雪の降る日、拾った子猫 (6)
騙す
隣の部屋で聞いていた礼と智、そして穂香。
「私、騙されてたの?、、、噓、つかれてたの?、、、、ママもおじさんもおにいさんも優しかったよ。嘘つく人ってみんな怖い人じゃないの?」と穂香。
「人を騙す人はみんな優しいの。でもね、優しい人がみんな噓つきじゃないの。良い人と悪い人って見分けが付かなかったりするの。」智が穂香の手を握りながら話す。
「私、おにいさんに良くない事したの、悪い人なの。」穂香が俯きそう呟く。
「良くない事って、何?」と礼。
「おにいさんのを咥えてた時、苦しくなって嚙んじゃったの。おにいさん、、、痛いって、、、で、殴られたの。私怖くなって、逃げちゃったの。……電車に乗って知らない所で降りたら、、、信お兄ちゃんに会ったの。」
「うっ、、、、、、信お兄ちゃんに会えてよかったね。私達にも会えてよかったね。」智、穂香にそう言うのが精一杯だった。
【まさか行為中のトラブルが家出の原因だったなんて、、、、その前にイケない事してるって、、、】
先程の静香と今の穂香の話を聞き、礼と智は同じ女性として考える。
「誰かに頼って生きるのも、それも一つの生き方よ。でもね、、、頼る人はちゃんとした人でないと、、、、ダメよ。」と穂香へ智。
「私はお父さんに頼ってる。お父さんも私に頼ってる。頼るべき人同士、そういう物なのよ。」と礼。
「信お兄ちゃん、、、私、、、、信お兄ちゃんが良い。」
「信お兄ちゃんが良いの?、、、、じゃあ頼まなくっちゃね。」
「うん。おじさんやおにいさん、、、悪い人だったの?ママも悪い人だったの?、、、もう、、、頼っちゃいけないんだよね。」
「そうだね。これからは信お兄ちゃん、仁お父さん、礼お母さん、智お姉ちゃんに頼りなさい。」
「そうする、、、、でも、、、、、嫌いになれない、、、、ママもおじさんもおにいさんも、、、、嫌いになれない、、、」
穂香はそこまで言うと席を立ち、居た部屋を出て行った。直ぐに礼と智も後を追う。
隣の部屋のドアをノックし、そして中に入る穂香。
「穂香っ」静香の声が響く。
「ママ、、、ごめんなさい。私、、、、信おにいちゃんのところに居る。これからも居たい。だから、、、ママのところ、帰れない。」穂香の声が涙声になっている。
「おじさん、おにいさん、、、私に嘘をついてたの?、、、悪い人だったの?、、、、でもね、でもね、、、、、、嫌いじゃなかったよ。嫌いになってないよ。でも、、、、信お兄ちゃんと一緒に居たいっ!」
「穂香、、、その兄さんの何が良いの?ママより良いの?」
「信お兄ちゃん、、、私に優しくしてくれたの、、、、痛い事や苦しい事しないの、、、、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、、、優しいの。色んな事沢山教えてくれたの。
前みたいに怒らなくって、、、話もしてくれなかったりしなかったの。だから、、、、、」
「穂香、、、うおっ、、」静香が両手で顔を覆い、慟哭し始める。
工藤と桧山は、口を固く閉じ俯いている。
刑事の3人が、静香と工藤、桧山の脇を抱え、部屋を退出して行った。
「穂香、、、」信が穂香を呼ぶ。
「信お兄ちゃん。」穂香が走り寄り、信の胸にしがみつく。
智が二人に寄り添うように立ち、手を穂香の背中に当てている。
仁と礼がそれを見守る。
それから工藤と桧山は取り調べを受け検察へと送致された。
静香は聴取の後、解放された。「あの二人の裁判の時は証人として出廷を要請されると思います。」の言葉と共に。
佐伯家に日常が訪れた。以前と変わりない日々。穂香と智、二人三脚の家事は毎日続けられる。
智が話しかけながら最初だけ手本を見せる。穂香が真似る傍で、智が誉める。少し経てば穂香一人でさせる。
キッチンシンクの汚れ取り、換気扇フードの油取り、トイレ掃除、お風呂掃除、家中のサッシと窓掃除、、、
料理も始めた。礼の傍で食材を切ったり、炒め物をしたり、、、これも礼が手本を見せた後に、穂香の傍で細かく指示。
誰も焦らない、不機嫌にならない。笑顔で誉める。穂香の笑顔が増えて行く。
日常に加わった事がある。
工藤と桧山の検察での事情聴取裏付けの為、穂香に参考聴取出頭命令が来た。
穂香、智と一緒に検察庁へ行き、検事室へと入る。
「本日は御足労頂き、有難う御座います。検事の桐生です。
工藤竜司、桧山健司両名から聴取した内容の内、穂香さんの証言を持って供述を担保する件が幾つかあります。ご協力をお願いいたします。」
「本件は両名が撮影した動画が、海外アダルトサイトに投稿され、それによって収益を得ていたにも拘らず、税務申告を故意に怠り、納税をしなかった。いわゆる脱税容疑の嫌疑と、その動画への必要な加工を施さず出典した刑法違反となります。」
「穂香ちゃんに対する児童虐待、不同意性交、傷や痣の傷害とかは、、、」思わず智が尋ねた。脱税や刑法のみでは納得いかなかった。
「所轄の警察署からも相談を受けました。上司とも相談しました。結果、脱税容疑と刑法違反としました。理由は後ほど、申し上げます。」
「穂香さん、先ず両名との性行為中に、動画を取られていた事は知っていましたか?」
「…はい。カメラがいつも3個か4個、まわりにあったの。あれ何?っておにいさんに聞いたら、あとで見る為って言ってました。」
「アダルトサイトにアップしている事は知っていましたか?」
「アダルトサイト?、、、タブレットの中の動画の事?」穂香、智の方へ顔を向け聞いた。
「タブレットや携帯で色んな動画を見る事が出来るようにしてあるチャンネルみたいなもの。」
「まあ、そうですね。聞いてきた事ありますか?、そこでいつでも見れるよとか」
「……知らない、、、聞いた事無い。」
「出演者へは知らせず、独断でアップロードしていた。となりますね。」
「穂香さんはカメラで撮影されている事に対し、金銭を受け取りましたか?」
「お金?、、、ない。いつもね、パフェとかパンケーキ、パスタとかおうどんとか食べさせてくれたよ。あ、焼肉も。後ねぇ、服とか本とかも買ってくれたよ。おにいさんが髪の毛、綺麗にしてくれたし。おにいさん、美容室に居たんだって。」
「金銭ではなく、食事や物品で支払われていた、、、とも言えますが、、、、金額としては正当な対価とは言えない気もします。
出演料を充分に支払わず、収益を独占していた事への裏付けとなり得ますね。
ところで、、、食事の際に何か受け取りませんでしたか?例えば薬とか。」
「白い粒を二つ、くれた。食べた後飲みなさいって、、、飲むまで見られてた。病気にならない様にする薬って言ってた。」
「病気にならない様にする?、、、何だろう。」と、智。
「アフターピル、、、だった様です。フランスからの個人輸入、無論代行会社経由ですけど。」
「あっ、、、妊娠しない様に?、、、なんて事を、、、、」
「非常にお尋ねし難い事なのですが、、、穂香さん、工藤竜司いわゆるおじさんと最初に性行為をしたのはいつごろですか?」、
「性行為?、、、えっちの事?、、、小学校行かなくなって、、、パズル教室も行かなくなった頃。」
「こちらの資料では、、、小学校4年生、10歳だった様です。」
「……ああ、、、、惨い、、、、」智が手を口に当て、泣きそうになる。
「それ以前に、そう言った行為を知っていましたか?」
「ママがおじさんとしていた事と同じ事って思ってた。なにをするのか知ってた。」
「それはいつ頃から知っていましたか?」
「……分かんない、、、ちっちゃな時からかな、、、ママと一緒におじさんと、裸で遊んでた時もあったよ。」
「……グッ、、、」智、驚愕する。
「佐伯さん、穂香さん、、、児童虐待、不同意性交、条例違反、傷害につきましては今回扱わない理由を説明します。」
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