Serenity -静寂- (12) 八百万の神
「じゃ、ママ。帰ります。ご馳走様。」
「はいどうも。ありがとうございました。又のお越しをお待ちしております。じゃあね、新君。」
【さよなら、ママさん、綾香さん。多分もう来ません。和歌山へ帰ります。楽しかったですよ、ママさんの顔を見るだけで癒されたし、誘っても靡いてくれないのも、いい緊張感だったし、、、、本当にありがとう。さよなら。】
九神 新 、18歳から上京し世間や社会に触れ、10年したら九神家を継ぐという約束を果たす為、帰郷する。
代々、九神家、いや九鬼家は古代からの伝承、口伝、書物を引く継ぐ家柄である。
紀元前3000年前のメソポタミア文明に端を発し、放浪の民となったシュメール人の一族。
いくつかのグループの中で、東を目指し中国を経て、紀元前に東海にあるという蓬莱山があるこの国を目指したグループがいた。
行く先々で現地の人たちと交流や交配を重ね、もともと持っていた鉄製造技術や文字を携え、稲作や土木技術を加えたそのグループは、「徐福」と後世の人々は伝えた。
そのグループも一度ではなく何度も、何百年も掛けこの島国へと渡る。
住み付く先は南西諸島、九州、四国、紀伊半島、東海地方、関東地方、東北地方。九州から山陰、丹後、若狭、越前、能登、越後、東北へと進んだグループもおり、多岐にわたる。
元々同じ言葉の文化を持つ仲間。交配していった場所での言葉と見た目の混じり、仲間なのか敵なのか分からなくならない様にと目印に使ったのが、越の国の勾玉。
語り継ぐ先祖や今の象徴への尊称として、│皇尊《すめらみこと》を捧げる。シュメール、すめらみこと。
九鬼家はそのグループの一つである。
富田綾香は、語り継ぐ事、受け継ぐ事を免れ、その役目は負わない。
九神新は、語り継ぐ事、受け継ぐ事を選び、その役目を背負って生きていく。
もしかすると、それぞれの祖先は、侵略者と先住民との戦いの相手であったかもしれない。それが分かるから、交わることを選ばなかったか。
同じ祖先も持っていたはずである。この島国は、多民族国家である。
ありとあらゆる価値観と共生、共存、生き残りを選ばざるを得ない自然環境の中で交わり、語り継ぎ、手を取り合って生きて来たこの国の住民である。
八百万の神々が集まる鬱蒼とした森、現代の東京。
静寂の闇の中に、今日も吠える人の声がこだまする。
その声はここに居る、ここで生きていると言うというさけびなのか。
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