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雪の降る日、拾った子猫 (3)


 気になる

 翌日、穂香は智と一緒に起きてきた。
 仁と信、礼は職場に向かう為、朝の食卓は忙しい。特に礼はいつも4人分の弁当を作る。しかし今朝からは5人分となった。
 「4人も5人も変わんないでしょ。」と言いながら、弁当箱へ詰めている。
 智と穂香もこのお弁当をお昼に食す。「洗い物が少なくなって良いでしょ。」と礼。
 3人が出かけた後は、智と穂香の家事が始まる。
 洗濯物をデリケートなものとそうでないものを区分けして洗濯機へ。「下着とかとね、色の薄いとか白いものは後で洗うの。」と穂香へと説明を交えながら進める。
 次は掃除。礼が掃除機、その後を穂香がフロアーワイパーで拭いていく。浴槽は専用洗剤で軽く洗い、トイレは便座や床を専用ペーパーで吹き上げる。大体それらを午前中に熟していく。
 それぞれの間に休憩と称し、飲み物やお菓子をつまむ。その時が礼の穂香に関する事情聴取へと変わる。

 「穂香ちゃんはどんな子だったの?」…「ずっとうちの中に居た。」
 「幼稚園とか保育所は、、、行ったの?」…「少し、、、」
 「小学校は楽しかった?」…「……ううん、、、私、覚えられなくて、、、」
 「休憩時間とかに、一輪車とかしてた?」…「ううん、してない、、、乗れない。みんなから貸して貰えないし、、、」
 「そうなんだ、、、、イジメられてたの?」…「分かんない、、、私、バカなの。勉強できなくて、覚えられなくて、、、」
 「……ごめんね、嫌な事思い出させちゃったね、、、中学校は?気になる男子とか居た?」…「最初だけ行った。仲良し学級とか中学に無いし、、、代わりに良く知らない所へ行ってた。」
 「代わりのところ?、、、、お勉強?」…「ううん、、パズルとか針金に球を通すのとか、一日してた。」
 【知的障害かな?、、、発達障害かな、、、、私の専門ではあるけど、多動症とか過度の集中とかじゃなさそうね。…境界知能?、、、】

 「本とか漫画とか好き?」…「漫画は読んでた。チャオとかをママやおじさん、お兄さんが買ってくれたし。」
 「おじさん?お兄さん、、、一緒に住んでたの?」…「ううん、、、、ママと行ってた、、、、、、、ママ、先に帰っちゃうけど。」

 そこまで言って穂香は俯き、それ以降黙りこくった。
 【おじさんって、、、、お父さんは?、、、、男性のところへ行って、一人にして置いて帰る、、、、そこで、、、、】智、頭が混乱し始めた。整理する為に別な日に聞くことにする。
 「ゴメン、穂香ちゃん。お弁当食べようか。」

 数日掛けて、ゆっくりと穂香の事を聞いた。
 そして夜、大人だけでお酒を飲むと穂香に伝え、先に寝かした。
 智が今まで聞いた事を仁、礼、信へ話し始める。

 ・穂香は母と二人暮らしで、その母親は昼は工場のパートタイマー。夜は週に4日、スナックでアルバイト。その間、穂香は一人で留守番。
 ・穂香は知的障害があるみたい。記憶する能力に問題ありそう。発達障害のASDやADHDの傾向は見られない。
 ・漫画は見ていた、読んでいたと言うので、画像認識はあるが文字認識に支障があるのではないか。これは調べてみる必要あり。
 ・中学校へはほとんど行っていない。高校へも進学していない。
 ・母親の知り合いの男性二人のところへ母と行っていたらしい。母親は穂香を一人置いて帰っていた。
  そこで何かされていたのではないかと思う。

 「その男性二人って言うのは、母親の男か、、、それとも、、、、」仁の顔が険しい。
 「それともって何?」礼が聞き返す。
 「前にも言っただろ、SMクラブが○○市にあるって、、、しかもマンションの一室を使用していると、、、くだんの市役所職員が以前、話してた。」
 「……確かめてみるの?」と智。
 「確かめてどうする。その男たちをとっちめるのか、、、、母親をとっちめるのか、、、、本人が同意していたとしたとしても18歳未満に対する行為で傷害事件に出来るかどうか分らん。」
 「何にしても、穂香ちゃん本人がどうしたいのかが優先になると思うの、そのクラブとか男性の事とか。」と智。
 「そうだな。そう言うクラブだとは限らないしな、」と一同、納得せざるを得なかった。
 「智、すまないな。ゆっくりと頼むよ。」信、そう言うしかなかった。

 智と穂香で買い物に出かけた日、ファミレスでパフェを頼んだ。
 「穂香ちゃん、パフェ好き?」…「うん、好き。おじさんやお兄さんがよく食べさせてくれた。」
 「そう、優しかったのかな?」…「優しかった。いつも二人のお相手した後に、パンケーキとかお寿司とか焼肉を食べさせてくれた。」
 「え、、、お相手?、、、どんな事?」…「ロープで括られて、鞭でぶたれておじさんやお兄さんのを咥えて、、、大きな注射器でお尻にお湯、入れたり、、、」
 「ちょ、ちょ、、、ちょっと穂香ちゃん、そういう話は外でしないで、、ねっ、帰ったらね、また聞かしてくれる?」…「みんなしてるんじゃないの?、、、」
 【ど、どうしよう、、、私ひとりで聞こうか、みんなで聞こうか、、、父さんとかお兄ちゃん居たら話せないかも、、、お母さんとなら、、、、どうする?】

 「と、ところでさ、、、穂香ちゃんは携帯電話とかスマホ、持ってるの?」智、話題を変えた。
 穂香が家に来てから、そういう物を持っている記憶がなかった。
 「持ってる。でも電池切れちゃったみたいで、、、画面黒いまま。」
 「そう、帰ったら充電してみようか。」…「出来るの?、、、お願いします。いつもはママがしてくれてたの。」
 二人は帰宅し、さっそく穂香が携帯電話を持ってきた。それは、二つ折り携帯だった。充電しようにも横幅の広いタイプ。
 【あ、これは、、、お兄ちゃんなら持ってるかも。】
 「穂香ちゃん、お兄ちゃん帰ってくるまで待ってて。充電プラグ、私持ってなくって、、お兄ちゃんなら持ってると思うの。」と穂香に告げた。
 穂香は頷いた。
 【単なる連絡用に渡していただけかな。充電できれば連絡先とか登録番号とか分かるかも。】智、信の帰りを待つことにした。

 「充電できたよ。電源入れてみるか?」帰ってきた信に穂香の充電を頼んだ。
 「うん、入れてみて。良いよね穂香ちゃん。」穂香が頷く。
 暫くして携帯の画面が待ち受け画面になり、けたたましい通知の音が暫く鳴り続けた。
 「ん、何だ?、、、100件超えてるよ着信有りと留守電も、、、」
 「誰から?」智の問いに、受信画面を開く。そこには”ママ”、”おじさん”、”おにいさん”の文字がランダムに並んだ。
 「お母さんとおじさん、お兄さんの3人だ。留守電はお母さんとおじさんが数件あるな。聞いてみるか?」

 『穂香、どこ行ったの?すぐ連絡頂戴。』『どこに居るの?誰と?、、、もう兄さん怒ってないから』後は同様な内容。
 『穂香、どうした。連絡しろ。心配だよ、お前一人じゃ生きていけないだろ。』おじさんも同様な内容。
 しかし最後に気になる事を話していた。
 『穂香、、、俺たちの事は誰にもしゃべるなよ。やってた事は秘密だぞ。』
 それを聞いた信と智は会話を止めた。穂香の前では話せないあの事だと感じた。
 「穂香ちゃん、、、連絡してみる?お母さんだけでも。」智が穂香に語り掛ける。穂香はしばらく考えた後、首を横に振った。
 「ここ暫くの着信の頻度は下がっているな、、、諦めたのか、どうか、、、」信は画面を眺めながら呟いた。
 「穂香ちゃん、携帯なくても良い?、また電源落しておく?」信が聞くと、穂香は頷いた。
 「じゃあ電源をまた落しておくから、、、智、持っててくれるか?穂香に返しておくと電源入れて連絡を取るかもしれないし、着信があったら出てしまうかもしれない。」
 「うん、分かった。穂香ちゃん、暫く預かるね。」智の問いかけに穂香はまた頷いた。

 【少女をいたぶるだけじゃなかったのか?、、】信は男の話していた秘密の事が気になった。

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