マガジンのカバー画像

あたおか散文

432
流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
運営しているクリエイター

#詩的散文

微笑みの亀裂

白い雲

黒い海

外れたカケラを左右に分けて

無心に前後に動かせば

ワルツのリズムで回ります

闇堕ちまでの交響曲

ずらした隙間から見える鼠の演舞

鞄の隅に魔界の木屑

としこさん、お呼びですよ

徒然の光線

なにみて笑う
#あたおか散文

琥珀色の血痕

煮込んで

煮染めて

煮凝って

あなたによく似た人間を探す

私を揺らして鍋底へ

叩き落として下さるような

君によく似た人間を探す

額から流れる血の温もりで

生命のありかを確かにしてくれる

貴殿によく似た人間を探す

煮えくり返って

煮返して

煮詰めた奥に

飴色の瞳
#あたおか散文

半陰陽の住処

あなたのその空っぽの声嫌いじゃありません

彼女はそう言うと黒い長手袋の中から一粒の砂金を取り出した

僕が手を差し伸べると砂金は一匹の蛙になって僕の胸に飛びつき食らいついた

むちりむちりと蛙は確実に心の臓を食い破っていくのに蛙の唇は冷ややかで柔らかく愉悦的だった
#あたおか散文

我彼方の声を聴くもの也

その海兵隊の服を着た少女は言った

父を失い、母を失ったとて時は止まらない

しかし、友を失った時

ひとつの歯車が止まる

昨日私は友をなくした

これから後私は時代の先へ進む事が出来ない

服、言葉、見える景色、人、そのような物が全てこの時代に幽閉されてしまうのだ
#あたおか散文

掻き消えた揺るぎない覚悟を早春の空に投げる

信じるものは救われる

信じているのはなんですか?

世界を疑って

何信じるのですか?

ことばことばことば

織りなすむつみごとに捉えられてパンを踏んだあなたの足が復活の鐘と共に踊り出す

疑っているのはなんですか?

僕らは随分と裏切られすぎたんだ

声も遠くに蝋梅の散る
#あたおか散文

茶箪笥の奥に貼られていた、いわく付きの終わり方

チリチリばらばら尖って光る

刺さって流れて元の鞘

ワインの澱に私もなりたい

父の仁丹

母の印鑑

いつでもあって

どこにも無い

ピースのパースが狂ったら

御心のままに始まりの合図
#あたおか散文

鍵を無くしたねじ巻きの宣誓

私があなたを忘れてる時でさえ

私はあなたを愛してる

そんな錘をつけた柱時計が刻む今日を

そこはかとなく生きている
#あたおか散文

ねじまきのループお洒落にあしらって

ねじまきのループお洒落にあしらって

役立たず

末尾5番であなたの声を聴く

マロンクリームの甘だるさ

ちびりと飲むラムが燻らす煙

どうして

を飲み込んで

削れていく金属のリボンを眺む

蚊帳を釣っても夜は来ない

船を漕いでも港は見えない

山の向こうでうさぎが跳ねた
#あたおか散文

迷い子の安全な遠吠え

なぜなぜと問う尖った爪先

大丈夫だよと応える尾羽

全てが繋がっていて

一本一本解けてる

あの時の小石は見つかりましたか

居残り授業に黒曜石の地図

ここって潰れる前なんだっけ

切り抜いたドレスに縫い付けた鬼灯

白玉粉を練る古の記憶

葬送の歌はまだ聞こえない
#あたおか散文

トライアングルジャックポット

昔々、あるところに三匹の子豚がいました

お兄さん豚の藁の家の下からは人間の下半身が

真ん中子豚の木の家の下からは人間の胴体が

末っ子豚のレンガの家の下からは人間の頭部が見つかりました

並べてみても一向動く様子はありませんが

一緒になってよかったね

めでたしめでたし
#あたおか散文

紅に染まった頭巾から覗く柔らかな現実

ちょっと疲れちゃった

赤ずきんちゃんは言いました

お家に帰ろうと思っただけなのに

歩いても歩いてもお家が見えなくて

そのうち気づいたの

お家なんか

とっくに無かったって

そもそも

私にお家なんかなかった

私どこに向かってるの?

私何してるの?

ねぇ、あなた、誰?
#あたおか散文

フランジ

沈むべき日の快適な平行線

並ばない雁の群れ

いちごジャムに飲まれていく親指の抵抗感

πr²に閉じ込められた蝉時雨

針の穴から覗く海溝の遺伝子配列

サナトリウムの壁に刻む虚な火照り

雨さえ降らないこの街には雨上がりもない

おめでとう

何も起こらないあなたの安心な日々
#あたおか散文

チカチカと地下の音

あるあるないない

ごちゃまぜのカラーボール

かまびすしい可視光線の渦

不可逆的な時の流れも滴るような

迷走した神経が掘り当てた神秘の泉

ひきずりこまれたふくらはぎが見た

唯一の名を呼ばれないもの

虚構という真理
#あたおか散文