見出し画像

雪の降る日、拾った子猫 (7)


責任

 「佐伯さん、穂香さん、、、児童虐待、不同意性交、条例違反、傷害につきましては今回扱わない理由を説明します。」

 「裁判が始まる時、誰に対するどんな罪を捌くか公告されます。昔なら裁判所前の掲示板に張り出されていましたが、今は法務省のホームページで閲覧する事が出来ます。
  今回行われる裁判は、海外アダルトサイトへのアップロードが、画像修正を行われないまま行われた刑法違反、閲覧や購入に対する収益金の未申告での、脱税容疑です。
  そこに、出演者に対する違法行為の審議をする事を含められないのです。別案件で告発なり犯罪行為の立証が必要になる訳です。
  穂香さんは、お母さんと工藤、桧山の両名と接見した警察署内で、「嫌いでなない、嫌いになれない」とおっしゃったそうですね。
  もし穂香さん、もしくは代理人が両名を告発したとすると、その時の発言と食い違うと弁護士から指摘を受け、起訴自体がが不当だ、矛盾しているとされ、罪を追及できなくなる可能性が高まります。
  そして一番憂慮する点は、、、被害者が穂香さんだと社会に知らしめる事になる点です。そうです、公告される内容に氏名が記載される可能性があります。今は被害者特定事項の秘匿で、公示しないことも出きますが、、
  そこへ、、、美味しい餌は無いかと常にうろついている自称ジャーナリストの人達が嗅ぎ付けたら、被告人の周りを探り、穂香さんを見つけ出し、ある事無い事を面白おかしく書き立てる事でしょう。
  そこから先は言わずもがな、、、。我々はそこを一番、懸念しました。
  それでも、あの二人とお母さんを告発したいとなれば、今まで聴取した内容で充分、立件できます。」

 「告発?」穂香が、智の顔を見る。
 「悪い人だから罰を受けさせてってお願いするの。」
 「ダメ、、ママもおじさんも、おにいさんも悪い人じゃないよ。だから、、、」と穂香は、困った顔をして智を見返す。
 「佐伯さん、、、そう言う事で御納得頂けませんか、、、」
 「家に帰り相談します、、、けど、穂香ちゃんにとって一番良い方法は、って考えたら、答えは出てますよね。」智は、検事の桐生へ向かって、一礼した。

 智、帰宅し検事から言われた事を家族へ伝えた。
 「う~ん、、、、そうだな。検事さんの言う通りだな。信、お前どう思う。」仁が腕組みをしながら唸る様に言った。
 「……罪を犯した人を罰する事は必要だとは思う、、、でも、、、それで誰かが晒し者になるのは、やっぱ嫌だ。穂香の為を思って、検事さん達がそう判断したのなら、それが良いんだと思う。」
 「そうね、その方が良いわね。」と礼。
 「私もそう思った。穂香ちゃんは?」智が信の傍に寄り添うように座る穂香に尋ねた。
 「……良く分かんない。でもね、ママやおじさん、おにいさんは悪くないよ。悪くないのにダメだよって言って欲しくないの。」
 「でも、、、穂香ちゃんがまわりから変な目で見られたり、こそこそ言われたりするのはイヤでしょ?」と智。
 「ううん、そうでもないよ。なんか言われたり嫌われたりしてたよ。そんな時はごめんなさいって思ってた。」
 「穂香ちゃん、これからは良い事とよくない事を少しずつ覚えていこう。俺、教えるからさ。」と信。
 「うん、分かった。信お兄ちゃんのいう通りにする。」
 「そう言う事で、穂香の事は信に任せよう。智もよろしく頼む、、、でも、お前はお前で早く仕事を見つけろよ。焦らなくても良いけどな。」
 「そうだよね~、、、もう一年以上無職だしねぇ。探さなくっちゃ仕事。」
 「さあ、みんなで次に進むぞ。」仁の一言で、家族全員大きく頷いた。

 その後、桐生検事から連絡があり、、、
 『今回の裁判は開廷しない事になりました。略式起訴とします。罰金刑となります。
  問われた罪に対し被害者が存在しない形になりますので、それが妥当と判断しました。
  出演者との契約不備、出演料の妥当性は証拠不十分、画像の未修整のままでの公然猥褻罪への罰金と、収益金申告漏れによる脱税への課徴金で結審となります。
  例の二人は取り調べの間中、穂香さんへの謝罪と後悔を繰り返し述べていました。
 主犯の工藤は、、、
  -- 抵抗しなかったとは言え、少女へとんでもない傷を負わせてしまった。母親の同意があったとしても、人として間違った事をしてしまった。
    また、穂香ちゃんの将来はこれしか出来ない、こう言う事でしか生きていけないと安易に決めつけてしまった。また、十分な報酬も与えていなかった。 -- と述べています。
 またもう一人の桧山は、、、
  -- 穂香ちゃんには本当申し訳ない事をしてしまった。動画を取り相手をして貰うのが君の仕事だよって言いましたけど、
   考えてみれば、俺がもう一度美容師をして、そこでシャンプーなりドライヤーなりの事をして貰ったら、それが仕事になったんじゃないかって、、、後悔してます。  --と述べました。
 母親の山際静香は、、、
  -- 穂香には取り返しのつかない事をしてしまいました。母親失格です。いえ、人として失格です。穂香の目の前で、工藤との行為を常に見せていました。
  一部屋のアパートだったからもありますが、あの子も将来は私と同じように、身体を売りながらでしか生きていけないんだと思い込んだんです。だからわざと見せていました。
  もっとあの子に出来る事が無いか、探さないといけなかったんです。反省しています。もう遅いですけど。 --と述べています。
 減刑を狙っての供述とも受け取れますが、表情がみな真剣だったと思います。
 彼らには『穂香さんの事は、佐伯さん御一家に任せてみられてはいかがですか?あなた方も改心されたので、これまで通り穂香さんに接するのもありかも知れません。
  でも、穂香さん自身が変わらなければならないと思います。これは個人的な考えですので、強要は出来ません。お考えください。』と伝えました。
 佐伯さん、山際穂香さんをよろしくお願いいたします。
 ちなみにこれも個人的意見です。検事としてではありませんので、他言無用に願います。』桐生からそう言われたと、智から報告があった。

 それからしばらくして、仁に静香から連絡があった。
 「穂香は元気にしていますか、ご迷惑掛けていませんか。
  私はカラオケ喫茶のママとして仕事を貰いました。あの二人は、制作会社を正式に立ち上げて、動画の制作をするそうです。
  今度は出て貰う人との契約書とかちゃんとして、現場のスタッフも募集したそうです。サイトへはモザイクをちゃんと掛けて上げる様に編集しているそうです。
  やっぱり海外の人は日本の若い子が大好きみたいで、経営が成り立つって言ってました。
 やり直します。こっちもちゃんとやり直します。穂香の事、どうかよろしくお願いします。」と、言ってたそうだ。
 それに対し仁は、
 『お母さん、穂香の母親は貴女しかいません。いずれご挨拶に伺います。我が家へ、嫁として迎え入れたいと考えています。』
 と答えたそうだ。

 ある日、仁は穂香に尋ねた。
 「なあ穂香、信のどこが良い?いつもくっついてるが。」
 「……クマさん。小さい頃いつも一緒に寝てたの。いつのまにか居なくなって。雪の日に信お兄ちゃんに会った時、クマさん帰って来たって思ったの。そしたらおうちに白くまさんもいた。」
 「前にも聞いたが、それだけか?」
 「う~ん、、、おおきなからだでしょ、、、それにわらったかおでしょ、、、、それとねぇ、、、いつもやさしくおはなししてくれるからかな。」
 「そうか、信お兄ちゃんとずっと一緒に居たいか?穂香は。」
 「うん。一緒に居たい。でもね、私まだお料理出来ないの、、、お母さんに習いたい。」
 「よし分かった。お母さんに俺からも言っておくから。」
 「ハイ。」

 仁は信を呼び、聞いた。
 「信、穂香の事、、、頼めるか?」
 「……ああ、そのつもりだよ。穂香はまだ傷だらけだ、、、心の傷も身体の傷も。その傷が癒えた頃、言おうと思うんだ。お嫁さんになってくれって、穂香に。」
 その時、後ろを穂香が通りかかる。
 「信お兄ちゃん、、、穂香をお嫁さんにしてくれるの?、、、ちょ、ちょっと待ってて。」
 穂香は急いで2階に上がる。暫くしてドタドタと階段を降りて来た。手には「ちゃお」を抱えていた。
 「お嫁さんってこれでしょ。」信の傍に来た穂香、表紙裏の見開きページを仁と信に見せた。
 そこには、白いウエディングドレスを着たその物語のヒロインらしき美しい女性が、描かれていた。
 「えっ、、、、そうそう、、、これだよ。穂香はもう少し大人になったら、、、俺のお嫁さんになってください。」と信は、穂香に告げる。
 穂香、涙ぐみ口をへの字にして大きく頷き、信の身体にしがみついた。
 「あれ、穂香は漫画の主人公になれると思っていないか?」仁が傍で茶化す。
 穂香、信のお腹の上で首を大きく振った。
 「本気だな。良かったな、信。」
 信も大きく頷いた。

 その日の夜、信は仁と酒を飲んでいる。
 「信、心配はないと思うがくれぐれも穂香の事、頼むぞ。」
 「大丈夫だって。何を心配してるの父さん。」
 「心配って程じゃないんだが、、、穂香はほら、いろいろされてるからどれが正しいのか、どれがダメなのか分からないと思うんだ。」
 「いろいろされてるって、、、、ああ~、あの事か、、、、うん、しちゃ良くない事はしないし、しようとして来たらダメって言うし、、、、、でも、ちょっとはするかも。」
 「うん、、、男だからな。そういう部分もあるし、、、、行き過ぎた時が心配なんだ。」
 「俺、男性である前に穂香を守る”漢( おとこ)でありたいんだ。いつも家族の為、愛する妻の為に何が必要で、何が不要な事か考えながら行くよ。」
 「頼んだぞ、信。」
 「あの雪の降る日に、俺が拾って帰ったんだ。最後まで責任もって面倒見るつもりだよ。」

 それから2年後、白いウエディングドレス姿の穂香が信の目の前に居た。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?