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置き土産 (6)

 妻に先立たれた友作は、ある少年と顔見知りになる。
 それは、ある姉弟が平穏な家庭を手にする為のストーリーの始まりだった。

 プロット6 なぜ

 「お姉ちゃん、、、お姉ちゃんが考えてた通りだね。」
 二人だけの家になった客間に座る友理奈と雄太。その雄太が言った。
 「大体のところはね、、、おじさん、勝手に解釈してくれたし、予想通り動いてくれたわ。」
 「小説家になれるね、お姉ちゃん。」
 「そうね、なりたいわね。ベストセラー作家に、、、でもこの件は書けないわ。」
 「そういう物なの?」
 「書きたくないだけ、、、、」
 「そうなんだ、、、でもこれで、お金の心配する事は無いよね。」
 「多分ね。でも派手な動きは当分駄目よ。あんたが大学出て社会人になるまで大人しくするの。」
 「分かってる。でもさ、、、これで安心して生きていけると思ったら、弾けそうだね。」
 「ダメっ、、、お金があるからって弾けてたらあの人達みたいになっちゃうから。」
 「うん、、、お金とクスリとエッチな事ばっかり、、、、平気で僕たちに見せてた。
 …狂ってるんだよね、あの人達。」
 「うん、狂ってた。でもその人達の子供だからね、私たちは。タガが外れない様にしよ。」
 「分かってるってば、お姉ちゃん。」

 友理奈の父雄介は、元暴力団の構成員。
 取り締まりが厳しくなり、生活や日々暮らしていく為には、一般人として働かなくては社会から排除される時代。
 父雄介は友人の河野と共に地上げ屋、土地転がしを主とする不動産屋を興した。
 脅迫は雄介、高額な地代や好条件で騙すのは河野。荒稼ぎをした。
 羽振りの良かった雄介は、行きつけのキャバクラでユーリーンと言う名のカンボジア人と仲良くなる。
 ユーリーンは国から援助を貰い日本の大学へと通う留学生。
 学費は免除されても、生活費が掛かる。その捻出の為、週に3日キャバクラ嬢として働き始めた。
 美形長身で巨乳の彼女は店でも1位、2位を争う存在。男性客からの誘いは絶えない。
 そのユーリーンのお腹が大きくなり始め目立ち始めた頃、太客の雄介へ相談した。
 妊娠に気が付いたが病院へは行っていない。行けば国にバレて留学打ち切りになってしまう。私には国で弁護士になる夢と国からの留学条件がある。何かいい方法がないか、、、と言う相談だった。
 雄介は内妻の結菜の健康保険証を渡し産婦人科へ行かせ、市役所で母子手帳を貰わせた。
 ユーリーンは結菜として出産。それが友理奈。
 子供を国に連れては帰れない。雄介と結菜の子として届け出て、その後、雄介は木下結菜と婚姻、木下姓とした。
 その後、ユーリーンは友理奈と絶縁と一切の連絡をしない事を約束し、帰国し弁護士として活躍している。

 友理奈が6歳になった頃、結菜が交通事故で亡くなる。
 高齢者が運転する暴走車に轢かれ、高額な賠償金を雄介は手にした。
 結菜の双子の妹、若菜がそれに目をつけ雄介に近づき、同居した。
 表向きは『結菜の代わりに友理奈を養育してあげる。』としたが、ほぼネグレクト状態。
 雄介も友理奈に対し愛情が湧かない。6歳の女の子は、一人で生きていく事を選ばざるを得なくなった。

 雄介が恐喝、詐欺容疑で逮捕され、2年の懲役を食らう。預貯金は詐欺被害者への賠償金へあてる為、没収。
 若菜はクラブへ働きに出始める。色恋営業で太客を会得し始める。間もなく妊娠。雄介服役中に出産。それが雄太。
 父親はイラン人。中古自動車を日本から中東へ輸出する会社の役員。その男も、外為法違反、共産国へと中古車横流しが発覚し、罰金刑と国外追放となる。
 雄太が生まれた時、そのイラン人から貰った大金が若菜に残った為、雄介はそれを許した。
 もともと若菜の押しかけ女房であり、若菜にも愛情は無い。入籍後も自由に女漁りをしており、出所後の遊ぶ金と認識していた。
 出所後、雄介は1ヶ月もしないうちに交通事故で死んでしまう。
 無免許、飲酒、大幅な速度超過で自動車保険も下りない。若菜の手元に有った雄太への祝い金は、被害者への賠償で無くなった。

 友理奈9歳、雄太2歳の時から、血の繋がらない姉弟の暮らしが始まった。
 若菜も同居はしてはいるが、帰宅しない事が多い。住んでいるマンションの家賃や生活費の為、クラブの客相手の売春を始めていた。
 幼い姉弟へ週に1,2万渡し、『これでどうにかして。』と外泊を繰り返す。
 薄汚れた幼い姉弟が夜、スーパーやコンビニで弁当や菓子を、毎晩のように買う。
 児童相談所の人達が自宅やクラブを訪ね始める。『せめて夜は、お子さんと一緒に。』との事。
 若菜はクラブを辞め、売春一本で暮し始める。しかもホテル代も浮かし対価を少しでも多く手元に残る様にと、時々自宅をホテル代わりにした。
 男性客がやって来る時、姉弟は子供部屋へ隠れる。
 トイレに行く為に部屋から出ると、リビングや風呂場で若菜と男性客との行為を見る事になる。
 その内、若菜は、、、、友理奈を客との行為に参加させるようになる。それは友理奈が中学生となった日からだった。

 友理奈、物心つく頃から雄介と若菜、雄介と知らない女性、若菜と知らない男性など、それぞれが気ままに連れ帰る度に、行為を目にしていた。
 あの行為に嫌悪感を抱く前に、まるで当たり前の事として刷り込まれている様だった。
 雄太は呼ばれない。さすがに実の子供を鬼畜には出来なかった。
 狂った家庭だった。

 若菜の生業も馴染みの客が減り、世界的な感染症の広がりで収入は減り始める。
 住んでいたマンションの家賃も滞り、河野を頼り夜逃げ同然であのアパートへと移り住む。
 若菜は河野へ取り入り、スナックやクラブ、ちょんの間の仕事を世話して貰う。
 感染症も落ち着き始め、若菜の売春も年金受給高齢者相手に特化し何とか生活出来ていた。
 そんな時、河野からクラブ経営の話を貰う。昔、チィママクラスまでなりあがった事もある若菜。直ぐに飛びつく。
 河野経由である人物から借金をし、クラブは開店出来た。
 しかし経営状態は芳しくない。家庭に入れる金も無い。
 友理奈、ファミレスでアルバイトと若菜や雄太には伝えたが、マッチングサイトでパパを募集した。入れ食い状態となる。
 男女の行為そのものは知っているし、中高年男性の相手も若菜と一緒にしてきている。
 しかし友理奈自身は、嫌で嫌で堪らない。
 パパの中には反社の人もいる。覚醒剤を嗅がされキメセクをすることもあった。
 【私は、若菜ママの様には絶対にならない、、、くそったれっ、、、、今に見てろ。】
 友理奈、覚醒剤依存にならない様に吸い込んだ振りをして、覚醒を最小限に留める様に努めた。

 夏休みに入った頃、雄太が野菜を貰ったと話す。
 向いの姫野さんからだと聞いた。アパートの主の様なおばさんに聞いた。
 『姫野さん、3年前に奥さん亡くされて独り身よ。子供さん居ないから貯金多いし、奥さんの生命保険もいっぱい貰ったって話よ。
 もともと節約家だし、金持ちよね、見た目じゃ分からないけどね。』
 友理奈の頭に一つのプロットが浮かんだ。
 【雄太と姫野さんに仲良くなって貰う、若菜ママには死んで貰う、、、姫野さんに頼る、、、、、いずれ、、、】

 夏休み明けに、その物語は始まった。
 パパ活の一人から覚せい剤を分けてもらい、若菜が普段飲んでいる薬のカプセルの中身と入れ替えた。
 計画通り、若菜は死んだ。警察の家宅捜査でも覚醒剤は見つからない。友理奈を調べる事も無かった。
 天涯孤独となった姉弟、友作はシナリオ通りに動き始めた。
 そして、友作の自殺で一幕は閉じた。

 「お姉ちゃん、もうパパ活しないでよ。しなくてもやってけるよね。」雄太が友理奈の背中から抱きつきながら言う。
 「もうしない、、、パパ活の後、薬飲むせいか身体の調子も良くないし、疲れやすくなるしね。でもさ、、、上手な人ってホント、上手なんだよね。」
 「僕、もう出来るよ。十分に間に合うよ。だからさ、、、」
 「知ってるわよ、あんたってさ、目の前で平気でオナってるじゃん、見るともう大人のサイズよね、、、さすがアラブの男だよね、、、、ってか、バーカ。私の相手なんて10年早いってゆうのっ。」
 「ママやお姉ちゃんのを見て、勉強したよ。どうすりゃいいか分かってるつもりだよ、、、10年は待てないよ。教えてよ、鍛えてよ、、、お姉ちゃんの好きな様に。」
 「……バーカ、、、」

 10年後、姫野宅跡に12階建てのマンションが建った。
 最上階には、姫野友理奈、雄太、友愛(ゆあ)の家族。
 そして、友理奈は木下クリエイト(旧河野不動産)の社長になった。

 それからその家族の話は聞かない。
 平穏な家庭だったのか、それとも、、、、、、

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