【10回目の失敗~お金の使わせ方】

目次
1、 抜擢
2、 沢山の機材
3、 使いきれない機材
4、 彼は二度と使わないでくれ
5、 お金の使い方

1、抜擢
 映像制作に於いて、プロデューサーは予算とスケジュール、作品の方向性、スタッフの手配など、演出以外の事を行う役割である。作品の中身については、監督を指名して全てをゆだねる。
時には、自分が良いと思っている無名の監督を違うジャンルに抜擢することもある。
 その仕事はレコード会社からの依頼だった。内容は当時人気がったグラビアアイドルのイメージビデオで、当初は過去に実績のある監督にお願いしたのだが、スケジュールが合わず、違う監督を探すことになった。僕は、カラオケビデオで注目していた監督を使いたいとレコード会社に申し入れた。その監督は全く鵜の無名だったが、押しに押し通して、抜擢のOKをもらった。
 正式に依頼することが決まって、僕は監督と食事をしながら、この作品の意図と予算、スケジュールを伝え、良い作品を作ってくれと伝えた、監督は、理解しているようだった・・・。
 
2、沢山の機材
 撮影の前日、準備をしている助監督に進み具合を聞いた。助監督は、準備は順調だが機材がちょっと多いのではと、言っていた。僕は機材が多いのは、初めてだからいい画を作りたいんだろうと思った。
 撮影当日、そろった機材を見て驚いた、普段見るものから始めて見るものまで、ハイエース1台いっぱいに詰め込まれた機材がそこにあった。これは全部使いきれるのだろうか?僕は一抹の不安を感じた。

3、使いきれない機材
 機材を使った撮影は、機材のセッティングからテストまで、そこそこの時間がかかる。このあたりをしっかり計算しないと、撮影スケジュールが押せ押せになって、予定していた映像が撮れなくなってしまう。
 心配が現実のものとなった。機材を駆使して撮影にこだわるあまり、一か所での撮影時間がオーバーしてしまったのだ。撮影のカット割りは、事前にレコード会社に承諾を得ているので、勝手に変更できず、取り残しも避けなければならなかった。
 レコード会社の担当が撮影の遅れを気にしだした。僕は、監督に巻きで撮影するように話をしたが、なかなか首を縦に振らない。監督は取りたい映像にこだわっていた。しかし、いよいよもって、最低限必要かカットが撮り切れなくなりそうなって、ようやく監督は、機材を使う回数を減らし、必要なカットの撮影に徹し、長い一日が終わった。
 使われなかった大量の機材が、車に残されていた。

4、彼は二度と使わないでくれ
 編集をしている監督と話をした。編集を見ていると、欲しいカットが撮れていなかったことが分かった。監督に、機材を借り過ぎて、更に使いこなせなかったから、撮りこぼしが出ていると指摘した。監督はその指摘を認めようとしなかった、更に、予算やスケジュールよりも、自分の撮りたい映像を撮りたかった、と話した。その態度からは、僕が抜擢した時の謙虚さは全く感じられなかった。
 作品が出来上がった。予想した通り、映像的には凝っているところもあるが、それは、プロしかわからないような映像だった。レコード会社の担当からは、この監督次は使わないでね、という評価だった。

5、お金の使い方
 監督は、撮りきれなかったにせよ、初めて手掛けたイメージビデオに、これも初めて自分の名前が出ることに満足しているようだった。
 この時僕は思った。低予算でしか仕事をしていない人は、予算が増えた作品をやるときは、今までお金が無くてできなかったことをいろいろと試してみたいと考えるのだ。それは、作品の為ではない。自分の為なのだと。
 最後に締めてみたら、見事に利益は全くなかった。監督の為だけにやった仕事になってしまった。
 才能があったとしても、お金の使い方が判らない人に、予算がある仕事を簡単に任せてはいけないんだなと思った。自分がもっと指図すればよかったと悔やんだ。甘かった

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