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岐路に立つ

 岸田内閣が防衛費に充てる増税の方針を示し、「国家安全保障戦略」など安全保障三文書も定められた。憲法の平和主義の下で「反撃能力」なるものが強調され、将来世代にではなく、21世紀初頭の日本列島に生まれた近代国家は、「平成」から戦後「昭和」に生まれた稼働世代の負担による税収で、緊張を増す極東の安全保障体制に備えるとした。

 約100年前、1921年7月上海で共産党が発足し、11月4日東京で首相の原敬が殺害された。これを受け高橋是清内閣が発足し、3週間後の「大正10年」11月25日に裕仁親王が摂政宮に就く。明治憲法下の主権者は実質的に後の「昭和天皇」へと引き継がれることになった。清朝滅亡から、そして「明治」の終焉から約9年後になる。これから3年数ヶ月後に、東京の四谷に平岡公威は生まれている。平岡は後に、文学に傾倒する息子に渋い父親の懸念を避けるため周囲が「三島由紀夫」を名乗ることを計らい、戦時下、敗戦後の日本列島で小説家と知られようになり、裕仁親王摂政宮就任から49年後の1970年11月25日に、市ヶ谷駐屯地で東部方面総監を監禁後に割腹して自決する。

 1996年1月村山内閣の後を受け、阪神淡路大震災の約1年後に橋本内閣は発足し、それから約3ヶ月後に米駐日大使との間で普天間基地の返還を合意する。この合意は四半世紀余りを経ても実現してはいないが、辺野古沖へ移転することを前提として、沖縄県の民意を押し潰すようにして実現が目指されている。橋本内閣の発足から約10年後に、第一次安倍内閣が発足し、この内閣の発足から約3ヶ月で教育基本法の「改正」と「防衛庁」を現在の防衛省に再編することが決まった。その直後、2006年の年末会見で、当時の安倍晋三首相は「民主主義の成熟」を口にした。ストックホルムで、2人目のノーベル文学賞受賞者としてスピーチした大江健三郎が「戦後民主主義」を口にしてから12年が経過していた。

 10年前に第二次安倍内閣が発足し、118回の虚偽答弁が繰り返された中で、平和関連二法に基づき現行憲法下で国連憲章に定められた「集団的自衛権」の行使も可能とされることになった。虚偽答弁については、首相退任後の故安倍晋三により2020年のクリスマスイブに謝罪がなされたが、それから2年になる前に、新たな防衛予算に関する財源確保の方針が政府によって表明されたことになる。

 1945年6月上旬、御前会議において、三国同盟を結んでいたイタリア、ドイツの降伏後、連合国との戦争を続けていた日本政府は、徹底抗戦・本土決戦の方針を固め、下旬からは昭和天皇の下で戦争終結に向けた研究を進めることも示されるようになる。鈴木貫太郎内閣の下で、天皇の「聖断」によってポツダム宣言の受諾方針が固まり、8月15日に鈴木内閣で陸軍大臣に就任した阿南惟幾は命を絶った。敗戦後、東久邇宮内閣の下で、昭和天皇に憲法改正の調査研究を指示された近衛文麿は、GHQからの出頭命令を受け、12月16日に命を絶つ。近衛同様に出頭命令を受け、最後の内大臣を務めた木戸孝一は、巣鴨プリズンに勾留する直前に、早期の退任を昭和天皇に進言していたと伝えられる。

 年明けの1946年1月1日、官報を通じて「人間宣言」が発され、11月3日に新憲法として象徴天皇が明文化され、三四半世紀が経過した。皇室は2022年12月現在17名で構成され、平均年齢58.41歳、高齢化率41.17%(2018年現在、日本の平均年齢は48.4歳。2020年現在、世界の平均年齢は30.9歳。2019年現在、日本の高齢化率は28.4%)立法府で憲法審査会が盛んに開かれた中で、将来的に現行憲法から象徴天皇を削除することを視野に入れた議論は全くない。主権者から象徴へと変化した天皇を、再び憲法において主権者に位置付ける憲法改訂案を審議するのは「政治」の仕事ではないらしい。しかし、日本の歴史、伝統文化の継承者等として「天皇」を位置付け、憲法からは象徴天皇を削除し、新たな法の下で天皇及び皇室を国民に統合し、国事行為に必要なそれらを担うように憲法及び法体系を整えることは、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の観点に立った本来の国民の代表が担う政治の仕事ではないのだろうか。

 憲法の平和主義は、極東の安全保障の緊張感が高まる中で、法に基づき集団的自衛権の行使も可能とされ、「反撃能力」を備えることも当然とされるようになったらしい。かつてこの列島に生まれた近代国家は満州事変や盧溝橋事件を機に日中戦争に突入した。当時、対米戦争の回避を目指しながら真珠湾奇襲の先頭に立つことになった山本五十六はこの状況をどのような想いで眺めていることだろう。Ambivalentな態度で、主権者を煙に巻くのは自公政権の常套手段だろうか。主権者の1人として異議を唱える必要性を感じざるを得ない。

2022.12.17


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