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東京都知事選 選挙期間終期に関する注意事項

東京都知事選も終盤に差し掛かっている。選挙期間終期に関する注意事項をまとめた。ネットを用いた選挙運動を対象としている。

なお、選挙法令の専門家ではないので、正確性は紹介書籍や総務省選挙サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。

先にまとめ

選挙運動は投票日前日の午後12時まで。

都知事選は7月7日投開票。選挙運動はその前日、7月6日の午後12時までとなる。間際の投稿は控えるのが無難それより前の応援は全力で。

日が変わった後は、選挙運動を行わないこと。特定の候補者の当選に利する可能性のある一切のネット上の活動は差し控えること。期日前投票時に見られた、「ひまそらあかね」と投じた投票用紙の写真を投票日当日に投稿するのも含まれる。また、そういった他者投稿や他者動画の拡散や共有も含む。過去に公開された選挙運動動画を当日拡散すれば、拡散者が違法に問われる。万全を期するなら、「いいね」程度のものも避けておくのが無難と言える。

投票日の前日までに投じたものを消す必要はない。

参考書籍

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』
  書籍版(Amazon)
  電子書籍版(ぎょうせいオンライン)

個別要素

選挙運動

「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接または間接にする行為」をいう。

 判例、通例に従って、一応公職選挙法上の「選挙運動」を定義すれば、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、(……)投票を得又は得させるために直接または間接にする行為」ということができるだろう。……

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1059~1060

ネット上での選挙運動

ネット上での選挙運動の定めは法142条の3法142条の4にある。

この記事では、法142条の3を対象に考えていく。「ウェブサイト等を利用する方法」と言われるものとなる。具体的には以下のものがある。

① ウェブサイト
② SNS
③ 動画共有サービス
④ 動画中継サイト

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1214
法142条の3の例示を抜粋

およそネットを用いるもののうち、電子メールを利用するもの(特定電子メール送信適正化法2条1号)と放送(放送法2条1号)を除いたものが、法142条の3の守備範囲となる(同書p.1213)。電子メールを利用するものは法142条の4、放送は法151条で別規定とされていることから、法142条の3には含まれない。そしてその例示が、上記のものとなる。

記事の主題からはやや外れるところ、この基準で考えると文理解釈上、電子書籍は法142条の2(パンフレット又は書籍の頒布)ではなく、法142条の3で扱うものとなるだろう。ただし、合目的的には判断付かなかった。書籍における制限が選挙費用を押さえて同基準で競わせることにあるなら、電子書籍は書籍同様の扱いを受けるべきともいえる。他方、選挙運動のネット解禁を重く見るなら、有償のネット動画と同様の扱いを受けるべきともいえる。

文書図画

文書図画とは、「文字若しくはこれに代わる符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示」をいう(同書p.1169)。

堅苦しい表現となっているところ、例示を含めて説明すると、以下のようになる。

文字や象形
 文字 = 日本語や外国語など
 文字に代わる符号 = 点字など
 象形 = 絵画や人形や彫刻など
文書図画
 文書 = 文字若しくはこれに代わる符号を用いて……
 図画 = 象形を用いて……

「物体の上に多少永続的に」とあるため、電子機器類の表示画面上に文字類を表示する場合も、文書図画にあたる。

 したがって、コンピューター、携帯電話等のディスプレイに表示された文字等の意識の表示は、「文書図画」に当たるものであり、判例においても、「(……)法が、ビラ、はがき等の紙に記録されたものに限って「文書図画」としているのではないことは明らかであり、かつ、アドバルーン、ネオン・サイン、電光による表示、スライドその他の方法による映写等の類をも禁止していることからして、コンピューター等のディスプレイに表現されたものであっても、法第142条第4項、第143条第1項にいう「文書図画」に該当することは明らかである。……」(平17.12.22東京高裁)と判示されている。

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1212

頒布

不特定又は多数人に対して配布することを意味する(同書p.1170)。

能動的に配るケースに限らず、受動的、たとえば選挙事務所に積み置いて持っていってもらう場合も含まれる。ネットのものは、メールを利用する方法を除き、受動的、見に来てもらう方法と言える。そのように、見てもらえる状態に文書図画をネット上に置く行為も、頒布にあたる。

コンテンツやコメントなどのそれぞれが、文書図画の頒布の単位となる。

また、いわゆる「掲示板」に書き込み行為を行う場合、一つ一つの書き込みが「文書図画の頒布」と評価される……

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1217

選挙期間の終期

選挙期間の終期は、投票日の前日となる。

(選挙運動の期間)
第百二十九条 選挙運動は、各選挙につき、それぞれ第八十六条第一項から第三項まで若しくは第八項の規定による候補者の届出、第八十六条の二第一項の規定による衆議院名簿の届出、第八十六条の三第一項の規定による参議院名簿の届出(同条第二項において準用する第八十六条の二第九項の規定による届出に係る候補者については、当該届出)又は第八十六条の四第一項、第二項、第五項、第六項若しくは第八項の規定による公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない。

公職選挙法129条

ネット上だと時間帯に制限はなく、午後12時まで可能となる。

選挙運動の終期
 本条においては、選挙運動をすることができるのは、当該選挙の期日の前日までである旨規定されている。したがって、当該選挙の期日の前日は、街頭演説のように時間的な制限(……)があるものを除き、午後12時まで行ってよい。

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1067

今回の選挙では、地震や噴火など不測の事態がない限り、繰延投票はないだろう。繰上投票や繰延投票といった複数日にまたがる形態で投票する場合は、その地域ではその投票日の前日までとなる。地域の限定されないネット上での選挙運動で、この観点がどのように扱われるかは分からなかった。

……。「当該選挙の期日」とは、その選挙の投票の行われる日をいうのであって、ある地域で繰上投票、繰延投票が行われる場合には、当該地域については、その投票日をいうものと解する。……

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1068

投票日当日の頒布

選挙運動は投票日の前日までに限られる。これは、ネットを用いる場合も同様となる。そのため、投票日当日の頒布は法129条に抵触する。「いいね」程度の場合も、問題になることはほとんどないと思うものの、万全を期するなら避けるのが無難と思われる。

 ……。したがって、選挙期日当日は、(当方注、ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動用文書図画の頒布を行う際に用いる)ウェブサイト等を更新することはできない。また、SNSにおいて選挙運動と認められる投稿や書き込みの拡散や共有をすることは、一般的には選挙運動に当たるおそれがあり、選挙期日当日はできないこととなる。他方、SNSにおいて「いいね」等の共感等の意思表示をすることは、一般的には、直ちに選挙運動には当たらない場合が多いと考えられるが、個別具体の状況により、選挙運動用文書図画の頒布と認められる場合には、選挙期日当日においては法第129条に抵触する

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1218

投票日前日までに頒布したものの扱い

投票日の前日までに頒布されたものはどう扱うべきか。これは法142条の3第2項により、削除しなくともよい。

第百四十二条の三 
 選挙運動のために使用する文書図画であつてウェブサイト等を利用する方法により選挙の期日の前日までに頒布されたものは、第百二十九条の規定にかかわらず、選挙の当日においても、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に表示させることができる状態に置いたままにすることができる

公職選挙法142条の3第2項

(二) 選挙運動の期間中に適法にウェブサイト等を利用する方法により頒布された選挙運動のために使用する文書図画をそのままにしておくこと(法一四二の三2)。なお、選挙期間当日、当該文書図画を更新することはできない。

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1068

なお、法142条の3第2項には「当日においても」と記されているが、翌日以降も問題ないとされる。

 ウェブサイト等に掲載した選挙運動用文書図画を選挙期日の翌日以降もそのままにしておくことについては、①……特定の選挙における特定の公職の候補者等に関する内容が記載されていることが多いと考えられること、②……、選挙の期日後新たな文書図画の「頒布」が行われたとは言い難いことから、基本的には、次の選挙の事前運動の禁止(法一二九)に抵触することは想定し難いものと解される。

『逐条解説 公職選挙法 改訂版』p.1218~1219



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