コンポーネント3

『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』にまつわる話

Saashi & Saashi(サアシ・アンド・サアシ)のSaashiです。
コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』を2019年12月26日より一般販売開始致します。今秋にドイツの出版社dlp games(以下dlp社と表記)からリリースされたインターナショナル版の日本語バージョンとなります。

画像11

コーヒーロースター 欧州エディション日本語版
価格:4000円(税抜)
プレイ人数:1人
プレイ時間:10分/30分
対象年齢:12歳以上
※dlp社版と同じアートワークを使用

もともとこの『コーヒーロースター』というゲームはわたしが作ってSaashi & Saashiから2015年にリリースしたオリジナル版があり、初めて海外出版社からリリースされた版としては2016年に台湾の出版社BigFun Games社から出版された中国語版があります(中国語版はオリジナル版のアートワークを使用)。今回のインターナショナル版はdlp社の編集のもと、新たなアートワークで生まれ変わり、欧州では今年10月末にリリースされました。※ルールにはほぼ変更がなく、オリジナル版と同様のゲーム内容で楽しむことができます。

画像2

この新バージョンを元に北米版のStronghold Games社を始めとして、その他韓国版なども発売されます。『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』はその新しいアートワークのバージョンを元に日本語化したものです。つまり『コーヒーロースター』というゲームの「海外版を自分たちで再び日本語化して日本語版を出す」ということになります。逆輸入的な日本語版の立ち位置です。今回のような海外版になった新版をわざわざ自分たちで日本語化しなおして、自分たちで出版するというのはまだあまり見かけない事例でもあり、その経緯なども含め、今回は良いタイミングと思いますので『コーヒーロースター』というゲームにまつわるいろんな話をここに書き留めておこうと思います。

『コーヒーロースター』初版を作った頃

このゲームの初出は2015年秋のゲームマーケットでした。当時としては(もしかすると今でも)1人専用のボードゲームというのはとても珍しいものでした。丸4年が経過していますので、もはやご存知の方も少ないかもしれませんが、わたしたちはその半年前の2015年3月に『Aコードで行こう』というゲームを作ってゲームマーケット大阪に初出展していました。

『コーヒーロースター』は2作目だったということになります。1作目が小さな箱のトリックテイキング・カードゲームだったこともあり、次作はどうするかなと考えていた頃に、「次の2作目が分かれ道ですよ」というようなことを当時TANSAN朝戸さんが話してくれていたのを思い出します。

朝戸:でも、一作目だけではまだそこははっきりとはわからないんじゃないですか? 次に二作目が出ることで、だんだんわかってくると思います。二つの作品が並んだ時に「ああ、なるほど~」って見る側も思いますから。だからぼくはいま、おふたりの二作目がすごく気になってます。
Saashi:さっきおっしゃっていた「文脈」ですね。ぼくはどうも偏屈だからかもしれないけれど(笑)、二作目を作るにあたっては「ここでこう来たから次はこうかな」という予定調和を敢えて外したいと考えてしまうんです。それは自分に対する予定調和対策でもあって。飽きっぽいので、自分が退屈に感じないように。
朝戸:ああ! でも外したほうが良いと思いますよ。ぼくは、それをサザン(・オールスターズ)方式と呼んでいます。サザンは一作目に『勝手にシンドバッド』でデビューして、おちゃらけたコミックバンドなのかなと思わせておいて、そのあと三作目で『いとしのエリー』を出して「こんなことも出来るのか!」と驚かせたことで広がっていったと思うんですよ。そのサザン方式は戦略的にすごく正しいとぼくは考えてるんです。
(2015年「Talk & Talk  vol.2 feat.TANSANFABRIK 朝戸一聖 後編」抜粋)

わたし自身の中では次作に出すべきは「大きな箱に入った、ボード付きの1人専用ゲーム(ソロゲーム)だろう」とぼんやりと考えていて、それが『コーヒーロースター』として結実しました。ゲームマーケット会場では『コーヒーロースター』の実物を手に取ってくださった幾人もの方々が、首を傾げつつ「どうしてこの2作目のタイミングでソロゲーム作っちゃうかなあ?!」と口にしておられたのを今でもよく覚えています。それくらいソロゲームというのは良い選択肢ではなかったようでした。そのあたりは薄々自覚していたので、わたしたちも含み笑いでした。

ソロゲームで大きなコンポーネントを備えたものというのは珍しかったですし、何よりリリースした当初それほど売れ行きもよくありませんでした。実際ゲムマでは、持ち込んだ数量の半分ほどしか売れなかったです。小さなサイズのブースだったこともあって山積みの段ボール箱でバックヤードを圧迫し、隣のブースだった大新さんにご迷惑をおかけしたことを申し訳なく思い出します。当時『コーヒーロースター』を買ってくださった方は、ソロゲームをお好きな方か、コーヒー好きの方か、もしくはそんな大きなソロゲームなんて代物をわざわざ作ってリリースしようなどという酔狂に対して面白さを感じて買ってくださった方がほとんどだったろうと思います。

画像8


『コーヒーロースター』オリジナル版(2015年)

作った当時わたしの頭にあったのは、「今後10年の間、似たようなものを誰も作らないようなソロゲーム」を作りたいという考えでした。端的に言えば、その時自分が作らなければ、あとあと世界の誰も作らないまま終わるようなものですね。それは時代の潮流に乗っているかどうかはさておき、少なくともブルーオーシャンだとは感じていました(なにもないので誰も近寄らず空いていた海域だっただけかもしれないのですが)。

わたし自身はソロゲームをプレイすることがとても苦手で、『ロビンソン』や『オニリム』といった有名な1人用のゲームをプレイしてもうまくいかず、そして何よりカードがメインのゲームばかりでその規模感にも物足りないものを感じていました(当時から1人プレイ可の多人数用ゲームやウォーゲームなどの界隈での1人専用ゲームなどは存在していたと思いますが、わたしの周囲にはなく目に触れる機会がなかったのでした)。

わたしがデザインする時に構想したのは「自分がプレイすることのできるソロゲームを作ろう」というもので、そのために注力し始めたのがの『Aコードで行こう』リリース直後の2015年4月頃から。『Aコード』の初版生産時に印刷所と揉めたこともあって、再版のための印刷所を探しも必要で香港の工場などと相談を始めたりして時間を取られる中、ソロゲームのデザインのほうは、テーマとしてアンリ・ベルクソンの記憶にまつわる哲学的な思考を選んだことによって極めて難航していました。

そして秋のゲームマーケットでリリースするなら、時間がなくなってきていて、いよいよ21日後にはフィックスしないと日程的に危ないよ、という頃合いで、ある日カフェのソファでコーヒーを飲みながら、「あ、コーヒー焙煎のテーマにしたら完成する!」とひらめいたのでした。というのも、その時点ですで「厚紙トークンを使うこと、袋から出し入れするバッグビルドの構造」などはすでに揃っていましたし、そもそもその数年前からわたし自身が焙煎にハマって、本物の小型焙煎機(ロースター)を購入しようか真剣に悩んでいたほどでしたので、焙煎の知識が前提としてわたしの中にあったことが幸いしました。このあたりを詳しく書くと長くなるので削りますが、ともかく残りの21日間で主要なゲームデザインとテストプレイを何段階かと、テーマ的なフレーバーの部分を一気に詰めて完成しました(さらにこのあと、発売までの間に22種類が登場するコーヒー豆の選定や説明文、そしてその豆を表現する数値のバランスなどに時間をとられることになります)。

そこから生産に関する諸問題についてもごっそりと削ります。この初版の生産に関しては、事前に名古屋まで出向いてご相談させていただいた株式会社モリカワ(現BGM/盤上遊戯製作所)さまの多大なご協力を賜り、最高品質の厚紙トークンを制作していただけことは明記しておかねばなりません。当時の『コーヒーロースター』初版と第2版におけるモリカワさまの生産面でのご尽力にはいまも変わらず感謝しております。

海外での反響

このゲームのリリース当初は大して反応はありませんでした。しかしわたし自身には焦りはなく、おそらくこういったニッチすぎるゲームは「海外のほうが好きな人が多そうだな」と考えていました。といいつつ、ツテも知り合いもない状態から一気に「海外のゲーマーに知ってもらう機会」というものもそうそうあるようには思えないのが実情でした。そんな頃、とある機会にアメリカの動画紹介サイトの「The Dice Tower(ダイスタワー)」のレビュワーの連絡先から何から渡りをつけて、ぜひ送るようにとお声掛けくださる方があり、ご協力を得て、さっそく手配していただきゲームをお送りすることになりました。後で聞いた話ではつまらないゲームならピックアップされず、厳しいところも指摘するシビアな一面もある有名レビュワーなのだということでした。

しばらくすると、ダイスタワーの有名なレビュワーの一人であるZee Garciaさんが『コーヒーロースター』を取り上げてくださった紹介動画の中で、大変に激賞してくれました。ダイスタワー内の最高評価である「SEAL OF EXCELLENCE」を与えてくださったのでした。

スクリーンショット 2019-12-26 4.32.39

その後もZeeさんが「今週の気になったゲーム」とか「月間ベスト」などにもこのゲームを連続的にピックアックして熱くご紹介くださったことで、世界最大のボードゲームのデータベースBoardGameGeek(BGG)の『コーヒーロースター』に関するスレッドも飛躍的に増え、海外ゲーマーに認知される大きなきっかけになったのでした。これを境にして海外からの問い合わせがものすごい数で届くようになります。その時点で初出から7ヶ月以上が経過していました。

海外からの購入希望の問い合わせがものすごく大量に届き始めるようになると、連日連夜メールフォルダに溜まり続けますから、それに対処しなければなりません。誠意を込めてすべてに返信を素早くすることをモットーに、毎日毎日丁寧にリプライしていきました。何もかもが初めてづくしです。もちろん英語でのやりとりですが、配送方法や送料を丹念に調べ、それを整理して選択した上で購入希望者に案内します。送付先の国が違えば、配送料金も変わります。ある配送方法では送ることができない国もあります。1つの問い合わせにつき、1回の返信で完了するわけではなく、何度もやりとりしなくてはなりません。海外からの入金があれば、それを確認して丁寧に梱包した翌朝、個人宛に発送します。コンポーネントが足りなかったとか、ぶつけて潰れていたとか、誤配送とか、ロストとか、さまざまなトラブルもあります。

それでもそれを毎日毎晩続けました。何十カ国に送ったのでしょうか。正確には数えていませんが、アメリカはもとより、カナダ、ヨーロッパ諸国ではドイツ、フランス、イギリス、オランダ、スペイン、ルクセンブルク、スイスからイタリアやアイスランドにも、北欧はスウェーデンからノルウェー、デンマーク、東欧はポーランド、エストニア、ラトビア、ブルガリア、ルーマニア、そしてロシア、あとはギリシャやマルタ、イスラエルなどの国々にも、トルコや南アフリカ共和国やマダガスカルにも、チリやアルゼンチン、ブラジル、コロンビア、メキシコやボリビアにも送りました。もちろんアジアは韓国、中国、台湾、タイを始め、インドからベトナム、シンガポール、インドネシア、あとはオーストラリア、ニュージーランド、果てはパプアニューギアやその他の島々にもお送りしました。紛争があった地域には残念ながら発送をお断りした国もありました。

当時はほとんどが個人宛の発送でしたが、みなさんが商品を受け取ったあと、すぐにプレイして感想を送ってくださいました。南アフリカの方は焙煎機を作っているメーカーのようで、その焙煎機とともにゲームのBOXを飾った写真を添えてくれました。BGGでのこのゲームに対する評価も高く、10点満点中10点を入れてくださる方が多いことにも驚きました。ソロゲームなので、個人で遊んでくださるご当人が楽しんでくれるのが最高の形です。わたしは海外のスレッドなどはあまり頻繁には見ないのですが、ある日『コーヒーロースター』に関する海外のスレッドをぼんやり眺めていると、このゲームに関するとても詩的な表現の文章を見つけました。

「ひどい一日を過ごした。仕事は大変で、長時間で、渋滞は最悪だった。でも、このゲームをプレイした後はいつも、それらが少し軽くなるように感じる。 素敵だ。」(原文は英語)

ゲームは食品やトイレットペーパーとは異なり、個々人の嗜好物でしかないのは事実ですが、暮らし中で誰かの生活の憂いのようなものをゲームを楽しむことで忘れさせることが一瞬でもできるのだとしたら、それはやはり作り手にとって非常に喜ばしいことで、上記のような言葉を目にするたびに、わたしは作り手として大変にありがたく感じます。この文章に触れた時の感謝の気持ちはいまでも忘れていませんが、同時にそれはこのゲームのアイデアをわたしが頭の中で転がしていただけでは出会うことができなかったものだとも感じています。ゲームデザインをして完成させ、リリースし、そして海外のゲーム好きの方々の手に届けるまでの行動を通じて、ようやくやっとこさ触れることができたことなのだと思います。だからこそ、そこに至るまでの繋がりに感謝したいと思ったものです。

しかしそれほどの喜びがあっても問題は起きるもので、日夜止まらないメールの受信に始終対応し続けることで、わたしの体力が連日削がれ続けて行くのが大きな問題になってきました。当時はもちろん兼業でしたので、わたし個人の睡眠時間をひたすら削るほかなかった上に、並行する形で次の第3作にあたる『フィルムを巻いて!』を構想し、完成に至るまでの作業をスタートさせていました。もともと健康に自信のあるほうではないわたしにとって、当時の状況はいま思い出しても体力的に地獄でした。

平均睡眠3.5時間という日々は、何週間も続けているとかなりつらいもので、通勤の電車の中と昼休みでの仮眠でどうにか倒れずにやっていれたものの、そんな生活を半年ほど続けた頃には本当に限界を感じて、いわば健康上の要請から「いまの仕事を続けるか、ゲーム制作に専念するかの二者択一」を迫られることになったのでした。つまりこのゲーム『コーヒーロースター』の存在が、わたしが専業になるきっかけでもあったわけです。(いまだにその頃の後遺症として、寝不足になると左頬の一部に赤みが出る謎の症状が残っています。無理をし続けるのは本当にお薦めしません)

他にも問題はまだありました。このゲームは当時日本での価格は税抜きで4000円(その後2版からは4500円に)で、それを海外の個人向けに送る場合は単純に送料が加算されるだけですが、海外の店舗に送る場合は卸価格に送料が加算されて、日本の売価のほぼ2倍くらいの価格になって彼らの顧客に販売されるようでした。つまり7000円を超えたくらいの金額になります。最初に海外で素早くそれを見つけて買ってくださる方はアーリーアダプタの目利きの方々で、その価格でも購入する価値を見出してくれるありがたい存在です。そして彼らが買って遊んで紹介してくださることで、さらに評判が広がっていきます。でもそのうちメールの問い合わせにも、「高い、高すぎる!」という声が聞こえるようになります。これは自然なことで、評判が広まったことでアーリーアダプタの層には一旦行き渡り、もっと広い層まで到達した証でもあるからです。つまり現地の出版社によるローカライズに移行すべきタイミングが訪れたということでもあります。

海外の出版社との交渉

わたしたちの元には2016年の中頃から、購入目的のメールの他に、海外出版社からの問い合わせが同時的に舞い込んでいました。わたしは例によってそのすべてに返信し、連絡を取り合い、そして出版契約の交渉を始めました。知り合いもツテも何もない状態なので、自分自身でやるほかなったですし、また契約についてのことは自分で舵取りをしたいという強い思いもあって、どうにかやりとりを始めたのでした。

しかし契約面や業界に対する基本的な知識の不足や経験不足もあり、わからないことや知らないこと、どうしたら良いのか判断のつかないことも多く、当時、先達やお詳しい方々に個人的にお訊ねさせていただいてご助力を得ました。Okazu brandの林尚志さん、I was gameの上杉真人さん、Oink Gamesの佐々木隼さん、BigFunGamesのヤンさん、ヤニックさん、小野卓也さん、Saigoさん、それぞれの方々に親身になって相談に乗っていただきご助言をいただけたことに感謝致します。そして、その優しさにわたし自身が大変助けられ、支えとなりましたことに改めてお礼申し上げます。

海外の出版社の『コーヒーロースター』に関する問い合わせは、大小合わせて30社くらいはあったかと思います。有名な大手出版社、中堅の出版社、まったく知らない小さな出版社、そしてキックスターターをメインでスタートしたいという新しい出版社まで多種多様です。それらすべてに契約の条件を提示したり、提示してもらったりして取捨選択していく中で、ある大手出版社と契約する運びになりました。しかしながら、契約寸前で出版社側であるトラブルが重なり、白紙に戻るという事態に発展しました(この間に2年近くが経過)。その出版社の担当者はできる限りの対応をしてくれましたが、社の方針としては白紙に戻る結果となり、今後のためにいくつかの出版社に渡りをつけてくださったのですが、こちらの状況としてはまたイチから始め直しということでした。

そんな噂を聞きつけて、手を挙げてくださったのがdlp社の社長であり、ご自身も有名なデームデザイナーであるライナー・シュトックハウゼン(Reiner Stockhausen)氏でした。ライナーさんとは、2016年当時から連絡を取り合っていて、彼と他のプロジェクトの話なども続いていた中で、「風の噂で聞いたのだけど、コーヒーロースターの契約の件が白紙に戻ったのなら、うちから出すことに興味あるかい?」と言ってくださって、そこからはトントン拍子で進んでいきました。それが2017年末〜18年初頭のことです。

そして、2019年初頭のニュルンベルクで『コーヒーロースター』を出版する海外パートナーをdlp社が募る際に、わたしは今回のバージョンの日本語版を自分たち(Saashi & Saashi)で日本国内にリリースしたい旨をライナーさんに打診し、快諾を得ました。わたしは日本国内での権利を保持していましたから可能だったのですが、ちょうどオリジナル版の『コーヒーロースター』もストックが切れて久しく、再版の可能性を考えていたところでした。そして敢えて今回のインターナショナル版の新しいアートワークでリリースすることは、「自分のゲームが海外で出版されて、それを自分たちで日本語版にしてリリースすること」を叶えられる良い機会だと捉えたのです。

dlp games社は『オルレアン』を出版したことで有名ですが、それ以前からずっとわたしのフェイバリットな出版社でした。かねてからdlp社のゲームを多く遊んでいて、いつかはこの出版社から自分のゲームを出したいなという思いがわたしにありました。dlpとしては、『コーヒーロースター』を単純にローカライズするのではなく、欧州や北米の市場に合うようにディペロップし直し、アートワークもそれに合わせて一新したdlp社の製品として出したいということでした。そこからルールについての細部に関する話し合いに入るのですが、ここも詳しく書くと長くなりますので割愛しますが、結果的にはオリジナル版のルールとほぼ同じ状態でフィックスすることになり、変更はほぼありませんでした。

アートワークは大きく変わりました。これは大人のソロゲームとして推したいというところで、オリジナル版のアートでは「大人向け」とするには誤解が伴うというところと、ゲーム業界だけでなく、カフェやコーヒーのファンにも訴求したい思いがあるということで、その見地に立って新しいアートワークは作られました。

とはいえ、コンポーネントの内実はオリジナル版を踏まえた形のものです。トークンの基本的なグラフィックのスタイルや、ボードの構成などもオリジナル版を忠実に踏まえて作られています。そして、BigFunGamesによる中国語版から導入された箱の中のプラスチック製のインサート/仕切り(オリジナル版の初版では紙製の仕切りでした)は、dlp版でも同じような形で踏襲されています。

インサート

この仕切りの有無で、ゲームのプレイアビリティがかなり違ってくるので、良点を理解し踏襲してくださったことをありがたいと感じています。

海外版の大きな変更点は「ビーンズシートの豆の名称」

大きな変更があった箇所は、ゲームに登場するコーヒー豆の名称と説明文です。これらはオリジナル版から大きく変更されました。ただし、ゲーム内容上の数値に関わる変更はなされていないため、ゲームバランスとしては元のオリジナルとdlp版とに違いはなく、同様に遊んでいただけます。『コーヒーロースター』はコーヒー豆を焙煎するゲームです。全22種のコーヒー豆が登場しますが、それぞれの豆を表す「ビーンズシート」というコンポーネントがあります。オリジナル版ではポストカードサイズの紙に、豆の名称と説明、そして産地の地図などが記載され、下部に豆を構成するための厚紙トークンの数量が書かれていましたが、dlp版では表面にトークンの数量と名称が、裏面に豆の説明が記載される形になりました。

大きな変更が加えられたのはビーンズシートの「コーヒー豆の名称」と「豆の説明文」です。これらはdlp社の手で編集され新たに書き直されました。そもそも名称の変更については、わたしからの打診に答えてくださった結果でした。

というのも、コーヒー業界における豆の名称というのは、品種と農場主の名前(農園名)が組み合わさっているものが大半なのですが、問題は農場主の名前が冠されている場合でした。農場によっては、その名称ごと商品として登録されているものがあり、名称の使用に関して後でうるさく言ってくる場合もあるのだ、ということを、わたしが『コーヒーロースター』の初版を出したあとに、日本のコーヒー業界にお詳しい方々がご指摘してくださった経緯がありました。そのため、初版の『コーヒーロースター』では、「イルガチェフ」のような実際に存在する農園や地域の名前、また実際に業界で流通している名称については、第2版以降では問題が起きないよう農園の名称などを使用しない方向でゲーム内の豆の名称を一部変更したのでした。

変更後の名称についても専門筋の方々に相談しました。コーヒー業界の方にとっては、変更前の農園にちなむ名前のほうがもちろん知れた名であり、大きく変更してしまうと、コーヒー焙煎のゲームとして嘘くさく映るところをどうにか工夫しなければなりませんでした。そこで、固有の名称はできるだけ避けつつ、業界の事情をうっすらわかる業界の人には「これはもしかするとイルガチェフあたりの豆を、敢えて農園名を伏せるためにこの名称に変えてあるのだな?!」と想像がつくかつかないか、くらいのところに留めて変更しました。

これはわたしたちの日本のオリジナル版の2版での話でしたが、今後インターナショナル版を出版して流通させるdlp社には、もちろん上記の経緯について詳細に伝えましたことから、豆の名称の変更について動いてくださったわけです。彼らは「そういう事情なら、名称については問題ないように変更する可能性もあるが、その場合はドイツのコーヒー業界の人やカフェと相談して決めるだろう」ということでした。しかし、欧州でのコーヒー業界の実情と日本の業界での差異もあることでしょうし、変更がどんな内容のものになるのか作者として気になっていましたので、その過程で意図も方向性も聞き、こちらの考えもその都度伝えました。変更後の名称や文章の内容によっては、日本のコーヒー業界の市場に合わせて変更し直す必要も出てくるからです。

カード

このあたりの事については、内実はもっと細かく話し合っています。細かく見ていくと食品に関する商標登録と、玩具・ゲームの商標は別物ですし、法律的な側面も含めてdlp社と相談し、調べてから動いてくださっています。たかがゲームかもしれませんが、できうる限り要らぬ面倒は起こしたくないということで細心の注意を払ってくださったことに感謝しています。

オリジナル版の初版制作時や、2版の製作時には、ビーンズシートの説明文や成分の特徴などを、焙煎の専門家やお詳しい関係者の方々のご協力を得て文面を練りました。コーヒー豆の焙煎ゲームですので、ディテールが非常に大切になってきます。初版や2版を手にとったコーヒー業界の方に感想を伺って「本格的なものだ」とお墨付きを得られるほど内容にこだわり抜いたコーヒー焙煎ゲームですので、今回のdlp版により再編集と豆の名称・説明の変更については心配するところがなかったわけではありません。

結果的に変更された名称・説明文は、dlp社の編集のスタイルとして、彼らの考える「一般的なコーヒー知識」をこのゲームの遊び手に提供しようということでした。平たく言えば、わたしがオリジナル版を制作する際には敢えて避けていた「コーヒーにまつわる俗説」なども恐れることなく、ちりばめて採用している文章になっているということです。ですから、dlp版の説明文の中では、産出国の説明と共にその国のコーヒーについての伝説や俗説なども記載されています。豆の説明文の中でも「固有の豆の説明」と「概論」とを並列して書いている場合もあり、伝わりにくいかもしれないと感じるところもありました。dlp社が選んだ監修者の存在も聞いていますが、わたしがオリジナル版の製作時に監修に入っていただいた日本の焙煎の専門家とはまた違う観点からの監修のような気がしました(監修者として不適格だったという意味ではありません)。もとより、ドイツと日本の焙煎市場の差異というのも前提としてあることは承知しています。

しかしながら、見逃せない点もあり、それらについては逐一理由を添えてdlp社に伝えて相談の機会を持ちました。例を挙げると、「ジャコウネコ」にまつわるコーヒーの説明などについてです。これは猫にコーヒー豆を食べさせて糞と一緒に出てきた豆を洗って焙煎する、という実に変わったコーヒーのことで「コピ・ルアク」という名前で知られています。幻のコーヒーという触れ込みで有名なコーヒーです。高価な豆として流通し、日本でも一杯1000円2000円とするような代物ですが、これは「猫の体内を通ることにより美味しさが加わる」というギミックによって有名なのですが、わたしからすれば、そういったネタに走らずともその産出国には立派な豆が他にあるという解釈から、オリジナル版の製作時にはジャコウネコの豆としてはゲームに採用しませんでした。しかし、dlp社としては有名なコーヒーとしてジャコウネコの豆が名が知れているという見解で、「それらをゲームに入れることは遊び手にとっても楽しいことに繋がるはずだ」というその主張自体はわからないではありません。

わたしはこのゲームを作る際に、各コーヒー豆を選定したあと、それぞれの豆の特徴の説明を書き、その豆にふさわしいバランスをゲーム上で得られるようにトークンの数値を設定していきました。つまり、そのジャコウネコの豆を、もしわたしが採用していたとすれば、もっと別の数値のバランスにしていたと思います。現状は別の豆がモデルになっているので、「豆の説明文を変えるのなら、トークンの数値から変えねばならない」という話をしたところ、dlp社としては「ゲームとしては完璧にバランスがとれているので数値の内容を変更する必要はない」という見立てなので、結果的には数値に関しては変更されていません。名称と説明文だけは変更となったわけです。

しかし、それでは日本のコーヒーの世界では、ちょっと変な感じに見られる可能性もあるかもしれず、そういうところについても話し合いを重ねました。しかし上記のようにdlp社としては、できるだけ問題のない形で、できるだけこのゲームを「広く」「多く」の人に届けたい、楽しんでもらいたいという思いで作ろうとしているのは理解できましたので、彼らの編集方針に対しては、最終的にはわたしが折れる形で「欧米版の説明文」は彼らの記載のまま採用、「日本版の説明文」に関しては彼らが折れてくれて「日本版のみ説明文を日本のオリジナル版を元に変更し直して良い」という形に収まりました。

説明文については、他に指摘した点はいくつもあり、dlp社も理解をしてくださって、わたしの指摘通りに記載を改めてくださった箇所も少なからずあります。例えば、説明文の中にある宗教家の名が文中に使われていたため、とかく宗教関係者の実名は(伝説であってもその宗教史的な解釈が異なっていると)出版界では非常にセンシティブな問題に絡む可能性もあるため、実名は載せないほうが良いとか、そういう部分はドイツ版や北米版でも文章は変更されています。

ということで、日本語版については作者であるわたし自身が豆の説明文を書き改めることになりました。ゲーム上の数値が変更されていない以上、基本的には元のオリジナル版の豆と同じですので、説明文もその版を元にしてdlp版の説明文も意識しつつ書き直しました。固有名詞を巧妙に避けているものの、日本でコーヒーのことにお詳しい方に見ていただいたとして、(上記の事情を知っていただいたあとなら)苦労の足跡を偲んでいただけるような範囲にはおさめて、ある程度まで誠実に書けているだろうと思います。

豆の「説明文」はこのように変更したのですが、豆の「名称」については、dlp社の採用した名称を踏襲して変更は加えませんでした。純粋に日本語化したのみになります。

今回の『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』はdlp社編集によるインターナショナル版を「日本語で楽しんでいただく」ということを念頭にしておりますので、豆の「名称」については日独のコーヒー文化の差異を含めても、できるだけdlp版に準拠する形で合わせようということになりました。

以上のような経緯がございましたので、今回の「日本語版」について、わたしどもの旧版(日本の元版)とはビーンズシートの豆の文面について差異がある点に関して、次のような一文をルールブックの巻末に添えることにしました。

"『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』についてこの『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』はドイツの出版社dlp games社により編集されたバージョンを元に日本語化したものです。Saashi & Sasshi により出版された日本オリジナル版の初版2015年、第2版16年と比較して、dlp社版は豆の名称及び説明文のいくつかが変更されております。コーヒー焙煎に関する欧州と日本の市場における環境の違いを考慮して、また今回の『日本語版』はdlp社によるドイツ版を日本語でお楽しみいただきたいという観点に基づいて校正を行ないました。豆の名称についてはドイツ語版のテキストに準拠しつつ、説明文については作者であるSaashiによる編集を部分的に行ないました。なお、ビーンズシートについて、ゲームのプレイ内容に関わる豆チップの数量や配分などの数値に関しては元の日本版と比較しても変更はございません。"(日本語版ルールブックより)

日本語版のルールブックについて

dlp社編集のインターナショナル版のルールブックの記述は、わたしたちのオリジナル版に比べて文章量が少なく、表現もはるかに簡潔で一見わかりやすく、dlp社が言うところの「誤読(誤解釈)のしようのない文章」になっていました。ただ、たしかに英文や独文で論理的で誤解なく伝わる文章でも、日本語にすると明確には定義しきれない部分も出てくる部分もあり、また日本の市場で同じ書法のままの翻訳文では、ルールとして正しく理解がされない可能性があると懸念がありました。また、ソロゲームという性質上、一緒に遊んで指摘してくれる他者がいないので、間違った認識でのプレイが訂正されないまま、ずっと気づかないで過ごされてしまう恐れが多分にあるので、dlp社と相談の上、日本語版ではわたしがオリジナル版の文章を元に加筆をすることにしました。

例えば、dlp社のルール記述のあとに、「この時、紙皿には配置できません。」というような、元版にあった文章を付け加えたという具合になっています。ドイツ語や英語だと「例外はありえない」書き方が可能なようで、それ以上の説明は不要という記述の仕方がされていますので、ドイツ語の文章では不要なのかもしれない加筆でしょうが、誤解釈によるプレイがソロゲームでは最も恐ろしいので、ルール通りに遊んでいただける環境づくりのため、日本語版ではお節介なくらいに加筆することにしました。(とは言ってもオリジナル版の文章よりは全体として短いと思います)

なお、今回の日本語版のドイツ語からの翻訳は、ルールブック、ビーンズシート、ボックス裏の文章いずれもTable Games in the World小野卓也さんに依頼しました。上記のような加筆や書き直しなどの過程については事前にご相談させていただき、ご了承の上で翻訳文を元に書き直しをさせていただいております。ビーンズシートやルールブックの内容に関する交渉の過程に関しては、大前提としてわたしの手元に小野さんによる訳文があったからこそ可能だったわけで、言い換えればdlp版のテキストに忠実に翻訳していただけたおかげで、それを元にして疑問点も見つかり、dlp側にこちらから指摘や質問をすることも叶いました。

上記のような経緯から、結果的には小野さんの訳文をそのまま記載する形ではなく、元版からの加筆やわたしによる文面の整理を経る形となりましたことにつきましては誠に恐縮ではございましたが、できうる限りの「質の向上」を目指した結果であるとご理解の上、小野さんにご了承いただけましたことに感謝しております。

通常ですと、日本語化に際して後から他者が手を加えると、ルール解釈における正確性の部分で怪しいものになる場合がございますが、今回は特例的に作者自身が元版に近づける形で修正を行なっておりますため、解釈違いによるミスはないと思います。そのため、ルール記述による誤解に伴う形で、訳者である小野さんにご迷惑が及ぶことはないかと思ったのですが、訳文とは別の文章が多く加わり、文が前後する箇所もあることから、最終的な「文責」の所在が曖昧になり、そのことでご迷惑をお掛けすることは避けたかったため、今回はクレジットに「ルール/ビーンズシート校正:Saashi」という記載を加えさせていただくことにしました。文の改変についての「文責」を、わたしの校正作業に負わせるという形にしております。

※『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』と日本のオリジナル版との相違点や細かな変更点などについては、後日まとめて記述します。

アプリ版『コーヒーロースター』について

秋の初めにすでに公表させていただきましたように、『コーヒーロースター』のアプリバージョンがdlp社主導で、数々のボードゲームをアプリ化を行なってきたBrettspielWelt社によって制作され、すでに購入が可能です(ルールブックの巻末にもその情報を記載してあります)。

アプリ写真

アプリ版はわたしも遊んでみましたが、元のアナログ版『コーヒーロースター』に非常に忠実に作られていると感じました。アートワークもdlp社のインターナショナル版に準拠しています。言語は現状はアプリ内でドイツ語と英語に切り替え可能ですが、コンポーネントには言語依存がないゲームのため、日本の方にも問題なく遊んでいただけるとは思います。アプリ版の日本語対応は後日可能になるよう準備を進めていますが、もう少しお時間かかります。利用可能になり次第お知らせしたいと思います。

アプリ版『コーヒーロースター』は、アナログ版を遊んだことのあるプレイヤーならすぐに遊んでいただけると思いますが、アプリ版で初めてこのゲームに触れる方には、やはりアプリ内のルール解説ページは日本語で読めるほうが良いと思いますので、日本語化は順次進めていくように致します(アプリ版とアナログ版の大きな違いは「豆の説明文」がアプリ版にはないことで、これはアナログ版との違いをどこかに設けておきたいというdlp社の意向に添っています)。

日本語版の販売開始によせて

画像10

今回『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』を制作するに当たって、多くの方々のお力添えを得ました。いつか自分のゲームが海外版となり、そのを日本語バージョンを「自分たちで出版することになったら」ご協力をお願いしたいと思っていたのは、小野卓也さんとTANSANの朝戸一聖さんでした。前述のように、今回のドイツ語からの翻訳は小野さんに依頼することが叶いました。

「日本語ロゴのデザイン」と「パッケージの日本語化のDTP」についてはTANSANさんにお願いすることができました。海外ゲームの日本語版制作の際、タイトルロゴのデザインはたいへん気を遣う作業だと思います。単純にロゴとして格好良く仕上げればいいというだけでは片手落ちで、元の海外版のタイトルロゴを念頭においた上でそこに沿う形でまったく別の言語である「日本語のロゴ」としてちょうどよく成立させる必要があります。今回TANSANさんは、カタカナのロゴとして明確でありながら、元のロゴと調和させつつ、目立たないわけでなく、かといって主張しすぎない、という絶妙のバランスでタイトルロゴを作ってくださいました。そして、パッケージ側面から裏面の整えもさすがの一言で、製作中のアイデアやご指摘も含め、いろいろ勉強させていただきました。その細やかな仕事に心から感謝を。

箱の裏

「ルールブックのDTP」は別府さいさんにお願いしました。dlp社の編集した新たなルールブックを、新たな訳文を元に日本語のルールブックとして生まれ変わらせてくださいました。さいさんはデザインの上でスペースのバランス感覚にとても優れた感覚をお持ちだという印象があったのですが、制作いただいた今回のルールブックは、字間ひとつとっても繊細に調節してくださっているのがわかり、結果日本語のルールブックとして大変見やすいものに仕上げてくださったと思います。時間の限られた中で、迅速なお仕事ぶりを見せていただき、大変に感謝しております。

ルールブック

お三方のご協力がなければ、今年秋までのスケジュールの中でdlp社側の出版日程に合わせて進行させることは難しかっただろうと思います。お力添えをいただきまして感謝です。ありがとうございました。

というわけで、長くなりましたが、以上が『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』のリリースに至るまでの経緯の概要です。これだけ書いて、ゲーム内容についてはほとんど記載していないことには気づいています。ゲーム内容の詳細は『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』の紹介ページをご参照いただきたいと思います。

日本語版はdlp社やStronghold Games社などの版と共にポーランドの工場で生産されました。実はこの日本語版だけ、他の言語版よりも断トツで部数が少ないです。わたしたちの他の新作ゲームと比べても大幅に少なくて、部数は「1000部」のみです。わたしが決めた部数ですが、これはすでにこの数年間でオリジナル版の『コーヒーロースター』がそれ以上の部数販売されていた事情を鑑みた結果です。ただ、実際のところオリジナル版の半分以上は海外へ向けて販売されたことは確かですし、今回のインターナショナル版は元版とアートワークも違います。そして2015年にリリースされた元版の『コーヒーロースター』をすでにご存知ない方も多くなってきた頃合いだろうとも思いますので、もう少し部数は多くても良かっただろうとは思っています。

ある国の国内版を出版するという際に、1000部というのは非常に小さな部数だと思います。通常の下限よりずっと低いのではないでしょうか。わたしたちが同時期に大きめの新作『旅のあと』を生産するタイミングで、そちらの部数がもっと大きなものだった事情を加味してもです。その小さい部数を、ライナーさんはこちらの事情も理解の上で快諾くださったことで、今回の日本版の生産がこの部数で叶いました。

画像5

Saashi(左)とライナー・シュトックハウゼン氏(右から二番目)、アプリを制作されたBrettspielWelt社の方々と共に。2019年エッセンSPIEL会場にて

製品自体のクオリティはいつものdlp社製の高品質です。dlp版、Stronghold Games版の『コーヒーロースター』はすでに10月末のエッセンSPIELの会場にて発売されていましたので、わたしも現地を訪れた際に手にして品質を目にしています。そして先日のゲームマーケット秋の会場で日本語版を受け取り中身を開けて、同じ品質であることを確認しました。自分のゲームのインターナショナル版をdlp社にて制作していただいたことは光栄に感じますし、このたびの日本語版も同じ生産施設で同様のクオリティで作ってくださったことも嬉しく感じています。

そして、品質を向上させるためとは言え、こだわりをもとに細かく細かく何度も指摘し、改善案を探ろうと呼びかける作者に対して、実に面倒なことであったとは思いますが、ひたすらにひたむきに誠実に対応し続けてくれたライナーさんとdlp社のみなさまに大いなる感謝を。これらはdlp社のみなさんの全面的な長期間のご協力なくしては叶えられなかったことです。ご当人たちにも直にお伝えしたことですが、この『コーヒーロースター』というゲームのインターナショナル版の編集と生産をdlp社にて行なっていただける機会を得たことをとても幸運に思います。

生産する側にとっては、生産した製品がなくなって品切れ状態が長く続いてしまうのはできるだけ避けたいことですが、品切れのタイミング自体はそれほど正確には予想できないものですし、いつまでも再版し続けるというのも実際にはなかなか難しい側面もあります。今回の1000部が存外早くなくなる可能性もありますし、ある程度の期間ストックとして存続してくれる可能性も両方あると思いますが、わたしとしてはオリジナル版を手にする機会のなかったソロゲーム好きの方や、コーヒー好きの方、そして元々このゲームに興味があったけれど在庫切れでずっと入手することができなかった方々に向けて、ある程度の数量をご用意しておきたいと思って考えた部数です。

この版が切れたあと、今後また同様にdlp版のアートワークのバージョンで再生産するのか、あるいはオリジナル版で生産しなおすのか、しばらく期間を空けるのかはまだ決めていませんし、まったくの未定です。売れ行きの推移を見守って、ゆっくり考えたいと思っています。

最後になりますが、この『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』のポーランドからの国際輸送に関しては、テンデイズゲームズ田中誠さんに多大なご助力を賜りましたことで可能となりました。この場を借りて改めて感謝の意を述べたいと思います。ありがとうございました。

こうして省みてみると、ひとつのゲームの日本語版を出すまでの間に、本当にたくさんの方々からのご協力、ご助力を得て成り立っているのだと深く心に沁みるものがあります。わたしたちだけでは何も前に進められなかっただろうと思います。先達のみなさま、関係者のみなさまのお力添えを得て初めて叶えられたことばかりです。みなさま本当にありがとうございます。

『コーヒーロースター 欧州エディション日本語版』は2019年12月26日に一般販売を開始します。お店によって多少スタートが前後するかもしれませんが、ゲーム専門店や量販店などで販売されますし、後日はAmazonでも取り扱いが始まる予定です。このゲームを探していた方々や、これからご興味をもってくださるかもしれない方々に向けて、できるだけ入手しやすい環境をご用意できたらと思っております。それぞれリーチしやすい形でお手にとっていただければ幸いです。

そしてこのゲームを手にしてくださったみなさまが素晴らしい焙煎ゲームライフを送ってくださることを願っております。よろしくお願い致します。

Saashi
2019年12月26日

Saashi & Saashi
Twitter / WEB

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?