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第1回AI歌壇 谷じゃこ選

こんにちは、谷じゃこです。
僭越ながら、「第1回AI歌壇」の人間選者をさせていただきました。
AI歌壇とは、数人の選者(人間選者)とAIの両方で短歌の選をするという、深水英一郎さんによる短歌の企画です。

ちなみにトップの写真は、私のスマホに入ってる写真の中でいちばん「針」っぽかった写真です。(蒲郡市竹島水族館のトゲトゲのカニ)


テーマ詠「針」

特選

検針日になると私の毎月の涙の量をはかる妖精
/宇井モナミ

検針日というのは毎月水道やガスをどのくらい使ったかをチェックするもの。前月にどのくらい涙が流れたか、悲しい涙や辛い涙や嬉し涙などいろんな涙があったにしろ、毎月妖精がチェックしてくれるというのがおもしろいです。
この涙の検針、私に気づくことなく行われているんじゃないかという気がします。いつの間にかひらひら飛んできて、メーターをチェックして、さらっと去っていく。実際検針の人って知らん間に来てるし。鞄から板みたいなん出して、ささっと入力する妖精を想像するとめっちゃかわいい。検針の針も、妖精が持っている(というイメージがある)ステッキに見えてきて、キラキラしてそうでいいな。悲しい涙も、妖精による検針で救われる気がします。ファンタジーと現実の組み合わせがめちゃくちゃ上手やと思いました。

ちなみに宇井モナミさんの投稿してくださった「針」短歌、わたし全部選んでいました。宇井さんだらけになってもあれなので、もう一首だけ。

採血の針を抜き刺しされながら血管の細さ責められている
/宇井モナミ

この「責められている」、言葉で「血管細いねぇ」と言われてると読めるだけでなく、血管が細いために何度も刺されて、血管周辺の皮膚を執拗に攻撃されているという「責められ」の苦しさもあって上手いなと思います。採血苦戦勢の人たくさんいると思いますがわたしもその一人なのでよくわかります。きっと看護師さんは責めてるつもりは全くないんやろうけど、こっちとしてはなんかすみません……ってなりますね。

そのほか好きな歌

秒針ものぼりの時は辛そうでどこかで一息つけばいいのに
/猫背の犬

職場の時計が電池切れかけなのか何かわからんのですが、秒針が35~40秒のあたりでずっとカチカチしてるんです。秒針以外は普通に動いてるので時間はわかるんですが、その秒針がめっちゃ苦しそうなんですよね。重力しんどいよね。
秒針が一息ついたら時間が止まってしまうのでは?!と考えるとちょっとおそろしい。でも時間なんて少しくらい止まってもいいから、無理せず一息ついたっていいんやでという優しさを時計に向けているのが素敵です。「秒針も」の「も」からは、人間も辛い時は休んでもいいんやし、という気持ちも感じます。

穴開きの靴下の山に立ち向かう我が針穴に糸は通らず
/とんだ一杯食わせ者

針穴に糸通らんというのを詠んだ方は結構多かったのですが、こちらの短歌は針穴の小ささと穴開き靴下の穴の大きさとの対比がおもしろく読みました。(針穴は)小さすぎて大変、(靴下の穴は)大きすぎて大変。立ち向かう気持ちはめちゃくちゃあるのに、針穴に糸を通せなくて進めない〜というどうしようもない情けなさも味わい深いです。
山になるほどの靴下って、どんだけ穴開き靴下をためてるんやというのも気になるところ。あと下の句の雰囲気がなんか百人一首にあった気がするのですが、パロディっぽいところも楽しいです。(我がなんちゃらになんちゃらしつつ、みたいなのがあったはず)

はりねずみ色の坊主頭からライオン色のオールバックへ
/早乙女さぽ

一人の少年の進化(?)がおもしろい一首です。とても同じ人物とは思えない。間に何があったんや。
はりねずみのほうは坊主頭やから、はりねずみの割に針が短いんですよね。弱そう。ライオンの方は髪が広がっているのかと思えばなんとオールバック!よりこわい!上の句のはりねずみのターンは字足らずなのに対し、下の句ライオンのターンはきっちり77で余裕が感じられるところも完璧です。

注文の寿司乗せてくる新幹線そろそろリニアにしたらどうかね
/加藤万結子

これはテーマ詠じゃなくて自由詠かな?と思いつつ、好きな短歌だったのでここに書きます。
まず寿司が新幹線に乗ってやってくること自体が、冷静に考えると意味わからんくておもしろい。おそらくレーン上を高速で運ぶ→速いといえば新幹線、という考えから新幹線デザインが採用されたものと思われるのですが、確かに今後リニアになったらテンション上がりそうです。「したらどうかね」という口調が味があっていい。案外一歩引いたところで、回転寿司を楽しんでいるのかもしれないですね。

自由詠

特選(2首)

いつかまた会えるといいね 目の中の自動トビラがやさしくしまる
/虚光

もう会えないかもしれな人の背中を見送るシーンやと思うのですが、背中が小さく見えなくなっていく様子と、もう二度と会うことはないかもしれないなという気持ちの表現として、この下の句めちゃくちゃすごくないですか?!
もう会えないということはこの短歌の場合自分の力ではどうにもならないことで、自動トビラがオートマティックに閉められてゆく様子には無情さもあります。でも「やさしく」がめちゃくちゃポイントで、辛いだけじゃなく、この別れをあたたかく受け入れている自分もいます。駆け寄ったら(自動トビラなので)もう一回開くかもしれないけど、そんなことせず心の中で祈っている。わたしの目の中のスプリンクラー作動です。

葉も影も増す遊歩道初めての子に付ける名の候補は三つ
/梅鶏

初めての子供がもうすぐ産まれる頃の散歩中。葉も影も増すとあるので、季節は初夏くらいでしょうか。名前の候補をひとつずつ思い浮かべて、三つある名前のどれを思っても、世界が美しくきらきらしているのでしょう。
名前の候補なんてめちゃくちゃ大切なものすぎて、それが三つあると教えてくれただけでも、この短歌を読んだわたしまで特別を共有させてもらったような尊い気持ちになります。
これから「子供を詠んだ短歌」でいい短歌ありますかと聞かれることがあれば、梅鶏さんのこの短歌を言うことにします。

そのほか好きな歌

市場まで粒マスタードを買ひにゆく、はずが途中で飲んぢやつてるの
/秋月祐一

家でおつまみを作ろうかなというところで粒マスタードが切れているのに気づき買いにきたものの、市場に着くまえにちょうどよい飲み屋が現れてちょっと一杯。「飲んぢやつてるの」の感じから、一杯では済んでなさそうですね。楽しそうで、調子もよく、読んでいて気持ちがいいです。この後市場に寄らずにもう一軒はしごしそう。
買い物が粒マスタードというのが絶妙でいいな。それなりに存在感もありつつ、でもあくまで脇役で、この一首においてもピリッと効いていて。

身軽さが眩しく見える旅先でパンツを捨ててしまへるひとの
/高田月光

旅行先の宿で、汚れ物をきゅうきゅうと袋に詰めている隣で、パンツをゴミ箱にひょい〜と捨てている。びっくりしますよね。旅行の荷物が異様に少ない人、たまにいてびっくりするのですが、捨ててしまえる人はもっとびっくりする。旅行にはどっちかというと張り切って綺麗なものを持っていくので、ついでに捨てちゃお〜という気軽さで旅に来る姿勢もかっこよく思えます。これを短歌にした着眼点がおもしろい。眩しいという言葉とパンツとのギャップがまたいいですね。

淡黒のクラッシュゼリーささやかな隙間にバニラアイスの流れる
/畳川鷺々

スーパー余談ですが、投稿してもらった一覧を読んでいるとき、ちょうどコーヒーゼリーを食べていました。だから選んだというわけではないのですが、本当にこう!とテンションが上がったのは間違いないです。
淡黒とあるので、きっといいコーヒーゼリーだと思います。そこにバニラアイス、最高です。コーヒーゼリーって詰まっていると隙間がないように思えるのですが、少し溶けたバニラアイスの白色がすーっと入り込むのを見て、そんな風に積み重なっていたのかとわかります。素敵な観察の短歌。

カバになる夢を見たあんまり今と変わらない生活をしていた
/ZENMI

自由律っぽいけど、「カバになる夢を見た」が上の句、以降が下の句と読めるし、数えるときっちり31音。カバになる夢という突飛もない始まり方やし、この独特のリズムが合っている気がします。
カバの生活ってどんなんなのか知らんけど、なんとなくゆーったりのーんびりしてそう。水の中からふわーっと出てきて、大あくびして。現実の生活がカバと変わらないんじゃなくて、カバの生活(おそらく水中)が今と変わらないという、カバ生活メインの構成になっているのが逆転してておもしろいです。

おわりに〜

たくさんの素敵な短歌のご投稿、本当にありがとうございました!!人間選者に私を選んでくださった深水さんにも感謝です。
わたしを含めて6名の人間選者+AI選者で選をしているとのことです。他の選者の方はまた違った選や評をされていると思うので、ぜひチェックしてみてください〜!(note内で見つけられた3名分のリンクはってます↓)

第2回AI歌壇の募集も始まっています。詳しくは深水さんのツイートからどうぞ〜!


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