【4回目の失敗(前編)】

 20代半ばになろうとしていた頃(1988年頃)、それまでの人生で一番大きな失敗をしてしまった。
 僕が当時在籍していた会社は、ビデオメーカー部門と映像制作の仕事を受注する部門があった。僕は受注する部門に所属していた。この部門のレギュラーの仕事は、カラオケビデオの制作だった。当時カラオケビデオは一般家庭にまで浸透しており、家庭用のレーザーディスクが発売されていた。レーザーディスクも4曲入りの20cm盤と12曲入りの30cm盤があった。
 レーザーディスク用の映像は、1本のビデオテープに、カラオケの音を先に入れて、その音に合わせて映像を編集していた。ゆえに、12曲入りの盤用のビデオテープには、12曲の音が先に入っていた。僕がいた会社が制作を受けていたのは12曲入りの盤の5曲分で、残りの7曲は、他の会社が先に制作していた。そして、7曲分の映像を完成させていたビデオテープが僕に渡された。
 僕は、そのビデオテープをビデオの編集をする会社に持ち込んだ。テープをアシスタントに「明日のカラオケの編集で使う感性用のテープです。」と言って、ビデオ編集のアシスタントに渡した・・・。
 次の朝は、日曜日の朝だった。僕は10時から編集だったので、9時30分頃、ビデオを編集する会社について、編集室に入った。編集室にはビデオ編集のオペレーターとそのアシスタントがいた。その後、ディレクターと関係者が部屋に入って来た。
 ディレクターが到着したので、いよいよ編集を始める段になった。オペレーターが録画用のビデオテープを走らせた。僕は少しして異変に気付いた。それは、先に入れてあるはずのカラオケの音が聞こえてこない事だった。オペレーターにビデオにカラオケの音は入っていませんか?と恐る恐る訪ねた。帰って来た言葉は、一番聞きたくない言葉だった。
 「音は入っていません。」
 僕は、目の前が真っ暗になった。それでも気を取り直して何故、入っていないのかと尋ねたところ、ビデオテープ渡したアシスタントが、完成用として渡さたビデオテープに音と映像が入っていたので、信号を入れなおした方が良いと判断して、音も映像も消してしまったことが明らかになった。
 これから、編集する5曲分の音は勿論の事、他の会社が編集を終わっていた7曲分の映像もこの世から失われていたのだ。
 そして、この12曲入りは、明日月曜日が納期だった。
 僕は、その場に泣き崩れた。人前で誰はばかることなく大泣きしたのはこれが初めてだった。今日は、編集できない事、他の制作会社が作った7曲の映像も消えた事、明日の納期には絶対に間に合わない事など、どう収集していいか頭の中がひっくり返っていた。

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