27歳っていい年なの?

 7つ年下の弟が就職活動を始めた。
 3つ上の姉はともかくとして、僕は新卒での就職活動をほとんどしなかったし、2つ下の弟はスーツを買うことなく就職先を決めてしまった。だから大学3年の内からリクルートスーツを着こなす彼がどうにも「意識高い系」に見える……と、それはさておき。

 ジャケットを小脇に抱え、ワイシャツをパタパタしながら家に帰ってきた弟が急に制服姿の高校生に見えた。
「マジで? 俺、大人っぽく見られたいから結構ショックなんだけど」
 そうなの? 僕は24歳で未成年に間違われたとき地味に嬉しかったけど、彼がそう言うなら一応フォローを入れておこう。
「弟バイアス掛かってるからね。いまだに『おちび』だし」
 弟が2人いることと7つも年が離れていることで、僕は時々彼を「おちび」と呼ぶ。背丈はとっくに抜かれているし彼の不服は理解できるが、これはもう末っ子に生まれた宿命と思ってくれ。
「……真はさ、いいかげん自分がいい年だってことに気付けよ」
 意趣返しなのか「結構ショック」な言葉を僕に与えて、彼はスーツを脱ぎ捨てた。


 年齢って相対的なものだと思う。

 僕は今年で27歳だが、大学卒業の頃に体調を崩したのでまだ社会人1年目である。
 創作活動に明け暮れ、高校や大学の後輩と会っているとなかなか学生気分が抜けない。物書き学校もパラアーチェリーのクラブも、自分の親くらいの世代が多いからとことん若い子扱いされる。病院でさえ、十代の頃からお世話になっている先生が未だに僕を名前呼びする。あれはさすがにやめてほしい。

 要するに僕は、自分の年齢を「まだ二十代」「若い」「ついこの前まで学生だった」と捉えているのだ。就職してからもひたすらパソコンに向かう仕事ばかりで、この感覚が是正される余地がない。

 とは言え、世間的に27歳はもうアラサーだろう。
 大学の同期はキャリアやライフワークバランスに悩みながらバリバリ働いている。結婚した人も子供がいる人もいる。弟が言うように、僕は自分がいい年だと気付いてもっと焦るべきなのかもしれない。

 ……で、焦るって具体的に何するの?

 自立が足りないというならまず実家を出ねばならないが、今の収入では無茶だろう。しかも勤務日数をそろそろ週3日から4日に増やしたいと申し出る直前に、時差通勤や自宅待機が始まってしまったのだ。とても仕事を頑張れる状況ではない。創作活動はインプットもアウトプットももっと頑張らなければと思うが「いい年」した人間の台詞ではない気がする。
 ああ、婚活(いや、どちらかというと恋活?)だったらしたいかな。でも車椅子ユーザーの僕にはハードルが高そうで……むしろもっと若いうちに(二足歩行に問題がなかった頃に)経験値を上げておきたかった。これは「焦り」とはちょっと違う気がする。


 つらつら書いてみたものの、弟が言いたいことはただ一つ「いい加減『おちび』呼ばわりはやめろ」だけだろう。

 ただ、彼の末っ子感はおちびと呼びたくなるのだ。
 基本的に末っ子は甘やかされるか虐げられるかの二択だと思うけど、彼は完全に後者である。自由過ぎる姉や兄に振り回されて忍耐強い子に育った。我が家には珍しい常識人だと思う。

 スーツを脱ぎ捨てた彼は汗をぬぐいながら一言。
「もう6月から9月は半袖短パンを義務化しようぜ」
「そのためのクールビズでしょう? あ、就活生までは浸透しないのか」
「だから義務にしなきゃダメなんだよ」
「……僕は嫌だよ。短パン履いたら手術の傷さらすことになるから」
「あ、そうか。そういう人には配慮しないと」
 こういうところですぐ納得できるのがウチのおちびだ。姉兄3人はまず自分都合で考えるから、最終的に納得するとしても「は? 知らねえよ」を一度経由する。

 なんだか尻切れトンボ感が否めないが、20歳の弟の方がずっと大人に思える27歳の物書き志望の話でした。
(ちなみに2つ下の弟のことは、もはや兄貴かと思うことがある)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?