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愛をする人 (11)


 答え合わせ

 それから亜希子とは2、3週間に一度会う。
 いつもの公園駐車場だったり、ショッピングモールの立体駐車場で待ち合わせ、あのホテルへと車を走らせる。
 食事でもしようか、直売所へ寄ろうか、映画でも行こうかと誘うも、「よっぽど遠くに行くなら良いけど、地元の人の生活圏ならやめておこ。」と言われ、コンビニで飲み物や食料を買う。、
 「お互いに、人目を憚る事はもう無いんだけどね。他人を監視するみたいに見てる人はホントによく見てるし、良く喋るし、悪意って言うか妬みって言うか、そう言うの混じるから、、、面倒臭くって。」
 そう言う亜希子とホテルの部屋に入るなり、シャワーも浴びずに絡み合う。
 服を着たまま倒れこみ、脱がしながら着ていた物を放り投げ、貪り合う。
 亜希子は欲求不満だったんだろうか、、、俺はそうだった。
 奥さんや娘がまだ居た頃は、朝早く起き携帯でエロ動画を見ながら自慰行為に更けていた。
 娘が大学入学で居なくなり、奥さんが入院していなくなり俺一人になった家の中で、誰にも憚ることなく自慰行為を続けていた。
 男はその点、単純だなあ~と思う。
 最後の発射が気持ち良ければそれで良い。
 女の人はどうなんだろう、、、いや亜希子はどうだったんだろう、、、

 聞かない事にしよう。気にはなるが、、、聞かなくても良い事だし、、、今の亜希子が居てくれたら、、、それで良いんだ。

 ある日、お互いが煙草を吸い始めた時に亜希子が、
 「お蕎麦食べに行った帰り、、、健夫が昔の事、話したじゃん、、、悔やんでるって、後悔してるって、、、私、健夫に悪い事し続けたんだな~って、思っちゃってさ。」
 「いや、亜希子は悪い事してないし、俺がもっとしてたらよかったって話だし、、、」
 「それでもね、、、気になるから言っとくね。ううん、自分がすっきりしたいだけだから、、、」
 亜希子は話し始めた。

 --別な高校へ進学した亜希子の噂を聞いて、有る事ない事を面白おかしく話す悪友を、咎めたりせず同じ様にへらへらと笑っていた事 を思い出す--

 「行った高校はね、今で言う底辺校だったの。私立なんだけど、一応男女共学の工業商業普通科、家庭科のある実業高校でね。私立じゃ珍しいよね、共学なんて、、、
 頭が悪いか一癖二癖ある子ばっかりで、喧嘩はしょっちゅうあるし、リンチやイジメもあるし、、、空いてる教室や準備室には使用済みコンドームが転がってるし、、、
 そういう学校行ってりゃ、噂ぐらい出るわよね。本人はそのつもりは無くってもさ。ごく一部の子でもする子は外で自慢げに話すし、そう言う学校に行ってるから、仕方ないんだって思ってた。
 でも私は高校に入ってから誰とも付き合わなかったの。大人しくしていようって、目立たない様にしようって思ってて。
 女子生徒って大体二つに分かれるのよね。派手な子達と地味な子達と、、、自分で言っちゃうけど私って美人の部類じゃん、あはっ。
 そうするとね、、、どっちからもハブられるから、無理して同じようにみられる様にしないといじめが始まっちゃうのよ。同じような子、何人か見たから、、、
 で、派手な子と同じ様にしたのよ。髪も染めて化粧してスカートも長くして鞄も潰して、、、
 でも『男には興味ない。』で通してたんだ。それがさ、、、高3の時に、、、、レイプされたの。同級生に、、、
 バイト帰りにね、、、スパゲティ奢ってくれるって言うから、向こうも二人だし自分も女の子と二人だったし、、、警戒してなかったのよね、、、、そしたら、ドリンクに何か入れられたみたいで、、、、意識無くなって、、、
 ホテルのベッドで気が付いたの、あの最中に、、、、痛くって、、、初めてだったし、、、」
 「えっ、、そうだったの?」
 「そうだよ、もしかして中学の頃に済ませちゃってたって思った?ヤンキーの先輩の事で和美らからイジメられてた時。」
 「あ、、、、うん。」
 「歳上に憧れる時期ってあるじゃん、ヤンキーに憧れる事も有るじゃん、、、そんな時に話しかけられると興味本位で話すし、、、その内に手を繋がれて、キスされて、、、でもそこ迄だったんだよね。そんな時を和美の取り巻きに見られてた、、、、ってだけ。」
 「そうだったんだ、、、勝手に想像してた俺、、、なんか今でも恥ずかしい気になる、、、」
 「人ってそう言うもんだよ、、、良いんだよ、昔のことだもん。それでさ、レイプされた日が土曜日で次の日は一日中寝てて、どうしても悔しいし腹立つし、、月曜日が終業式だったのね、一学期の、、、
 帰り際、その男のところへ行ってビンタしたの。『卑怯者っ!』って、、、そこへ親友が中に入って来て、肩押されたから押し返したの私、、、
 そしたら入口の戸にぶつかって、、ガラス割れちゃって、、、頭怪我させたのよね、、、、救急車呼ぶ騒ぎになってさ、、、校長室行って、事情聴取されて、、、数日後に退学、、、、
 夏休みのバイトの予定、キャンセルしてさ、、、これからどうしようってず~っと考えてて、、、、そしたらさ中学の頃、思い出しちゃって、、、音楽教室で健夫と話してたな~、、、楽しかったな~って。
 本屋行ってラックにあるパンフレット貰ったり、学校ガイドの本買って中見たら、会計専門学校が健夫が行った町にあって、半年コースもあるし、、、、健夫の実家に電話して住所聞いて、、、、葉書出したんだ。」
 「…そうか、、、そうだったんだ、大変だったんだ、、、その時も傍にいてやりたかったな、、、」
 「傍にいてくれたら、付き合ってたのかな?私たち、、、ウフフフ。」
 「全然変わってたんだろうな、、、亜希子も俺も。」
 「そうだろうね、、、おもしろいね、人生って。」

 「なんで会計学院だったの?」
 「私、そろばん小さい頃からやってて、中学で3段取ってたんだよね。文字とか英語とか記号とか頭に入ってこないけど、そろばんの球は頭に浮かぶの。だから足し算引き算だけは良くって、暗算も頭の中のそろばんが動くし、無意識にね。だからこれしかないの、私には。」
 「一芸に秀でるってやつだな。良いな、そう言うの。俺、秀でたものが一つも無いからな。」
 「有るよ健夫は。秀でたところ、、、自分より人の事、考えてるし。」

 「あの時、、、あの夜、、、あっという間だった、俺、、、情けなくて、、、」
 「違うよ、、、、、、時間なんて関係無いよ。悔しくって泣いた時、健夫に頭撫でられて抱き寄せられて健夫にしがみついて、私、、、、
 変な話、女って明日好きな人に会えるって時から愛撫が始まってるの。顔を見た時、手を繋いだ時、抱き合えた時、、、重なり合えた時には、、、その時にはピークに来てたりするの。だから、、、あの時の時間なんて、関係無いの。」
 「優しいな、、、亜希子は、、、」
 「ホントだよ。あの時も健夫の所に行くって時からドキドキしてたし、、、嫌な事、健夫に上書きして貰いたい、抱いて貰おうって、、、思ってたし、、、」

 「後ねぇ、冬の終わり、、、建夫の部屋を訪ねた時も色々あって、、、、あの頃って、私誤解されやすいのか、また同じお店の子から彼氏を取ったとか疑われちゃってて、、、
 またその子が直ぐに手が出るヤンキー上がりでさ、直ぐタイマンだっ、シメてやるって喚く人だったから、怖くなっちゃって、、、、イザとなったら匿って貰おうかなって、、、、、
 でもね、直ぐ後にその子も男と飛んじゃったり、、、店長がお店のお金持って飛んじゃったり、、、お店営業しなくなって、別なお店に移ったり、、、
 そうそう、、、住んでたアパートもね、近くに住む若い子から付き纏い?、今ならストーカーなんだけどね、、、夜中にアパートへ尋ねられた事も有って、大家さんに相談したら、少し離れた所へ鞄一つで移ったの、逃げたの。
 部屋に残った荷物は大家さんが昼間運んでくれて、、、訪ねた時が変わったばかりの時だったかな。」
 「あ、あ~、、、だからなのか、、、、あの後すぐに追いかけてアパートのあたりへ行って一晩中、いたり、、、次の日もいた。俺の方がストーカーみたくなってたわ。」
 「ごめ~ん、、ゆっくり話せばよかったよね、あの時、、、、、なんでだろう、直ぐに帰っちゃって、、、何考えてたんだろう、私、、、、困らせちゃったんだね、私。」
 「い、いや、、、良いんだ。直ぐに追いかけてれば亜希子を追いかけていたら、追い付けてたはずだから、、、俺もどうして良いか分かんなくて動けなかったし、、、」

 「若い頃って、すれ違いばっかりだよね。思い込みとさ。」
 「もう、、、すれ違いなんて、、、もうしないで済むのかな、、、思い込まずに聞けば応えてくれるのかな。」
 「うん、もうすれ違わなくて良いはずだよ。だって、、、、言葉に出来るようになったもん、、、、欲しい時は欲しいって、、、、身体が動けるようになってるもん。」

 亜希子は顔を俺に近づけ、押し倒し身体の上に被さってくる。
 その積極的な行動を俺はもう、、、、いやらしいとかとは思わない。
 素直で自然な動きだと思える。
 俺も負けない様に、、、心のままに亜希子を欲する。
 冷房の効きすぎか少し肌寒くなった二人はまた、滴る程の汗を掻いた。

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 朝晩が涼しくなり始めたものの、日中は真夏日の日もある季節。
 エアコンの温度調節が難しい。
 密着しながらの二人。行為の間はやや涼しい方が良い。涼しすぎるとくしゃみが出る。
 相手の唾液や体液だらけの顔であっても、くしゃみの時の鼻水はなぜかお互いに避けてしまう。
 しかし、行為中のそれは、、、顔にかかってもとても美味しい事の方が多い。

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