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②南下か北上か

信越トレイルの起点は「南の斑尾山」、「北の天水山」と2つあり、正規ルートとしては斑尾から天水山へと向かう北上ルートが推奨されています。もちろん天水山から斑尾山までの南下ルートでも問題なく歩くことができます。

「南下と北上」

ではどちらから歩くのが実際は正しいのでしょうか?


答えは「どちらから歩いても正解」です。


この章では「北上ルート」と「南下ルート」の特徴を、それぞれ紹介していきます。

【北上ルート】

おそらく初めて信越トレイルを歩くハイカーのほとんどが、この北上ルートを基本としてトレイルを歩くでしょう。以下、北上ルートのメリット・デメリットをリストアップしてみます。

■メリット

関東からのアクセス
新幹線を使って関東からアクセスした場合を想定すると、一番早く到着できるのは斑尾側です(交通アクセスの章で別途解説)。自家用車でアクセスする場合は帰りに車を回収しなければならないため、飯山駅の駐車場に車をデポしてからバスで斑尾入りするのが基本です。ゴール後は森宮野原駅からJR飯山線一本で戻ることが出来ますが、途中の戸狩野沢温泉駅での乗り継ぎが悪いので注意が必要です。移動距離はスムースにいけば1時間ほど。斑尾高原まで車でアクセスする場合はトレイル入り口である「チロル前駐車場」かビジターセンターでもある「山の家」に車を置かせてもらえば安心です。その場合、信越トレイルクラブの事務局にも一報入れましょう。

リニューアルした飯山駅
2015年に飯山駅が新しくなりました。駅構内にあるアクティビティーセンターは入山前に是非立ち寄りたいスポットです。うっかり燃料を買い忘れた場合でも、こちらで購入が可能です。

周辺環境
起点となる斑尾山は飯山市を代表するランドマークですが、山腹はほぼ全域「斑尾高原スキー場」の一部となっています。山麓には斑尾の市街地があり、ホテルやペンションが立ち並ぶリゾートタウンです。つまり、アクセスするための交通機関が確立しており、遠方から訪ねるハイカーにとっても斑尾側のほうが断然安心となります。また、信越トレイルの斑尾側のビジターセンターである「山の家」があるため、入山前に現地の情報を直接入手できるのもポイントです。そして、夏の間でもトレイル以外の観光が盛んなため、施設やトレイル周辺の整備が行き届いており、信越トレイルだけでなく、周辺には散策道が豊富に存在し、正規トレイル以外を組み込んだルート選択が自由となります。

トレイルへのアプローチ
トレイルのスタート地点である斑尾山山頂へは見通しのよいスキー場ゲレンデ内を歩くので、最初のアプローチが不安なハイカーにとっては安心感が高まるでしょう。トレイルの入り口も斑尾高原ホテルの裏手のチロル前駐車場からとなります。

最初のテントサイト
斑尾山からスタートしても最初のテント場は赤池キャンプサイトとなります。歩き始めて半日あれば到着できるので、スタートが昼になっても安心して1泊目のキャンプが可能となるでしょう。

桂池までは道が明瞭
初めてのハイカーでも道に迷う心配が少なく、分りやすい里山のトレイルが続きます。2日目のキャンプ地となる桂池キャンプサイトまではのんびりとした里山ハイキングが楽しめるでしょう。エスケープがしやすいので予期せぬトラブルがあった際でも臨機応変に対応が可能です。

後半アップダウンの多くなるエリアで荷物が軽くなる
地図を見る限りにおいては「平坦」なイメージのある関田山脈ですが、特に後半の牧峠~天水山エリアは細かいアップダウンが多いので体力を奪われます。ただし食料は後半になるほど減るため、荷物が軽くなるのは間違いなくメリットです。


■デメリット

トレイルの景観
先にメリットとして挙げた内容はそのままデメリットにもなり得ます。多くの意見で聞かれるのが、「いきなりスキー場を直登するので味気ない」という言葉。また、スキー場やテニスコート、人口池や一般道路が眼に入るため、「信越トレイルの綺麗な景色」に対して期待値が高くなっているハイカーにとってはがっかりするケースが多いようです。夏場のゲレンデ内は日差しをさえぎる物が無いため、熱中症にも注意が必要でしょう。

林道が多い
赤池周辺や毛無山以降の涌井集落まで、さらにその先の黒岩山までは林道が続きます。ここでも「里山」のイメージが逆効果となる場合もあるでしょう。サイドトレイルへの分岐や脇道も多いため、道迷いにも注意。地図はしっかりと確認しましょう。

戸狩スキー場エリアから鍋倉山までの登り
恐らく、今回挙げるデメリットの中で、最も「肉体的な負担」となるのが、この登りの大変さでしょう。特に戸狩スキー場から鍋倉山手前の登りは体力を奪われます。

後半エリアはエスケープが困難
戸狩スキー場以降からは関田山脈エリアに入るため、エスケープルートが少なくなります。特に牧峠以北からゴールの天水山周辺のエリアは人里に降りるのも大変。もしも体力や装備の面でトラブルが起きた際に対応が難しくなります。

ゴールした後の下山手段
天水山にゴールした後の下山手段は2パターンあります。最短ルートは松之山口ですが、山の中の一般道路に出るため交通手段が何も無く、あらかじめ下山方法を準備しておかないと動けなくなります。タクシーや送迎車を呼ぶにも、携帯が通じるか、バッテリーは残っているかなど、行程が終盤になるほど想定外のリスクは増えるでしょう。
もう一つの下山方法は天水山から栄村口に自力で下りる方法です。距離は長く、10キロ弱の退屈な林道歩きが待っています。ところが天水山でゴールして終わり!と楽観するハイカーが多く、さらに半日ほどかかる下山ルートで水が無くなったり、道に迷ったりするケースが目立ちます。初めて歩くハイカーは充分な情報収集で下山方法を確認してください。


【南下ルート】

実は2回目3回目の信越トレイルとなるほど、南下ルートを選択するハイカーが多くなります。また、経験豊富なトレイルランナーほど南下ルートで走るようです。理由は簡単、登りが少ないから。ただし単純にそれだけの理由ではなく、北上ルートと同じくメリット・デメリットがあります。

■メリット

とにかく楽!
地図を見ると一見斑尾側の標高が高いので、北上ルートのほうが下りが多いようにも見えますが、実際は逆です。特に北上ルートのデメリットにも挙げた、涌井から黒岩山までだらだら登る林道や、戸狩エリア周辺の急な登りも逆ルートなら下り基調でスピーディーな移動が可能となります。

北上ルートのデメリットはすべてメリットに変わる
景観の問題、林道の煩わしさ、先ほど挙げた登りのきつさ、エスケープの問題、下山手段など、すべての問題は南下ルートを選択することで解決するでしょう。

まずは景観
天水山周辺のブナ林はトレイル中トップクラスの美しさです。初日からイメージ通りの景観が広がるため、テンションは上がります。第一印象ですべて決まるのは男女の仲だけではありません。


林道について
南下ルートの場合、後半に林道エリアを歩くことになります。食料が無くなり身軽になった装備ならハイスピードで距離が稼げるでしょう。前半に登場するとイメージの悪い林道も、後半に登場すると安心感へと変わります。人口的な景色も同様です。

エスケープの問題
怪我や疲労を考えると、当然後半のほうが予測不可能です。トラブルが発生しやすい後半を里山エリアで迎えることは、エスケープのしやすさ、下界との距離の近さなど、大きなメリットと安心感に繋がるでしょう。また、ゴール付近の斑尾周辺にはサイドトレイルも多く、時間の制約で行程を短縮せざるを得ない場合でも、ルートをアレンジすることができます(例→最後の斑尾山は省くなど)。信越トレイルに限らずとも、経験豊富なハイカーほど、難しいエリアから入山し、簡単なエリアに下山するのがルート計画のセオリーだと知っています。

下山後の効率性
これは明白ですが、斑尾山をゴールとした場合、短時間で斑尾ホテル周辺へ下山できます。バスや車もすぐに利用できるため、飯山市街地へも短時間で移動可能となります。ゴール後のテンションが高いまま温泉や食事にありつけるのも嬉しい筈です。下山後のインフラ活用や利便性を考えれば、南下ルートの優位性は絶対です。

出発前の補給
森宮野原駅の正面には新しく出来た商店があります。2010年の栄村の震災後に復興目的で出来た商店です。ハイキング前の食料の買出し、電池や日用品まで一通りここで揃うでしょう。

1泊目の野々海テントサイト
これは北上ルートでも南下ルートでも同じですが、1泊目のテントサイトまでは距離が短いので、森宮野原駅を昼前に出発できれば余裕を持って到着が可能です。自家用車でアクセスした場合、駅に頼めば車を駐車できます。可能な限り連絡先と回収予定日を駅の係員に伝えましょう。ゴール後は、斑尾市街からバス〜飯山線と乗り継いで帰ってくることができます。所要時間は乗り継ぎの時間を含めても1時間半から2時間程度です。

水の管理
天水山から牧峠の間は水場が少ないですが、スタート時点でしっかりと準備できるので管理が楽になります。逆に反対ルートから来ると、後半になるほど予想外の出来事が発生し、水の補給が出来ないなどのリスクが増えるでしょう。


■デメリット

天水山までのアクセスがとにかく不便
思い切ってタクシーを使えば松之山登山口に早い時間で移動が可能です。グループ行動なら割り勘でタクシー代も安く出来るので抵抗感は抑えられます。森宮野原駅から直接歩いて天水山まで行くほうがシンプルですが、約9kmの内のほとんどが舗装道路や林道歩きの為、さすがに退屈で時間もかかります。ただし途中6kmまでは完全に舗装道路なので、日の出前でも安全に歩くことが可能です。車が入れる栄村登山口までタクシーを使うのもアリです。松之山口か栄村口か、タクシーか自力か、判断に迷うところです。

天水山から牧峠のアップダウン
スタート直後は荷物が重いので、前半の負担は確かにあります。ただし体力もある内ならさほど問題にはならないでしょう。

最後の斑尾山
最終エリアで最も標高の高い斑尾山を直登しなければなりません。しかもそのほとんどがスキー場のゲレンデ内です。正規ルートに拘るなら良いですが、実際楽しみは少ないです。そこで推奨したいのが、万坂峠から斑尾山へは登らずに、沼の原湿原を横断して斑尾市街地へ向かうサイドトレイルです。斑尾周辺は散策路も多いので、他にもアレンジ次第で独自のルートが選択できます。じっくりと地図を眺めてください。


総評
以下、簡単に整理すると

「斑尾山ー天水山の北上ルート」
安全志向、初めてのハイカー向き。ゴール後の計画性があれば大丈夫。徐々に森が深くなる高揚感。疲労は受け入れる。

「天水山ー斑尾山の南下ルート」
スタート地点へのアクセス方法だけ決断できればあとは楽チン。最初の景観の良さ。だんだん人里に戻る感覚で、芥川龍之介の「トロッコ」気分。ゴール後の行動も楽。


補足
信越トレイル80kmの謳い文句。実は起点となる斑尾山と天水山の間は65kmしかありません。森宮野原駅から天水山までが10km、斑尾山から下山口までが5km。合計で80kmです。アプローチルートの選択によって総距離が変わります。80kmハイカーを名乗りたいならば、アプローチルートもしっかり歩くことをおすすめします。

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