【森の哲学者】パンツを買い替えるの巻 #たそがれ木林春夫
【パンツを買い替えるの巻】
ある日曜の昼のこと。
前の晩に、野生動物のドキュメンタリーを観て、夜更かしした木林春夫さんは、正午ぴったりに目覚めました。
仕事のない日曜日ですから、お昼に起きても、まったく問題なし。
時間をかけて牛乳を1杯飲み、シャワーを浴びました。
洗いたてのタオルで体を拭き、洗いたてのシャツとパンツを身に着けます。
最近、柔軟剤を使うことを覚えたので、いい香りが木林春夫さんさんの体を包みこみます。
と、違和感を覚えました。
腰の辺りに、いつもと違う感触。
なんだろうと思い、はいているパンツをめくってみました。
オレンジ色のパンツが1ヶ所、破けていました。
ショックでした。
このパンツは、色も着心地も気に入っていて、朝から元気を出したいときに、はくことにしていたからです。
でも、木林春夫さんは自分にこう言い聞かせました。
2年間、ずっと活躍してくれたんだ、そろそろ休ませてあげねば、と。
買ったのは、確か2年前。
穏やかな春の日で、桜が咲いていました。
しかし、思い出にふけっている場合ではありません。
そこらにあった適当なパンツにはきかえ、急いで新宿へ向かいました。
2年前に買ったのと、同じお店へ行きます。
ほかの商品には目もくれず、下着売場へ直行する木林春夫さん。
でも、残念。
同じ商品が見当たりません。
探しているのは、全体はオレンジ色だけれども、腰のゴムが黒いもの。
オレンジと黒のコントラストが、特にお気に入りだったのです。
でも、2年前ですから、きっとどこかのタイミングでモデルチェンジしたのでしょう。
仕方なく、同じ配色のパンツを探しました。
ところが、やはりありません。
赤と黒の組み合わせはありましたが、オレンジと黒はありませんでした。
木林春夫さんさんは、たまたま通りかかった店員に頼みました。
2年前にこのお店でオレンジ色のパンツを買わせてもらった、はき心地も含めてとても気に入っているので、同じものを探している、ただ2年も前なので、ないのも当然だ、似ているものでかまわない、ただ、オレンジ色はゆずれない、このお店にオレンジ色のパンツがあるか教えてほしい、と。
店員は驚いた様子で一歩あとずさりし、こう答えました。
うちの商品をそんなに気に入ってくれて、大変うれしい、でも、同じものはないだろう、オレンジ色のものも、今は扱ってない、しかし、同じビルの7Fのお店なら、お客さんの気に入るのが見つかるかもしれない、ただ、オレンジは今年の流行色ではないので、おそらく7Fにもないだろう、と。
木林春夫さんは感謝して、こうアドバイスしました。
こんなに親切に教えてくれる店員さんははじめてだ、流行色の知識もあるなんて驚きだ、見たところ店長さんではないようだが、その調子でがんばればすぐに店長になれるだろう。
すると、店員さんはますます驚いた様子で、こう答えました。
店長になれるのはありがたいが、それは私が決めることではない、もちろん、いつかは店長になりたいとは思っている、それより、どんな仕事をしているか不明だが、あなたこそがんばった方がいいんじゃないか。
木林春夫さんは、同じビルに、ほかにも服を売っているお店があるとは知りませんでした。
逃げるように立ち去る店員さんを横目に、興味津々で7Fへ向かいます。
でも、残念ながらオレンジ色のパンツは、7Fにもありませんでした。
けれども、代わりのパンツを無事、購入できたので大満足でした。
買ったパンツは、燃えるような赤色のもの。
赤なら最初のお店にもありましたが、そこより鮮やかな赤。
燃えるような赤。
しかも、安い。
なにより、常に新しいチャレンジをしたいと思っている木林春夫さんにとって、GUというお店の発見が、とてつもない成果に思えたのでした。
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