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響子と咲奈とおじさんと(13)

  大人への道

天井を見上げていた咲奈は、不思議な世界から戻った様な気分だった。
咲奈が横を見ると、晋平が背中を向けベッドの横に腰掛けていた。
「…おじさん。」咲奈は小さな声で呼ぶ。
晋平は咲奈の横に座りなおす。枕を背に置き、もたれ掛かる様に。
咲奈は晋平の胸からお腹にかけて顔を乗せ、腕を添える。晋平の匂いを浅い呼吸で嗅いでいた。
【……これが、お父さんの匂い?。おじさん、晋平さんの匂いだよね。】
暫くの間、会話もせず、そのままでいた。

「俺は、もうすぐしたら帰る。……咲奈は居てもいい。……明日の朝まで居てもいい。」晋平が優しい声で言う。
「仕事ですか?明日?」咲奈が少し寂しそうに聞く。
「そんなところだ。帰る時、カードキーをフロントの箱の中へ入れておけば良い。」
「私も帰ります。」
「そうか。」

二人はホテルを出て、新橋駅に向かう。辺りは薄暗くなっていた。
「また、連絡する。今日はありがとう。」晋平が言う。
「私もありがとうございました。……今度は何時、会えますか?」
「来月の今頃、土曜日かな。近くなったら連絡する。」
「はい。待ってます。…それから、、、」
【私はおじさんにとって、何?。奥さんの代わり?娘さんの代わり?愛人?】咲奈は、そう聞いてみたかった。
「それから、何?」
「いえ、何でもないです。」
【……何でも良い。流されてみるから、、、。】心の中で自分への答えを出していた。
新橋駅の改札を抜け、其々のホームへ向かう。
「じゃ、気を付けて。」「ハイ、じゃ、また。」「うん。」手を挙げて、別れた。

翌週、学校で響子に会う。咲奈は大きく頷き、微笑んだ。響子も軽く頷き、微笑んだ。
その週末、咲奈と響子は渋谷、原宿、新宿といろんな店を回った。
普段の大学用に、ジャケット、スカートやパンツを幾つか、おじさんとのデート用に響子に見立てて貰ったワンピースを購入。
【おじさんからの援助、大事に使わなきゃっ。】と思いつつ、散財した事で目の前が開けた様な気もした。
【おじさんが居なきゃ、こんな買い物も出来ないし、わくわくも無いし、、、。ありがとう。おじさん。】

咲奈と晋平の月1の逢瀬が始まった。夏が過ぎた。
新橋駅前で会い、近くの焼き鳥屋さんや中華料理屋、その後、最初に行ったホテル。
「いつもこのホテルですね。」ベッドの中で咲奈が聞く。
「あぁ、他に知らないから。それに干渉しないから、ここ。」
「あの~、ラブホテルとかは?」
「値段、変わんないよ。こことそんなに、多分、、、とは言っても30年、行ってないから分からないな。」
「一度、行ってみたいです。」
「分かった、来月そうしよう。……でも最近の知らないから、上手くいかないかもな。」
「良いです。一緒なら、、、。」

翌月、新宿で食事をした二人、歌舞伎町北側のホテル街を歩く。
「4月の事件ってこの辺りだった?」
「……はい。もっと駅に近い方でしたけど、、、」
「怖くないか?」
「平気です。おじさんと一緒ですから、、、」

「……こんなにあるんですか?知らなかった…」
「たくさん、有るねぇ~ラブホテル。どこが良いのか全然判らん。」
「空いている所ならどこでもいいですけど、、、。どこも満室みたいですね。」
「そうだな~。探してる間に朝がくるなぁ。これじゃ~。」
少し西に外れた路地に”空室”のネオン、そこに向かい、店内に入る。
左側に客室の表示板が有り、室内の写真が有る。殆どの灯りが消えているが、一つだけが点いていた。
晋平が、その”TOUCH”と書かれた表示板に触ると灯りが消え、代わりにエレベーターまでの点滅する灯りが点いた。
「へぇ~。605か。」二人はエレベーターに乗り6階まで上がる。
降りたところから部屋の方まで天井の灯りが流れる様に点滅していた。
部屋に入る。正面は壁、右にトイレ、バスルーム。左にベッドとテーブル、ソファー、テレビ。
「わあ~、こんなになってんだぁ~。」咲奈は部屋の隅々まで探検する。
「あ、精算機か。支払いしないと出れないのか。現金とカード、携帯かぁ。」晋平はドア横の機械を見る
二人はソファーに座り、部屋を見渡す。暫く見た後、「シャワーでも浴びるか、、、。」「……うん。」
晋平が先にシャワーを浴びる。部屋から曇りガラス越しにシャワー室の晋平が見える。
腰タオルで晋平が出てくる。咲奈がソファーに脱いだ服を置き、シャワーを浴びる。
晋平がテレビを付けると、いきなりアダルトビデオ、しかも無修正。咲奈が浴室から出てきて、テレビを見る。
「……同じようにしても……良いですか?」「……良いよ。」二人は 合体。時々テレビを見ながら、さまざまな事を試した。
咲奈が少しずつ、積極的になっていく。
その夜は朝まで一緒に居た。ようやく明るくなった町を新宿駅へと歩いた。


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