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人の話を聞けない人間にコミュ障扱いされたくない

 こんにちは、亀山真一です。最近ずっと我が家の話を書いてましたが、祖父を偲ぶところから脱線しそうで書けなかった夜の話を一つ。
 告別式の前の晩、姉弟4人だけで飲んで語らう時間ができました。

 少なく見積もって4時間、前後の夕食や姉が離脱してからの時間も含めると6時間以上食卓を囲んでおしゃべりしていたことになります。
 僕には友人とサシで2時間焼肉して喉を腫らした前科があります。この度もさぞ喉を酷使したことかと思ったら――。

 全く話し足りませんでした!

 二つ下の弟が「こんなにしゃべったの久しぶりだよ。喉が痛いよ」なんて嘯いてましたが……だとしたら、もう少し僕に譲ってくれても良かったんじゃないの?
 こちらはむしろ口を開かせてもらえないフラストレーションにイライラし、弟たちが寝静まってから父の前で堰を切ったように発散し、号泣までしてしまいました。告別式の前夜に故人を偲ぶ以外の理由で泣かせるなってベッドに潜ってから思いましたよ。


 具体的にどんな会話があったのか、6時間もあったので明確な順序は覚えておりませんが……。
 まず、祖父母の年齢や僕らとの歳の差から、誰がいくつで結婚したという計算になりました。そこで母と父、姉と姉の旦那さんが結婚した時の年齢が全く一緒だったと気付いたんですね。

「真はもう過ぎちゃったからアウトだね」

 悪気なく残酷なことを口にする姉。
 彼女はよく僕に「何でわざわざ余計なこと言うの!?」と怒りますが、僕からすれば姉もよく無神経な一言を放ちます。

「いいよ。どうせ僕は結婚しないから」

 反射的に強がってしまいましたが、僕は「しない」のではなく「できない」のです。本当は恋愛も結婚もものすごくしたいこと、姉は分かっていないのです。
 弟2人の恋バナは掘るのに僕には振りもしない。どうせ何もないんだろうって、そうなんだけどさ……いや、これ以上は「また始まった」って顔されるから黙っておきました。


 話は進み、姉の馴れ初めが「職場周りの友人の紹介」なのは知ってましたが、その詳細を聞いてビックリしました。

「出会う前の週にも彼の会社の人たちと合コンしてたから、あの時会っちゃってたら逆に付き合わなかっただろうね」
「……え、待って。合コンって実在するの!?」

 僕にとっては都市伝説の合同コンパが、姉にとっては当たり前に参加できるものだったのです。いいなあ、合コン。行ってみたいなあ、合コン。

「真の性格で誘われるわけないじゃん」

 今度は横から弟がクリティカルな一撃。誘われたら絶対行くのに……という僕の呟きは宙に消えてしまいました。
 姉の余計な一言は内容でぐさりときますが、弟はシンプルに口が悪いため、彼が深く考えず口にした言葉に僕は時々しゅんとさせられます。昔は勢いで「死ね」とか言っちゃう子でしたからね。本気でなければいいわけじゃないんだよ。

 被害者ぶってますが、演劇仕込みのよく通る声を持つ僕は、すぐに語気が強くなるため「怒鳴らないで」と七つ下のおちびからよくたしなめられます。「一言多い」も姉の指摘通り。
 とはいえ自覚はしているため、思っていることの半分程度しか口にしません。だからこそ二重にフラストレーションが溜まっていくのです。こんなに言いたいことを我慢してるのに、何故怒られなければならないのかと。


 更に会話は進み、仕事の話題になりました。
 姉の転職歴に耳を傾け、弟の昇進劇に改めてすごいなと思い、流れからして僕のターンだろうというのもあり口を挟みます。

「今の俺の職場環境、人と話せるしノルマなくなったし実は最高なんだよね」
「僕も! 僕も今の職場環境が一番なんだよね。2年後が怖いくらい」

 今の職場は僕の物書き志望を理解していて、だからこそスキルの低い契約社員を育てる気がありません。週3日事務職としてのらくら働き、残りの時間は自由に執筆に費やせます。
 ということを、嬉々として語ろうとしたのですが――。

「2年後?」
「あと2年半で契約が切れるからさ」
「真って今、派遣だっけ?」
「契約社員だよ。直接雇用」

 それだって、一年契約があと二回更新されると信じて疑わないのは今の職場だからです。

「じゃあ、辞めたらキャリアにならないんだ」
「……え?」

 姉がよく分からないことを言い出しました。

「真は今どれくらい働いてるんだっけ?」
「週3日」
「規定的に他で働いてもいいの?」
「……ダメではないと思うけど」

 僕が既に電子書籍で商業デビューしていることは上司も知っています。副業禁止ならアウトです。

「じゃああと2日、派遣で働いてみたら?」
「……ちょっと何を言ってるのか分からないんだけど」
「だから、今の内に派遣で働いておけば2年後に転職しやすいでしょう?」
「フルタイムで働けるなら、今の職場でフルタイムするよ」

 現に週4日に増やすか延々悩んでますし、通院通学があるのでフルタイムは不可能です。

「それじゃ転職が大変だから派遣でキャリアを作ればいいって言ってるの」

 姉は何故か自己流の処世術を語り始めました。
 正社員から正社員に転職し、その後派遣社員に転身して会社を渡り歩き、一度専業主婦になってから再就職した姉は正論を言っているのかもしれません。が、僕には何一つ役に立たない情報です。

「辞めた時のことは辞めた後に考えるよ。時間ができたタイミングでドクターに入院をオススメされる可能性もあるし、それまでに一冊でも多く書いた方が――」
「あんたがそうするかは別として、事務職を続けるならそれが一番賢いって話をしてるの」

 僕がそうするかは別だと分かっているならば、姉が勝手に持論を披露しているだけということになります。彼女の仕事の話はもう聞いたのだし、会話の流れ的には僕のターンだったはずです。

「そういう話をしてるんじゃないんだけど。僕の理想は印税収入で生活することで――」
「何無理なこと言ってるの?」

 確かに理想論ですが、僕は実際に商業デビューを果たしているのだから、ただの夢物語ではありません。文章力に関しては物書き学校でプロの大先輩からお墨付きを得ています。
 ということを、姉は語らせてくれません。

「どっちの言いたいことも分かったよ」

 横で聞いていた弟が収めにかかりました。

「そういう話じゃないなら、もういいでしょ?」

 全然良くない。僕はまだ言いたいことを何一つ言えていない。けれど、ここでごねたら「また始まった」という顔をされる。弟まで敵になる。

 僕は仕方なく口をつぐみました。しかしこれって僕から会話の主導権を奪った姉が99%悪いと思うんですが、違いますか?
(残りの1%は安易に「2年後が怖い」と口走ったことです。現在の話をしたかったのならこの一言は不要でした)

 おまけに、よくよく考えてみたら姉の処世術は僕が事務職を続けたい場合でも役に立ちませんでした。
 何故って車椅子ユーザーの僕を派遣社員として迎えてくれる会社などまずないのです。3年前に「26歳ほぼニートの初めての就職活動」が上手くいったのは障害者雇用枠のおかげであり、社会人スキルの足りない僕が会社勤めをするための唯一絶対の武器は障害者手帳だと思っています。
 そもそも事務職を続けたい、正社員になりたいと思っているのなら、初めから別の職場を選んでいました。僕の内定先が二択だったこと、姉は知る由もありません。


 自称コミュ障の僕は、自分が「かまってちゃん」であることを自覚しています。調子に乗るとおしゃべりが止まらなくなるため、他の人が語っているターンだと感じたら黙るよう心掛けています。
 ところが、実際にはひとくだり終えたタイミングを見計らっても、いざ口を開くと「また始まった」みたいな顔をされることが多いのです。その反応に気付かず突っ走っていた頃の方が、よっぽどノーストレスに生きていました。

 どう考えても他人の話を聞かないのは姉で、しっかり聞いて突っ込むか我慢するかと相手の顔色を伺っているのは僕なのに、姉が社交的で僕がコミュ障扱いされるのは納得がいきません。
 ――と、父の前で泣くまで喚き散らしてしまった夜でした。ちなみにこれで最初に書こうとしたことの半分くらいですが、僕のnoteの読み手さんたちは全部書いてもついてきてくれるでしょうか?

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