*ダークムーンリリスは「DMリリス」と略称を使用することにします。

 ブラックムーンであるTrueとMeanは計算方法の違いがあるのみで、どちらも月の遠地点を示します。だから、この2つの象意は同じですね。ただ、少なくとも結婚の相性を見るような場合は、MeanTrueがより重視されると現段階では判断しています。ASCやICなどのアングルのような「ピンポイントの位置情報」が男女を結婚に導くことを、これまで私のサビアンシンボル分析論では解説し続けていますが、法則として考えればリリスも同じでしょう。より正確に計算された出生図内のリリスの位置が、結婚という人と人の強い結びつきに繋がりやすいはずです。

 ただしMeanのリリスにも強い影響力があることは、今後の記事で実例を持って解説します。

 ではダークムーンをどう考えるべきでしょうか。占星術師セファリアルは、リリスの語源である女悪魔リリートゥや、神話の中のリリスを意識して、DMリリスを定義したはずです。この意味から、月の遠地点のTrue &Meanリリスと同じ象意を持つと考えても間違いはないでしょう。

 しかし象意が全く同じということは、おそらく無いでしょう。

 ブラックムーンリリス(月の遠地点)は、アングルのようなものです。アセンダントは地平線から陽が昇る位置情報、MCは太陽が最も高く昇る位置情報というように、月が地球から最も遠ざかる位置情報がTrueとMeanのリリス(月の遠地点)です。

 「地球から最も遠ざかる」という位置情報から、現実的に結実しない、地上のルールに反する、地球から離れてより遠くの(高次の)意識に到達するための梯子的な役割、などの象意が与えられます。

 ではダークムーンリリス(ウォルテマスの月)はというと、そもそもが勘違いであり、「存在しないもの」なのです。存在を証明されず、虚実の「虚」であると社会から認識されています。

 この「虚」を「実」であると主張した、または「虚」からリリスを創造したエピソードから、「無(虚)から有(実)を生み出す創造性」という象意をDMリリスに当てはめることができるかもしれません。

 虚実の「虚」ですから、「目に見えないものへの意識」と解釈するのも妥当でしょう。それは単純に精神世界への強い興味ともなりますし、人間の奥底にある、容易に見えない、見せることの出来ない内面への意識がひときわ強くなることもあります。

 存在しないもの
 ↓
 探しても見つからないもの
 ↓
 最も深層にある隠された月

 という解釈もアリかなと。月には「本能」の象意がありますが、最も奥底にある月と考えた場合、脳で例えるなら理性や知性を司る大脳新皮質ではなく、本能を司る脳幹のようにプリミティブ(原始的、根源的)なものとなります。

 ウォルテマスもセファリアルも虚を実だと言い張ったのですから、これを「現実的なものへの強い反抗心」と捉えても良いでしょう。リリスそのものが反抗心を持ちますが、より強いという意味です。

 まとめると、ブラックムーン(True &Meanリリス)と比較して、ダークムーン(DMリリス)はより「虚」の性質を持ち、虚から実を生み出す創造性に富み、プリミティブで、深く見えないところにあり、見えないものへの意識が強く、(良くも悪くも)強いエネルギーを持つ。このように定義できるかもしれません。

 これらは、ウォルテマスの月からセファリアルによってダークムーンリリスが定義された経緯から導き出した仮説です。

 曜日としも定義されている月から土星までの7天体は、紀元前から存在が認識され、その象意は世界各地で論議され、象意に大きな変更はありません。それらと比較し、リリスに関してはウォルテマスの月は存在が主張されたのが1898年、月の遠地点はいつから計算され、占星術に利用されたのか私は知らないのですが、計算の難しさゆえにもっと後の話だと思います。

 天王星が発見されたのが1781年、海王星は1846年、冥王星は1930年。リリスは冥王星と同程度の歴史かもしれませんが、トランスサタニアンのように10天体として実用化され、論議されてきたわけではありませんし、そもそも天体ではないので観測できないもの、位置もはっきりしないもの、ウォルテマスの月に関しては「存在しないもの」です。

 このように、リリスは位置情報や存在そのものが曖昧で、象意も未だ謎のままです。

 しかし!実際に3つのリリスにアンテナを張って調査をしてみると、今回私が立てた仮説、特に占星術の愛好家からもほとんど無視されている「ダークムーンリリス(ウォルテマスの月)」に関して非常に面白いエビデンスを取ることができました。

 論より証拠。次の記事をお楽しみください。


月の陰陽として覚えておきましょう

 リリスの象意の解説をここで終えますが、最後に陰陽のイメージで覚えるまとめを書きます。

太陽 = 陽
月 = 陰

 月と太陽は、決して切り離せない陰陽関係です。これは誰でも納得する話ですよね。

月 = 陽
リリス = 陰

 月とリリスも、同じように決して切り離せない陰陽関係です。太陽と月の関係であれば月は陰となりますが月とリリスの関係においては月は陽となります。
 太陽と月は、10天体の中でひときわ大きく輝いていることから「ライツ」と呼ばれます。月は闇夜に輝くことから陰のイメージが強いですが、現実的には夜空で最も光り輝く天体です。
 比較してリリスは「黒い月」なのです。闇夜のなかの黒い月。つまり見えないもの、見せないものなのです。だから月の陽に対して、リリスの陰です。

True &Meanリリス = 陽
DMリリス = 陰

 その月と切り離せないリリスにも、さらに陰陽関係があります。月の遠地点であるTrue &Meanリリスが陽で、ウォルテマスの月であるDM(ダークムーン)リリスが陰です。
 
 前途の通り、ダークムーンリリスは「存在しなかったウォルテマスの月」がその起源であり、黒い月どころではなく「無かったもの」です。
 
 月の遠地点のように、地球から出来るだけ離れて遠い惑星に意識の橋をかけるものでもありません。勘違い、言い換えれば想像力から生まれた産物で、実際には何もなかったもの。

 月の遠地点よりも更に見えないものであり、隠されているものです。占星術の歴史としても、ほとんど無視され、虐待だのオバケだの、散々な象意をつけられている状況です。

 だから、ダークムーンリリスは、リリスの中でも陰(隠されたもの)となります。

 占星術の初心者さんには、かなりややこしい話ですね(笑)しかし、決して無視することはできません。あまりに影響力が強いからです。

 太陽と月のように、月とリリスもセットで読むようにすると、より深く自分の内面を知ることができます。

 結婚の相性については、リリスまで読まなければ正しい分析ができません。特にTrueリリスとDMリリスです。

 リリスで繋がっている夫婦は多々存在します。考えてみれば当たり前です。奥底に秘めている「もうひとつの月」なのですから。

 実際はもうひとつではなく、もう3つなのですが………それくらい人間の本当の奥深くの内面、月のように見えるものではなく、見えないリリスの領域とは、反抗的かつ場所も容易に掴めないような、ややこしいものなのです!(笑)

注:小惑星リリス(リリト)について

 リリスには実体のある天体としての「小惑星リリス(惑星番号1181)」もリリスとしてリーディングされる傾向がありますが、当記事では除外しました。理由は2つあります。
 
 1つは実在する小惑星であり(これは見えるものです)、天文学的にも月と無関係で、小惑星の名前もアダムの最初の妻のリリスや女悪魔リリートゥに因んだものではなく、フランスのクラシック音楽の作曲家リリ・ブーランジェにちなんで命名されていること。月と陰陽の対をなす要素が無く、ブラック&ダークムーンと小惑星リリスは根本的に異なる性質を持つと現段階では考えていることです。
 
 2つめは、まだ私の方では未調査なので、何も書けないという理由です。

注意!インターネット上の間違ったリリスの分類

 前途の通り、リリスはきちんと正確に語られることがありません。象意は実例を示さずに憶測に基づいて語られ、月の遠地点(通称ブラックムーンリリスで、TrueとMeanリリスを指す)と、ウォルテマスの月(通称ダークムーンリリス)の違いも曖昧なまま情報が拡散しています。

 「ダークムーンリリス」とGoogle画像検索をすると、上位3つが「パクスルーナ PAXLUNA 星読み風水」というサイトの画像が検出されます。

 アクセスしてみると、おそらく勘違いをされているなと。サイト制作者は高橋ともえという女性で、プロフィールを見るとアメリカ占星学者協会会員で、翻訳者としても活動されていたようなのですが…

ダークムーンリリスとは? 意味・記号・無料の調べ方パクスルーナ

 このパクスルーナが制作した画像は、ダークムーンリリスの場所が間違ってます。おそらくAstrodienst(astro.com)などに掲載されている下記画像を参照にしていのだと思いますが…

参照:Lilith - the dark moon(Astrodienst)
astrodienst掲載の画像に解説を加えて作成

 本記事内「ブラックムーンリリス(Trueリリス / Meanリリス)」の項目で解説した通り、TrueリリスとMeanリリスは、月の遠地点または月の軌道の第2焦点から求めています。

 このastro.comの画像にも「Black Moon」と明記してあるのですが、なぜか「Dark Moon」だと勘違いをしたようです。サイト主は、翻訳者でもあり、リリス講座を27,000円で販売もしているようですが……

 Googleの画像ではなく一般検索をすると、最上位はこちらになります。

 検索1位は「Lani」という占い系ポータルサイトで、やはりこう書いてあります。

 "仮想点ダークムーン・リリスは、地球と感受点ブラックムーン・リリスの中間にあると想定されています"。

【感受点別】ダークムーンリリスを徹底解説!心に救う幽霊の月とは?(Lani

 やはりパクスルーナと同じことが書いてあります。どちらが先に書いたのか分かりませんが、どちらかが真似をして書いたのでしょう。インターネットから得られるリリス情報はこのように、コピー &ペーストばかりです。

【ウォルテマスの月の情報】
第2の月
地球からの距離:1,030,000 km
公転周期: 119日
第3の月
地球からの距離:427,250km

※月と地球の距離:384,400 km 公転周期:27日7時間43.193分

Georg Waltemath(wikipedia)

 そもそもウォルテマスの月は月よりも遠い位置にあるとされているので、地球と月の遠地点の中間には存在できません。

リリスのシンボル = Meanリリス
Lil(o) = Trueリリス
Walde = ダークムーンリリス

 例として私の妻の出生図を出しますが、Mean & Trueリリスはほぼ同じ位置(実度数で山羊座26度と30度)にありますが、DMリリスは真反対(蟹座28度)にあります。

ダークムーンリリスとは? 意味・記号・無料の調べ方(パクスルーナ

 画像を再掲しますが、これではダークムーンもブラックムーンも同じ位置ということになってしまいます。ダークムーンリリスは、月の遠地点(ブラックムーンリリス)の真反対に位置することもあるのです。

 なぜこの指摘が重要かというと、ダークムーンとブラックムーンが似通っていても異なるものだと理解しなければ、正しく情報を読み取ることができないから。真反対に位置することもあるわけですから、2つのリリスの間で葛藤や対立を起こすこともあります。

True &Meanリリス = 陽
DMリリス = 陰

  似ていても、陰陽的な真反対の関係があるのです。

 それは、次の記事を読んでいただければ十分にご理解いただけるでしょう!そろそろ本当に理論解説を終えて、最後に皆さんの出生図で3つのリリスを出力する方法をお伝えします。

Astrodienstで3つのリリスを表示する方法

 Astrodienst(astro.com)にアクセス。「出生データによるいろんなチャート」をクリックして、ご自身の出生情報を入力しましょう。

  • Meanリリスは「一般的な要素:」という項目で、「リリス(Lilith)」をクリックしてください。

リリスをクリック!
  • Trueリリスは「Manual entry:」のボックスに「h13」を入力するとチャートに「Lil(0)」と表示されます。

  • DMリリスは「Manual entry:」のボックスに「h58」を入力するとチャートに「Walde」と表示されます。

「h13,h58」と入力!

 皆さんも、ご自身のリリスと出会い、納得したり、意外に思ったりして、楽しんでください。ブッシュのような犯罪まがいの行為にするも、サン=テグジュペリのような創造性にするも、自分次第です。


重要!誤差(オーブ)について

アスペクトの誤差(オーブ)は厳密にチェックしましょう!強く影響が出るのは、誤差2度以内です。アスペクトの影響力は誤差で決まります。

 具体的に例を出して説明します。例えばASCとリリスが誤差1度、3度、5度で合の場合はどうか。

  • 誤差1度は、その人の世界観と衝動(ASC)に、リリスが激しく影響しているはずです。もちろん、0度台の方がより激しく影響が出ます。

  • 誤差3度は、まあまあの影響力といったところです。ギリギリ合と定義しても良いかなという感じ。

  • 誤差5度は、合と認識するには疑問が残る感じです。「ASCに影響している」程度の影響力となります。

 次の記事も読んで頂けると分かりますが「どう見てもこの人はリリス」くらいの影響力が出るのは「誤差1度以内」です。つまり「誤差0度台」。1度でも5度でも、特にサインが同じであれば合的な雰囲気は出るのですが、影響力が全く違うのです。

 同じコーヒーでも、アメリカンとエスプレッソは全く異なるもの。
 同じお酒でも、ビールとスピリタスでは天と地ほどの心身への影響力の差があります。

 せっかくリリスの意味を理解しても、この感覚が分からないと、現実との整合性が取れません。アスペクトの誤差は、ぜひ厳しくチェックして読んでみてください。グングンとリーディング力が上がりますよ!

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