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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2021年9月の記事一覧

破裂する海馬の許嫁

よく冷えたわらび餅

屋台の灯りも煌々と

照らし出されたむじなの素顔

上がった花火の落ちた先

焼け爛れていく捻れた妬み

ラムネで割って林檎飴と蜜と

瓶底に残る世紀末の輪唱

鼻緒で擦れた指の間に

永遠の契りも雲散霧消と相成り候

粋に鳴くやら背中の芋虫
#あたおか散文

同じところに戻リ続ける紺地の帯は今どのあたりでねじれていますか

くるりと回った回転扉の向こうにいたのは

マゼラン海峡で落とした胸骨のかけら

禍々しい夜の帷でよくもまた

ここまで来たねと労いの 

歌もホロロと由比ヶ浜

セメントを食べる蝸牛

君の袖にはよく似合う

廃品回収のトラックに乗った黄色の長靴

みよちゃん探して霧の中
#あたおか散文

大三つ、つけておくんない

鯉がついばむ唇を

恋の後先と言うのなら

故意に落としたガラスの靴を

声の限りに呼んでみしょう

やい、そこな女郎

下帯に隠した路銀 

燗冷まし

萎えて消えれば

蚕の夢よ

香具師の売り声高らかに

目病み女の競り落とし

おちょこ三杯

夜露に甘塩
#あたおか散文

喉の奥に押し込まれる強制的な吐息

木のうろに

あなたが手をのべて触れたもの

忌々しく滑らかで、甘く絡みつく、香り高く沈み込むように、妖しく息苦しい

それを求めてザラザラとした虫達がひしめきあう

あなたの柔らかく赤い頬が少しずつ毟り取られていく様を

私は恍惚として飲み込む

気狂いじみた太陽と共に
#あたおか散文

弔い

えぇ、そうそう

その役場の右脇をおりてって

あぁ、その金物屋の手前を降りてね裏の畑

あの娘の亡骸がある

やぁ、風向きの良い日でよかった

鳥がよく集まるからね

掌の後悔と右脇腹あたりに溜まった憤りなんてのは良い肥しだ

あなたも妙な顔してないで召し上がってらっしゃい
#あたおか散文

朽ちた木のかけらに巣食った気紛れなる一匹の幼虫

津軽の林檎を食んだ貝殻の味はあなたのお口にあったでしょうか

海なりの声高く

とうの昔に消え去った音

2度とは口から漏れぬ音

陽の刺さぬ海岸に落ちたチンケな店の錆びたライター

砂粒が埋めていく

記憶という名の猥雑な猟奇

ところで見つかりましたか

その腰巻きの持ち主
#あたおか散文

探すのは沼の底

どろどろに溶けた羞恥心

爪の間に詰まった泥よ

せんない事よと嘆きの溜息

先頭に立った兵隊の奇声

下がらない熱おだてる魚

短い帯をきつく結んで

足りない頭を祭壇に飾る
あぁドラスティックに輝いて

君の足元にひれ伏した

真っ赤な真実の行方

さもありなんと

女神が嘲ける
#あたおか散文

問い続けて球体を成す糸状の思考

君はだぁれ

レモン水に浮かべた鉛の渦

君はだぁれ

寝起きに見えた綿飴の欠片

君はだぁれ

いつか火にくべたあの娘の靴下

君はだぁれ

レースのハンカチに包まれた左胸の鼓動

君はだぁれ

夕立の中に立ち尽くす一匹の飯綱

君はだぁれ

足音だけになった過去の幻影

私は、だぁれ
#あたおか散文

引き出しにしまわれた時間のシステムエラーが解決する午後の宿題

つまらないグラスにありったけの怠惰を注ぎ込む

ラムネ菓子の様相を呈した昨夜の観世音菩薩が

家出した涙の代わりにもう一杯

太陽にかざしたビール瓶のかけら

喉元に刺さるまであとひと眠り

ねんねんころりよおころりよ

青くて丸い救世主

風向きが変わればシーツも乾く
#あたおか散文

腐葉土

螺旋を降りて一段ずつ

聞いていたよないないよな

あの子の涙の落ちる音

締まりの悪い扉が軋む

しとしと降って

ガラガラ泣いて

明日のお日様どこいった

見えているのは昨日の残月

みかちゃんのびいどろ玉は

割れても光る

紫色の掌の中
#あたおか散文

荒川の土手三月の夕景

夕焼け小焼けで日が暮れて

あいつの頬に紅葉の残骸

燃やし燃やして残った消し炭

くすぶったとて桃源郷

煙の向こうにゃ猫の尻

あってもなくて

なくてもあって

ささくれがしみてしょぼくれて

明日の天気を占った

コンバースの靴が宙に舞う
#あたおか散文

気絶するようなロマンスに絡め取るようなとろみを添えて

橙色の面影に

虚な眼をトッピング

慎み深い女の手

愚かで軽率な女の手

どっちが柔らかくて暖かい

どっちがしっとり甘い味

右の手の欲しがるものを左の手に教えるな

右の手の与えるものを左の手に口移し

行ったり来たりで堂々巡り

お腹空いたろ

さぁ指の端からお食べなさい
#あたおか散文

弥次郎兵衛は笑っていたか

何もない

全てある

何もある

全てない

どちらも同じことなのに

萎えた足が向かう先

桃源郷という名の地獄

見つからなくて

迷い子の

泣き声響く

月の夜

あぁ、生ぬるい

頬の水
#あたおか散文

キネマ色の球体

古いレコードの針を落とせば

あの頃の雨が降る

あの時の仕草が褐色で再生されても

私の掌には何もない

つまんで捻れば芳しく

檸檬の香りに溺れて消える

回転数を落としても

2度とは出会えない

狂ってズレた

段違いの夢幻

別れの盃に紅添えて
#あたおか散文