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シード期SaaSが最初の売上をあげるまでの「荒野の期間」をどう生き抜くか

シード期のSaaSスタートアップがMVPをローンチしてから、最初の有料顧客を数社獲得するまでの期間は、荒野の期間(Wilderness Period)と呼ばれます。

MVPだと思ってローンチした製品を売ろうとすると、当初は予想していなかったフィードバックを顧客からもらい、新しい要件(新しいMVP)のコーディングに追われ、というサイクルを繰り返します。荒野の期間は、2ヶ月、2年、あるいは永遠に続くかもしれません。

MVPを作っているときの純粋な可能性と興奮に対して、お金を払ってくれる顧客を見つけられないという現実に直面するのですから、この時期はスタートアップ人生で最も不安な時期のひとつです。マイク・タイソンの言葉を借りれば、「パンチを食らうまではみんなプランを持っている」のです(“Everyone has a plan until they get punched in the face.”)。

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荒野の期間が終わるのは、スタートアップがようやく最初の本格的な売上をいくつか上げたときです。私はこれを「ペニー・ギャップ(Penny Gap)」と呼んでいます。ただし、友人や同級生への販売はカウントされず、無関係な人への販売のみが対象となります。また、このマイルストーンは、単に顧客を獲得するだけではなく、顧客をうまくオンボードして、新しい顧客を紹介してくれるようなハッピーな顧客にする必要があります。言い換えれば、これらの取引は、今後も再現性がある場合にのみカウントされるのです。

これは、(1)チームが永遠に荒野から抜け出せないわけではないこと、(2)創業時のアイデアが単なる良い話ではなく、市場があると思われること、(3)チームには仮説を現実の売上に変える能力があることを証明するためです。

買い手をリバース・エンジニアリングする

荒野の期間は、MVPのローンチと買い手探しから始まります。ビジネススクールの教科書では、創業者は非常に具体的な顧客を念頭に置いてスタートし、彼らの要求に合わせて製品を作ることになっています。しかし実際には、最近のSaaS創業者の多くはプロダクト・ファーストです。彼らは、作りたい製品とそれが生み出す価値について強いアイデアを持っていますが、市場参入のための戦略を考える必要があります。そこで彼らは、MVPを発表し、その反応を見て、最初のセールストークを行い、潜在的な買い手に対する理解を深め、次の見込み客に対してより魅力的な製品を提供するために製品の改良を行います。つまり、スタートアップは買い手をリバースエンジニアリングしているのです。このプロセスは再帰的で、創業者は次のような質問に答える必要があります。

どのような目先の痛みを解決するのか?

買い手を見つけるためには、製品が目の前の痛みを解決しなければなりません。痛みの度合いが弱すぎたり、抽象的だったりすると売れません。理想的なのは、誰かがあなたの製品を必要としていることです。このハードルをクリアするには、機能を追加して製品をより包括的にするか、購入の原動力となるキラー機能やユースケース(製品のくさび)を見つけるかのどちらかです。弱いユースケースをたくさん集めても、強いユースケース1つには勝てません。同様に、多くのユーザーの小さな痛みを解決することは、より少数のユーザーの大きな痛みを解決することにはなりません。

買い手は一体誰なのか?

目の前の痛みは何か、誰がそれに苦しんでいるのかを理解すれば、理想的な顧客像をより明確に描くことができます。ターゲットは、会社の規模、事業内容、業界、ユースケースなどの観点から定義されていますか?エンドユーザーは社内のどのチームでどんな役割ですか?
さて、ここからが厄介なところです。このユーザーは実際に買い手なのでしょうか?エンドユーザーが技術や予算の決定権を持っていない場合もあります。その場合は、エンドユーザーを販売のためのチャンピオンにする戦略が必要です。あるいは、製品の機能や価格を、実際の意思決定者の基準や予算に合わせて調整する必要があります。

どうしたら買い手と商談ができるか?

買い手が誰なのかを理解したら、その人にたどり着くための方法が必要です。リードはどこから来るのでしょうか?あなたが見つけるのか、それとも彼らがあなたを見つけるのでしょうか?会社へのエントリーポイントはどこですか?すべてのステークホルダーと予算のソースを特定していますか?購入の必要性を高めるようなイベントはありますか?勝利のためのピッチと製品デモは?買い手は既存システムをもっているのでしょうか、それとも完全に新規システムとしてあなたの製品を購入するのでしょうか?可能な限り、新規システムとしての機会を狙ってください。既存のテクノロジーを取り除くように見込み客を説得しなければならない場合、販売するのは10倍難しくなります。

創業チームや創業者の信念をどう進化させるか?

ペニーギャップへの過程で、創業者は自チームに必要なスキルがすべて揃っているかどうかを常に評価しなければなりません。創業者自身が最初の営業を行うのがベストですが(反対意見を聞き、営業と開発チームの間で緊密なフィードバックループを維持するため)、創業チームに営業のDNAを加えることで、物事を大幅にスピードアップすることができます。創業者は、自分の弱点を補強するために採用すべきです。

おそらく最も重要なことは、創業者が自分のビジョンと、初期の売上を達成するために必要な調整とのバランスを取ることです。創業者は創業時に決めた信念に囚われすぎて、自分がしなければならない変化に気づかないことがあります。創業者の信念は、スタートアップを軌道に乗せるために非常に重要なものですが、ときにスタートアップの失敗原因となるのです。行き詰った創業者が自分の信念を少し緩めることができれば、驚くほど新しい可能性が開けてくることがあります。

荒野の期間はどのくらいが長すぎるのか?

スタートアップが荒野にいる期間が長すぎると、投資家はチームの実行力や市場仮説を心配し始めます。どのくらいの期間が長すぎるのでしょうか?それは、分野や販売サイクルの長さによって異なります。スタートアップを対象としたSaaSツール(通常、1~2ヶ月の販売サイクルを持つ)は、6ヶ月でペニーギャップを越えることができるはずです。これは、営業と製品の間で何度か反復的なループを行うための時間です。

企業の複雑な要件を満たすために製品を開発しているスタートアップの場合は、企業の販売サイクルが通常6ヶ月かかるため、より長い期間(おそらく1年)が必要になるでしょう。このような理由から、私は最初の顧客をスタートアップや中小企業とする市場開拓戦略を好んでいます。年に2回ではなく、1〜2ヶ月ごとに新しい製品・市場の仮説を検証することができれば、数倍早く反復することができます。

エンタープライズをターゲットにする場合は、特定のチームや事業部に売り込むことが重要です。なぜなら、エンタープライズ企業は非常に大きいため、全体に売り込むことはスタートアップにはほとんど不可能だからです。重要なのは、エントリーポイントを見つけ、そこから着地して拡大していく(land&expand)ことです。フリーミアムでプロダクトを使えるようにすることも大いに役立ちます。

販売サイクルが長くなると、フィードバックを得る回数が減るため、エンタープライズ向けのスタートアップは荒野で死ぬ可能性が高くなります。このようなスタートアップには、その分野で豊富な経験を持ち、資金調達能力が高く、初期のパイロット顧客を持つ創業者がいると非常に助かります。

荒野で迷子になった?どうしましょうか。

荒野の期間に創業者が犯す最大の過ちは、根本的な変更を行う前に、あまりにも長く同じ状態で居続けてしまうことです。何度も繰り返してもペニーギャップを越えられない場合は、市場の前提が間違っていると考える必要があるかもしれません。その場合、できるだけ早くピボットする必要があります。
私自身、このような経験をしてました。2007年、私は家族向けのソーシャルネットワークであるGeni.comを立ち上げました。何百万人ものユーザーに登録してもらい、順調なスタートを切りました。しかし同時期に、Facebookが大学生にも開放され、急激な成長を遂げていました。私は、このままではFacebookが家族向けSNSを食ってしまうのではないかと心配になりました。そこで私は、企業向けのソーシャルネットワーキングに軸足を移すことを考え始めました。そのアイデアがYammerとなり、2012年にユニコーンになったのです。

もし、最初のアイデアが成功しないという絶対的な証拠が出るまで待っていたら、このような成功には至らなかったでしょう。それよりも、腹の底から湧き上がるような感覚に耳を傾け、データよりも先に行動したのです。荒野で迷子になっている創業者は、こうした感覚に耳を傾け、まだピボットを実行できる時間があるうちに、行動に移すべきです。優れた創業チームは、適応する方法を見つけ、何度も打席に立つことができるのです。

ペニーギャップを越える

ペニーギャップを越えると、あなたは荒野を抜け出し、実際の顧客から学ぶというエキサイティングな新しい段階に入ります。これは、チームにとって大きな節目であり、自信につながります。

問題は、それを継続できるかどうかです。最初の売上はたまたまだったのか、それとも再現可能なのか?次の重要なマイルストーンは、前月比の成長です。ARR100万ドル以下では月次成長率20%、100万ドル以上では月次成長率10%が、SaaSスタートアップの基準となります。この成長率を達成できれば、優れたシリーズAへの道を歩むことができます。

謝辞を述べます。First RoundのJosh Kopelmanは、2007年に「Penny Gap」という言葉を初めて作り、無料で提供されている製品の プレミアム・バージョンに消費者がお金を払うことの難しさを表現しました。ここでは、この言葉をSaaS企業が直面するハードルに置き換えてみました。どちらの場合も、収益の額よりもマイルストーンで示される二値的な証明の方が重要であり、だからこそ「ペニー」で十分なのです。

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原文:The Wilderness Period
著者:David Sacks
免責事項
当該和訳は、英文を翻訳したものであり、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照して頂くようお願い致します。当記事で掲載している情報の著作権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。

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