さよならのあとさきに 清明 (4)
卒業が近づく。
比呂は念願の大手ゼネコンへ就職が決まる。
淳は、大手住宅メーカー傘下の不動産会社へ就職することになった。
「比呂、何時引っ越すんだ?」何気なく淳が聞く。
「3月初め頃。卒業式には一度戻る。研修があるんだって、新入社員集めて。」
「そうか、頑張れよ。お前ならやれるさ。」
「ありがとう、淳。……ねえ、、、お別れ会、しようか。」
「お別れ会? ってもお前、東京だろ? 俺も東京だし、また会えるし。」
「そうなんだけどね、、、大学生としてのお別れ会って事で、、、飲みたいのよ。」
「分かった。どこかレストラン予約しようか?大学最後だし。」
「ううん、淳の部屋が良い。一番、落ち着くし。」
「じゃあ、今週末でもしますか。」
「うん。ありがと、そういう事で。」
比呂、ある思いが胸にある。
大学時代、男性と付き合う事は無かった。
空手の競技会で顔見知りになった人から誘われたり、近づく男性はいたが、すべて断ってきた。
形だけでのお付き合いをしても、相手に恋心を抱けない為、失礼にあたると感じたからだ。
ましてやSEXまで進んだとしても、快感というものが得られる気がしないのも理由だった。
一人の女性として、自慰行為をすることもあったがそれほどでもなかった。
実際に男性とSEXすれば、思いもよらない快感があるのかもしれないとも思えたが、好きでもない人とはSEXは出来ない。いや、したくない。
もし、SEXするとすれば、、、、淳、なのかもしれない。
快感が得られなかったとしても、それは自分の体質の問題であって、相手の責任ではない。
淳の事は男性としては見られないが、信頼できる唯一の異性でもある。頼めるのは、淳しかいない。
頼んだとしたら、淳は断るかもしれない。そうならそれでも良い。
淳には、心の内を明かしても聞いてくれる。受け止めてくれる。
比呂は、そう思った。いや、そう願っている。
淳のアルバイト先のファミレスで購入したオードブルが並ぶテーブル。
何時ものように他愛ない話をし、思い出話をする比呂と淳。
「淳、バイト代は貯まった?」
「貯まってない。使った。良いんだ、それの為のバイトだったから。」
「風俗?、しっかり行けたでしょ。月に10万くらいだったら、毎週行けたかな?」
「そうだね、そんな時もあった。比呂は?バイトしてたっけ?」
「長い休みの間にあそこのキャンプ場や、体育館でのイベント、運動公園のフードフェスとかね。」
「何に使ったんだ?、洋服とか化粧品とかじゃなさそうだし。」
「貯金だよ。一人暮らしすることになるって思ってたからね。後は本くらい。」
「しっかり者の比呂らしいな。偉いわ。」
「ありがと。単純に嬉しい、淳に褒めて貰うと。」
ひとしきり話した後、しばしの沈黙が流れる。
比呂は淳への頼み事を考え始める。
【いつ言おう、、、どう言えばいいんだろう、、、いっそのこと、迫っちゃおうか、、、私らしくないか。】
そわそわし始めている比呂。咳払いや泳ぐ目。淳が 訝しがる。
「どうした、比呂。落ち着かない様だけど何かあるのか?」
「ハっ、、、ゴメン。ちょっと、、、、」
「ちょっとなんだ?」
「……うん、、、、、、、淳に頼みたい事、、、ある。」
「頼み事?、、、良いよ、何でも聞くよ。比呂の頼み事だもん、断る理由ないし。」
「……あのね、、、、、、SEX、、、、して欲しいの。」
比呂、思い切って言葉にした。きっと顔は赤くなっている。お酒の酔いがまわってるのとは違うほてりが来ている。
「…………」淳が比呂を見つめている。何も話さない。
「あ、嫌だったら良いの。気にしないで、、、、淳にしか頼めない事だから。」
「嫌じゃない。比呂の事は会った頃から気にはしてたよ。むしろ好きだった。何度、比呂を抱く妄想をしたか数えきれないくらいだったんだ。」
「そうなの?、、、そういう目で見てたの?」
「そういう目も、友人として見る目も、頑張ってる比呂を応援する目も全部、持ってる。色んな場面、色んなシチュエーションの比呂を考えていた。」
「言ってくれても良かったのに。」
「普段の比呂が一番好きだったんだ。恋愛や関係が深くなった比呂じゃなくて、、、、壊れるのが嫌だったんだ。」
「それは私も一緒かも、、、壊したくなかったんだよね、淳との関係。でもね、、、これから先、男性を知らないまま社会に出たくないの。女同士でも話題に上ることもあるし、、、、そんな事より、、、、」
「そんな事より、、、何だ?、、、何かあるのか?」
「気持ち良くなる感覚って、、、知らないの。自分でするしかないから、分らないのかもしれない。男の人にされたら、それでも、、、って思うの。
知らない人に抱かれるより、、、、淳の方が、、、、ううん、淳が良いの。そう思ったの。」
「……比呂、、、分かった。」
何時ものように淳のベッドに寄りかかる比呂の横へ淳は移った。
比呂は落ち着かない様子で、背中を丸め両手を擦り合わせ、幾分震えている。
淳は比呂の肩を抱く。比呂を抱き寄せる。淳の顔が比呂に近づく。唇が重なる。淳の舌が比呂の口の中へと入る。キスが激しくなっていく。
二人は、重なり合った。
淳は、一回果てると続けて比呂の身体をケアし続ける。そして、2回目。また、比呂をケアしていく。何回目か果てた後、比呂の頭を撫で、眠りに落ちて行った。
比呂は余韻に浸る。
確かに快感が押し寄せてきた。
いつか見た動画の様に、声が漏れることは無かったが、息遣いは少し荒くなっていた。
【実際の男の人にケアされたからかな、、、それとも淳だからかな、、、、信頼できる人、好きな人、愛し合う人とのSEXなら、、、一番高い所へ行ってしまうのも、、分かる気がする。】
比呂も心地良い眠りについた。
翌朝、比呂が目を覚ますと淳はいつもの様に、朝食を作っていた。
「おはよう、比呂。」
「おはよう、淳。」
いつもの朝が来た。
今までと何ら変わりのない、朝だった。