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泥中に咲く一輪の白い花(10)

  ボランティア

「また、来て良いですか?」笑った顔の幸太郎。桜子の作ったガトーショコラを食べながら聞いてきた。
「うん、良いわよ。でもね、私が夜勤の夜があるから連絡して。携帯番号教えといて。」
「はい。桜子さんのも教えておいてください。」
「ねえ、一つ聞いて良い?、、、私に旦那さんがいるとは思わなかったの?いきなりドライブ誘ってきてさ。」
「ああ、コンビニで、、、断られたら、多分結婚してるんじゃないかなって思いました。
 俺、探り探りってゆうか、、、反応を見てってゆうの、なんか、、、出来ないみたいで、、、すいませんでした。いきなりで、、、」
「フフフ、、、らしい、、、幸太郎君らしい。素直だね。良いよ、そう言う所。」
桜子の嬉しそうで、恥ずかしさのある笑顔。幸太郎の恥ずかしくて、これしか出来なくてと言う様な控えめな笑顔。
より多くを求めなければ、上手く行く。そんな二人。

桜子と幸太郎のセフレ関係が始まった。
幸太郎にああしてこうしてと言う桜子の誘い。【彼女が出来ても困らない様にね。】との思いからの行動。

桜子は同棲相手を失ってから、男性との関係を絶っていた。
桜子が大事な人と思う人は必ず他界する。二人は自死。一人は射殺された。
もう男は好きにならない。好きにならない様にSEXはしない。SEXをしない様にそういう仕事には就かない。男と話す場所にも行かない。話もしない。
そうやって新しく生きてきた。女としての欲求は自分で解消する。ディルドも通販で購入、自分の指、人より小さめの手の拳で、眠れない夜はそうして来た。

父親を軽蔑する母親が嫌いで、喜ぶ父親の顔が見たくて性の相手をしていた少女期の桜子。
父親が自死し、母親と二人暮らしになった後、人が変わった母と、友人と言うオトコ達にひどい目に会わされた思春期の桜子。
似たような境遇のヤクザな男に拾われ、女にして貰い、SEXを仕事にして「ありがとう」の一言が聞きたくて、夜の世界に生きて来た青年期の桜子。
一人の男に尽くすことで、平凡な幸せが一番だと思いたかった成年期の桜子。
暮らしや生き方、取り巻く環境が変わると、自分の人格も変わっていった気がする。
それぞれを けなすでもなく、誉めるでもなく冷静に、時々頭上から見ていた年齢不詳の桜子。
その頭上の桜子は、最近現れない。自分自身と会話する。
【ねえ、幸太郎君はどの桜子に居て欲しいのかな、、、、】
【幸太郎君に誰かお似合いの人が現れたら、捨てられても良いからね。】
【女ざかりも後僅かだよ。やれる時にやっときな。】
【逃げられない様に、尽くしてみたら、、、】
それぞれの時代の桜子たちと会話する。


【なる様になるよ。幸太郎君のやりたいようにさせてみれば。】

【幸太郎君には惚れない。ボランティア。そう、感情は要らない。そうすると決めた。】
と今は普段暮らしている桜子が答えた。

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