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#8 コワモテ父さんとフェアリー母さん

最近激ハマりして聞いているTBSラジオOVERTHESUNの中で、パーソナリティのジェーン・スーさんが、エッセイストの伊藤亜和さんの本を激推ししていた。
とにかく文章が凄いとのこと。
早速読んでみたのだが、確かに凄かった、いや、凄まじかった。
「これが私だけど、なんか文句ある?」というオーラが、文章の端々から滲み出ていて、読んでいて痛快だった(例えが悪いかもしれないが、本当に面白い本だった)
エッセイ本では、主に伊藤さんの家族のことについて書かれていた。なかなかに個性的なご両親とおじいちゃんおばあちゃん。想像しては、くすりと笑ってしまった。

でも、個性という面でいえば、私の家族も負けてはいないと思う。

ということで、うちの家族を紹介します。

フェアリー母さんの実態


まず母だ。
1か月ほど前に誕生日を迎えた母は、今年で58歳になった。
母を一言で表すと、”フェアリー”。
私の母を知る友人は、母のことを「しょこたん(中川翔子さん)みたいだね!」と言う。
ちょこまかと小動物のように動く様子や、フェミニンな服装、私のことを「さきちゃ〜ん」と呼ぶ(この伸ばし棒部分が重要)、あの話し方が、どこか空想の世界を生きる妖精を思わせる。

娘である私が言うのもなんだが、母は美人だ。学生時代の写真を見せてもらったことがある。クラスの集合写真だった。当時流行っていたという聖子ちゃんカットの女子生徒が並ぶ中、1人だけずば抜けて可愛い子がいる。母だった。

母には当時、3人の親衛隊がいたらしい。

母は自転車で高校に通学していた。当時母には、同じ学校に通う彼氏がおり、彼と一緒に帰宅する時は、朝、自転車を学校の裏門に置く。1人で帰宅する時は、正門に自転車を置いていたらしい。

親衛隊は、朝、母の自転車がどちらの門にあるかを確認する。正門に自転車が置いてある場合、「今日は彼氏と一緒じゃないから、我々で送り届けよう!」と、母の少し後ろの方で自転車を走らせて、母が無事に帰宅するまでを見守っていたらしい。さながら姫様を守る護衛である。

なんだそれ、私の学生時代とは雲泥の差じゃないか。顔もスタイルもいい、おまけに母のことが大好きな彼氏がいて、さらには母を見守る親衛隊までいるなんて。
母と私が学生で、同じクラスにいたとしたら、きっと、いや、絶対に友達にはなっていなかっただろう。

コワモテ父さんの実態

次に父だ。
母と同い年の父も、先日58歳になったばかり。還暦まであと一歩のところに来ている。

父を一言で表すなら、”優しいヤクザ”だ。
ミナミの帝王という金融ドラマをご存知だろうか。俳優の竹内力さんがドラマの主演を務めていたのだが、父はこのドラマに出てくる竹内力さんにそっっっくりなのだ。(今は歳を取ったせいか、だいぶ丸くなったけど)。
身長187センチ、オールバックで、外出時はサングラスをかけ、眉間には常に深い皺がよっている。

語弊のないように言っておくが、父はヤクザではない。
が、間違われたことならある。

私が生まれた大阪のとある町には、ヤクザの組があった。
ある日、父が一人でふらっと近所を散歩していると、黒塗りの大きな車が父の方に近づいてきたらしい。車は父の横にピッタリと止まると、助手席側の窓が開いた。そこには、百人中百人が、「これはヤクザだ」と答えるほどの、いかつくてアクセサリーをジャラジャラとつけた男が座っていた。
男は父に向かってこう言ったのだ。

「お前、どこの組のもんや」

父は家に帰ってくるなり、嬉々とした表情で「お父さん、今日本物のヤクザに、ヤクザと間違われたわ!」と言った。

なんで喜んでいる、おかしいだろ。
ていうか、どうやって逃げてきたんだよ。
心の中でそう思ったものの、つっこむのも億劫だったので、「よかったね」とだけ返しておいた。

そんな強面父とフェアリー母の間に生まれたのが、私というわけだ。
遺伝子の掛け合わせでこれが生まれるなんて、人間は今だ神秘に包まれた生き物である。

授業参観事件

今から20年以上も前のことなのに、鮮明に記憶に残っている出来事がある。
母が、私の通う小学校の授業参観にやってきた。母は前述の通り美人なので、母が教室に入ってくると、クラス内が少しざわつき始めるのだ。

「今入ってきた人、誰のお母さん?」
「あれ、さきちゃんのお母さんだよ」

そんな会話が私の耳に届く。
そして授業が終わり、10分間の休憩に入ると、数人の女の子たちが私の席へと集まってくるのだ。

「さきちゃんのお母さん、めっちゃかわいいね!」「うん、すごい綺麗!」
「あ、ありがとう…」

母のことを褒められるのは、やぶさかではない。なんなら、ちょっと誇らしい気持ちだった。私の母はすごいんだ、と。
しかし、子供というものは時に残酷な生き物でもある。

ふふん、と自慢げに小鼻を膨らませている私に対して、このようなことを言い放ったのだ。

「でもさ、さきちゃんと全然似てないよね?」「さきちゃんはお父さん似なの?」

急に頭を金槌で殴られたような気持ちになった。大ショック!!
学校が終わると、急いで家に帰り、キッチンで夕飯の支度をしている母を見つけるやいなや、大きな声で言った。

「お母さん!なんで私はお母さんに似てないん!?」
「え、何?どうしたん?」
「学校で、お母さん綺麗、綺麗って皆褒めてたけど、その後、お母さんとさきちゃんは似てないねって言われた!!」
「え〜〜、何それ、どういうことよ〜」

学校で綺麗だと言われていることが嬉しかったのだろう。母の口元がにやにやと緩んでいる。私はそんな母を見て一層悔しくなり、言葉を続けた。

「なんで似てないん!?私もお母さんに似たかった!!!!」

すると、背後から、唸るような声が聞こえてきた。

「俺に似て、悪かったな…」

ポツリと一言だけそう言うと、リビングに消えていく父。
幼いながらに、私は今、とんでもないことを言ってしまったんだ、と感じた。しかし、あれだけ喚き散らした手前、なんて言えばいいのか分からない。
あの時の父の寂しそうな背中を私は今でも覚えている。

娘は父母からの仕送り便を待っています

この事件から20年という月日が経った。
半年ほど前、久しぶりに実家に帰った時、父が私に「お前、お母さんにそっくりになってきたな。後ろ姿だけやと間違えそうになるわ」と言った。

そうか、私は紛れもなく父と母の子供なんだと、
なぜかこの言葉で深く実感した。

父と母に関するエピソードはこのほかにも色々ある。
なんせ、”優しいヤクザ”な父と”フェアリー”な母の組み合わせである。
友人はそんな私の父と母のことを、ディズニー映画に出てくる美女と野獣だと表現していた。うまいな。

ある日突然、私アナウンサーになる!だから全国の放送局受験する!なんて突拍子もないことを言い始めた娘に対し、一度も止めることはせず、また、社会がコロナ一色だった頃に、何のツテもないままフリーになる!と言って会社を飛び出した娘に対しても、何も言わなかった父と母。

こいつには言っても無駄だから、と思われているのかもしれないが、それでも、いつもやりたいこと応援してくれる父と母には感謝している。
本当にありがとう。

つい半年ほど前まで、2人から定期的に、段ボールいっぱいに食べ物が詰め込まれた仕送り便が届いていた。30歳を過ぎても、こんなことを二人にやらせてしまっているのは申し訳ないなあと思っていたのだが、最近引越しをしたことで、この仕送り便がパタリと届かなくなった。

来ないのは来ないで、なんだか寂しい。
お父さん、お母さん、娘は仕送り便を待っています。






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