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崎陽軒のシウマイをお家で完全コピーする

焼売は、わたしにとって日常的に、ふと食べたくなるものではない。
ラーメンやカレー、焼肉や鰻などは周期的に身体が欲するが、焼売はふだん思い出すこともあまりない。しかし「それ」が目の前に現れると、無条件に手を出してしまう。そして食べるたびに大好物であったことを再確認し、日頃忘れていてごめんと謝りたくなる。わたしにとって焼売とはそんな存在だ。

なぜ、わたしは大好物であるはずの焼売を日常的に忘れているのだろうか。
中華街を散策しているときも、町中華や気の利いた居酒屋にメニューがあっても
不思議とそそられない。注文したことはあっただろうが、印象に残っていない。
しかし、駅のホームやコンコースで「それ」を目にすると、荷物になるのに必ず買って帰る。以前、事務所で手の離せない作業があった際にランチを頼んだスタッフが人数分を抱えて帰ってきた時は、彼を思わず抱きしめていた。
そう、わたしは「崎陽軒のシウマイ」にだけ激しく反応するのである。
わたしにとって焼売は、崎陽軒のシウマイに限られる。
他でどんなにおいしい焼売に出会っても「違う」と感じてしまうのだ。

焼売は出来たてより冷めたほうがおいしい。
崎陽軒は冷めた状態を想定しているので、時間が経ってからこそ本領を発揮する。

じつは焼売には思うところがいくつかある。
中華街で仲間数人と食事をした際のことだ。何品かを注文してみんなでシェアしながらビールや紹興酒を飲んでいるときに焼売が出てきた。ここの焼売はおいしいよと相棒の施さんが勧めたものだったから、みんなその味に感激した。しかしその後も続々とおいしい料理が続き、その焼売の印象はその夜の記憶の中に埋没してしまった。出来たての上等な焼売は前菜やサイドメニューの枠を超え、一品料理として扱うのがふさわしいのかもしれない。さらにその晩の記憶を掘り起こしていくと、焼売に対してわたし独自の趣向が隠されていることに気づいた。
そこで出てきた焼売は当然だが出来たての熱々で、みんなハフハフしながら食べたのを思い出した。料理はできたてがいちばんおいしい。それは真理であると言っていいが、焼売に限ってはしばらく時間をおいた方がよいのではないか。
そう、崎陽軒のシウマイのように。

焼売と餃子は大きさが重要です。特に焼売は崎陽軒の大きさがベスト。

さらにもうひとつ、思うところがある。
以前ある居酒屋で気になるメニューを発見した。おすすめのコーナーに「ジャンボ焼売」とあった。隣にはご丁寧にジャンボ餃子もある。
わたしはみなさんに問いたい。
焼売も餃子も、大きいとそんなに嬉しいですか?
物事には「適量」というものがある。焼売の皮は8センチから10センチほどの正方形で、薄めなのが特徴でワンタンもこの皮を使う。餃子の皮の普通サイズは直径8.5cm(7g)、大判サイズで直径9.5cm(9g)だ。ジャンボサイズはこれらからまったく逸脱したものであり、昔わたしはジャンボ餃子を一度だけ食べて懲りた。旨い不味いの問題以前である。料理のバランスをまったく無視している。お店から揶揄われているのじゃないだろうかとさえ疑った。
わたしにとって焼売も餃子も、一口でちょうどよく食べられる大きさであることが大切だ。というより、焼売と餃子に限ってはそれは最重要の様式だと思っている。

崎陽軒に敬意を表して、焼売をあえて「シウマイ」と表記したい。

ここで崎陽軒のシウマイに戻る。
つまり、わたしにとって焼売の定義とは、冷めていておいしく、崎陽軒と同じ小ぶりなサイズであること。できれば同じ大きさであることが望ましい。
元来、崎陽軒のシウマイ弁当は駅弁として開発された。
冷めてもおいしいことが必須であり、大量生産に向いていて、おかずとしても満足感がなければならない。それを見事に満たしたから、誕生以来数十年も変わらずに愛され続けている。当然わたしも愛している。振り返ってみると、焼売といえば、この崎陽軒のシウマイしか意識してなかった。だからわたしの舌はとことん独善的かつ限定的になってしまったのだ。
現在、迷いはまったく無い。わたしは焼売に限っては崎陽軒を基準にしている。
これが、最高峰なのだ。

ところで、わたしと相棒の凄腕料理人の施さんは、定期的にわたしの狭いアパートでゲストを招いて食事会を開いている。元々は、現在は企業の商品開発に携わっている施さんの、「制約なしに好きに料理を作りたい」という欲求不満解消のために始めたものだが、回を重ねてひと通り鄭さんの気がすむと、こんどはゲストを喜ばせるだけでなく、驚かせることが何より面白くなってきた。
そこでわたしが「崎陽軒のシウマイをお家で再現する」というアイデアを出した。当初、施さんは「もっとおいしい焼売のレシピがたくさんある」とあまり乗り気でなかったが、「パーティの途中で崎陽軒の箱に入れて出そう」というわたしの提案に眼を輝かせた。
崎陽軒の味はみんな知っている。
そして食べた後に「実はさっきここで作ったんだ」と種明かしする。
そこまで説明すると、施さんの不良魂に火がついた。元は本牧の不良外国人なので、パーティ好き、女好き、いたずら好きなのだ。
パーティでバカうけだったことは言うまでもない。

弁当とこの小さい箱は6個入り。試食のために買った箱に詰め直した。
大きな箱は15個入り。これも試食のために買ったのを取っておいて詰め直した。

パーティでバカウケ!誰もが崎陽軒だと信じて疑わない。
完コピした【崎陽軒のシウマイ】は、味はもちろん何よりも大きさと食感に
こだわった自信作です!ぜひ冷ましてから食してください。

【材料】20個分(暫定4人前)
豚ひき肉 200g
豚ロース肉(スライス・切り落とし)50g
玉ねぎ 80g (中1/2個)
グリーンピース 8g (20粒)
帆立貝柱 20g(缶詰・汁も使う)
塩 小さじ1/2
胡椒 少々
砂糖 小さじ1
貝柱の汁 大さじ1
片栗粉 大さじ1
しゅうまいの皮 20枚

●しゅうまいの皮の四隅を落とす。

●玉ねぎをみじん切りにする。食べて歯に感じないくらい細かくする必要がある。ミキサーは水を必要とするので使えません。

●グリーンピースを潰して軽く刻む。上に一粒のせるスタイルがあるが、崎陽軒は一緒に練り込む。それもわざわざ荒く不揃いに潰して。

●貝柱をほぐす。(汁は取っておく)

●豚ロースを刻む(肉の食感のため、スーパーのひき肉より細かく)

●玉ねぎみじん切りに片栗粉を混ぜる。

●ボウルに豚ひき肉とミンチした豚ロース、調味料(塩、胡椒、砂糖、貝柱と貝柱汁)を入れ、粘りがでるまでとことん練る。

●皮に包んでいく(1個あたり20g見当)正確には崎陽軒のシウマイは1個16gだ。この大きさ(小ささ?)こそ命だと思う。

●せいろにクッキングシートを敷き、蒸し器で6分。(蒸し器に直接でもよいが、蒸籠に入れるとまとめて取り出せるので便利)蒸し時間は湯気が出始めたら計る。

●崎陽軒の箱に詰める。

●醤油とからしをつけて食べる。みんな騙される。

完全再現のためには注意事項が満載です。

施さんはコピーするにあたり、味はすぐに解明できたが、食感を再現するのは苦労したようだ。例えば玉ねぎはとことん細かくする必要があり、フードプロセッサーでは水を入れることになるので人力でやるしかなかった。肉も挽肉とロースのみじん切りを混ぜるという荒技を使った。崎陽軒では当然だがこれらの作業はすべて機械だ。そのために非常に面倒な工程が含まれている。

崎陽軒シウマイの完コピの難しさは、あの大きさで味わう食感にある。玉ねぎは歯に感じないくらい細かくする。グリーンピースは上に載せるのではなく肉と一緒に練り込む。あえて粗く大きさもバラバラなのが特徴だ。豚ひき肉はひき肉と豚ロース肉を細かくミンチしたものを合わせて使う。ロースをミンチにした方が、ひき肉よりも細かくなければならない。これらによって独特の食感が出る。調味料は特別なものは使っていない。

いくつ作るか、つまりレシピは何人前が妥当かを考えたところ、蒸籠に入る個数でさらに肉の分量がスーパーで売っているトレーの挽肉の量から妥当な個数として20個作ることにした。ちなみに崎陽軒のシウマイは1個16g。弁当と小さい箱は6個、大きな箱は15個となっている。

しゅうまいの皮は四隅を落とす。料理屋ではこれを揚げてエビチリなどに添える。つまり、これがあったらその店は焼売を手作りしているということです。

あるサイトで発見し、思わずポチったTシャツ。

https://www.youtube.com/watch?v=1rCgPMBxst0

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