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行政書士の業務選択

業域が広すぎる行政書士が開業しようと思ったときに必ず一度は悩むのが『なんの業務を取り扱うのか?』という問題です。
業域の範囲内であれば、どの業務を選択したとしても間違いではありませんし、せっかく事業主となるのですから、好きなものを選べばいいと思います。
でも、相談を受けているとほとんどの人が、なんとなくやりたい業務はあってもそれでどうやって食っていけるのかがイメージできないと言うのです。

これには行政書士業界には研修や書籍がある業務に偏りがあることや、本当に必要な情報は出回っていないこと、試験合格後の即独が多いのでそもそも士業の仕事というもの自体がイメージできないまま新規参入しているというのも大きく作用しているものと考えられます。

許認可か市民法務か

まず業務を大きく2つにわけると、許認可か市民法務かという選択肢となります。
この辺りについては当事務所のブログでもさわりの部分は書いてありますので、そちらを参照いただければと思います。

許認可系と民事系 → https://tokutome.net/gyouseisyosi03
民事系業務の概要 → https://tokutome.net/minzi02
許認可系業務の概要 → https://tokutome.net/kyoninka05

最初に私のスタンスを申し上げますと、私は圧倒的に許認可推しです。
許認可は行政書士の独占業務なのに、その業務をやらないならなんで行政書士になったの?と素朴に疑問に思います。
しかしながらここで私が許認可良いよ!と叫んだところで相続をやる!と心に決めている人には鬱陶しいことでしょう。

そこで、私のこれまでの経験と、周りの行政書士を実際に見て話を聞いて感じたメリットとデメリットを、わかりやすく書いてみたいと思います。
ブログには書けなかった内容にまで踏み込んで、市民法務で生き残っている先生方がどれほどの努力をされているかということにまで言及していきます。

早とちりしていただきたくないのですが、私は許認可推しではありますが、行政書士が市民法務をやるな!と言っているわけではありません。
市民法務を取り扱っている立派な行政書士の先生も知っていますし、市民法務をやると言って廃業していった人たちも見ています。

だからこそ、新人さんが安易な気持ちで市民法務をやるって思ってるなら、「ちょっと待って!」と警鐘を鳴らしたいというだけです。

安易じゃないし、めちゃくちゃ勉強してるし、覚悟もあるし、絶対業際守るし、相談者さまを路頭に迷わせないための紹介先の弁護士さんもいる!
という方であれば、この記事は読む必要はありません。
取り扱い業務に迷っている人、なんとなく市民法務をやろうと思っている人だけ読み進めていただければと思います。

メリットとデメリット

許認可業務のメリット
・顧問契約が発生しやすいので早期安定が計れる
・更新等の継続案件が定期で発生するので売上げのメドが立てやすい
・専門特化した場合、作業効率の向上とともに利益率がどんどん上がる
・営業先や営業方法が明確ですぐに行動しやすい
・スケジュールが比較的カレンダー通りに組めるのでワークライフバランスがとりやすい
・事業主との取引になるので紹介が発生しやすい
・同業や他士業からも紹介が発生しやすい
許認可業務のデメリット
・隙あらば不正申請をさせようとする詐欺師や黒い社長が近付いてくる
・ミスした時の損害額が大き過ぎて、責任ストレスが半端ない
・事業主との取引になるので安定を担保出来ないと相手にされない(資力及び実力)
・カバチタレ系行政書士と食えない士業から嫌われる
市民法務のメリット
・直接人助けしているという実感があり、対外的にもそう見られる
・試験勉強の範囲でもあり、実務本もたくさん出ているのでとっかかりやすい
・『THE士業』って感じがする
市民法務のデメリット
・業際問題に発展しやすい
・基本的には単発業務なので事業が安定しづらい
・作業効率を上げるにも限界があり、売り上げがどこかで頭打ちする
・営業がすぐ実るような性質のものではないので軌道にのるまでに資力が必要
・依頼者の人生とお金にダイレクトに関わる業務なのでネガティブストレスが半端ない
・夜間や土日対応を求められやすい
・あまり大っぴらに利益を求められない
・他士業からめちゃくちゃ嫌われる


私が許認可推しなのでひいき目も多分にあると思いますが、スタートアップ時で事務所を経営するという観点から見れば市民法務専門で始めるメリットは少ないと思っています。(特殊な背景がある人は除く)

行政書士が市民法務を専門にするという事

それでも市民法務を選択するのは、『仕事ではない志』に起因するものだと思います。
困っている人を助けたくて行政書士になったのだから市民法務をする!
と決めている人は迷いませんよね?

また、そう決めている人にとっては食えるかどうかはあまり関係ないことだと思います。
困ってる人を助けるというのが最大の目的であれば利益を追求しないのは当然のことですから。

市民法務で廃業していない行政書士先生は、一部のとんでもなくすごい人たちを除くと、兼業であることが多いです。
他でしっかり生計は確保しておいて、困っている人のために複業で市民法務行政書士をしているのです。

ここが新人さんにはあまり知られていない部分で、そうとは知らない新人さんが後追いしてどんどん廃業していく罠の1つだと思っています。
収益源もないうちから市民法務を主軸にするのは、相当のハードモードであるという自覚を持った上で行なわなくてはなりません。

私はこの点から、市民法務を主軸にする線は無いなと真っ先に選択肢から切りました。
家庭もある身ですので、土日や夜間に面談が多く入るのも困るという背景も選択に大きく関わっています。

相続業務はどうだ?

さて、市民法務といっても行政書士が取り扱い出来るとされている業務はいろいろとあります。
相続手続き(に伴う相談)
離婚手続き(に伴う相談)
協議書の作成
公正証書の作成
任意後見契約
その他法務相談
おおまかに分類するとこのような感じでしょうか。

この中でも特に問題で、なぜかみんながやりたがる業務といえば相続ですね。
遺言執行人として大きなお金が入ってくるとか、相続で〇百万の利益が出るとかいう話もあるようですが、私は顔が狭いので行政書士専業でそんな案件を実際に受任したという先生にはまだお話を伺ったことがありません。

私はまだ直接話を聞いたことが無いだけで、”相続ですごい先生がいる”という噂は実名で聞くこともあるので悲観する必要は全くないと思います。
あと、司法書士行政書士のWライセンスとか、税理士行政書士のWライセンスで相続業務をされている方は儲けている印象が強いです。

さて、その行政書士の先生がその依頼者に当たるまでにどれほどの営業努力をしているか、考えてみましょう。
普通はそれほどの財産を有している富裕層の人は弁護士さんに依頼します。

それを押しのけて行政書士が受任するということは、よっぽど太いお付き合いをしているか、断れない筋からの紹介でもない限り無いと私は見ています。

仮に自分にそれだけの財産があったとして、わざわざ業務の範囲に制限のある行政書士に大事な相続の依頼をしますか?
私なら絶対にしません。
行政書士に相続の相談をしようとする人の多くは『弁護士に依頼するほどには財産が無い層』だと見ていいと思います。

そもそも論として、相続をメイン業務とする士業はどれほどいると思いますか?
弁護士・税理士・司法書士・行政書士、全ての士業がこの業務に参入している中で、実際に行なえる業務の幅や必要性を簡単に表してみましょう。

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上記比較表は個人的な見解によるものですが、実際このようなものだと思います。
弁護士さんが最強なのは当然として、富裕層であれば相続税は必ず発生するので税理士さんは必須、不動産を1つも所有していない富裕層もめったにいないので司法書士さんも必要。

司法書士は税務は扱えないが争いの無い範囲であればほとんどの相続手続きを扱え、登記が発生するので問い合わせや紹介の連絡が来る。
税理士は登記は出来ないが、そもそも顧問先さまから一次的に連絡をもらうことが多く、富裕層の相続は弁護士さんか税理士さんが窓口になることが多い。

さて、行政書士はどうでしょうか?ここに参入して勝ち目はありますか?
許認可の必要な業務を行なっていて、事業承継する際に許認可の変更等が必要となった時ぐらいしか、弁護士さんや税理士さんから相続についてご連絡が回ってくることはまずありません。

行政書士が相続業務において扱える手続きは、司法書士さんや弁護士さんという上位互換が存在しているからです。

だから行政書士が相続で活躍しようと思うなら税理士などもついていない富裕層以外の層ということになります。
この単元の最初に戻りますが、困ってる人を助けるというのが目的であれば利益は追求できないというのはこういうことです。

任意後見業務はどうだ?

行政書士会も力をいれている市民法務系業務の1つに任意後見業務があります。
私は障がい者福祉事業者さまのお手伝いをしていますので、後見業務は身近な問題で、必要としている人にまだまだ手が届いていない分野だと感じています。
しかし、勘違いしてはいけないのは、行政書士は『法定後見人としては認められていない』ということです。

予備校時代の担当講師が、成年後見をメイン業務にしている行政書士だったので後見の業務について当時色々とお話を伺いました。
その内容を簡単にまとめると、「弁護士や司法書士がやりたがらない限界案件しか回ってこないし、そういう人を助けるために業務をしている」とのことでした。

実際にその行政書士先生のところで丁稚奉公をしていた受験生に実情を聞いても、生活保護世帯で弄便症状が酷い利用者等の厳しめ案件ばかりとのことでした。
新人の私にそれを疑う余地はありませんので、そういう法廷後見人の人が扱わないところへ手を伸ばす行為を行政書士が担っているのは素晴らしいことだなと思っていました。

しかし、最近になって実際に法定後見人の業務を行なっている司法書士の方のお話を聞いてみると、現在はどうやらそうでもないようです。

司法書士さんは裁判所から法定後見依頼が回ってくるときに被後見人の情報は知らされず、また、受任拒否をすると次の依頼が回って来づらくなるという背景があるそうです。
「だから普通に生活保護案件も受けるし、弄便がどうとかなんて受任した後じゃないとわからないから拒否したり出来ないし、しない。」とのことでした。

誰もやりたがらない被後見人に対しても司法書士会が法定後見で受けるという方向で進んでいるのであれば、法定後見人ではない行政書士がどこまで問題にならずにここに食い込んでいけるのかな?というのは疑問視しています。

後見業務は貢献業務と言われるように、決して楽でもないし、儲かる業務でもありません。
やはり後見業務を行なう場合であっても、何か他で収入源の確保は必須だと思います。
(だから前述した後見業務をメインとしている先生も、予備校の講師をしていたのでしょう)
後見人の手が足りていない状況は確かだと思いますので、各士業で揉めることなくキレイに棲み分けしてほしいなぁと個人的には願っています。

困っている人の助けになるために行政書士になったんだ!という方が、しっかりと自分の生活も守ったうえで、たくさん勉強して業際も守り、業務を行なっていただくことは行政書士全体としての向上にもつながりますし、そういうまともで素敵な先生方にどんどん目立って欲しいと思っています。

私の個人的見解では、行政書士が市民法務をするなら離婚業務が一番いいのではないか?というのが現段階での結論です。
機会があれば今度別記事にて書きますので理由についてはここでは割愛します。

ここまで市民法務について私なりに体験したことと見聞きしたことを元に書いてきましたが、あくまでも私は許認可系行政書士ですので、この見解が間違っていないかどうか、しっかり市民法務専門の行政書士の先生にもお話を聞いてご自身で判断欲しいと思います。

許認可はどうだ?

行政書士にとって許認可業務は専門職です。やらないなんてもったいない。
何より、営業許可申請や、これから日本で働く人のためのビザの申請をするのは、とてもポジティブでやりがいも相当あります。

ただ決まった定型書類を書いて提出する、AI代替可能業務という間違ったイメージを持っている人が多くいらっしゃるようですが、はっきり言っておきます。それは間違いであると。

当事務所は広く許認可を取り扱っているため、様々な業種の申請をしてきましたが、どれ一つとして定型書類さえ書けば終わりという業種なんてありません。
深く関われば関わるほどに、です。

例えば、『車庫証明』は定型業務ですが、自動車業務において車庫証明はあくまでも入り口に過ぎません。
自動車登録申請のための必要書類を集めるいわゆる準備業務の位置取りなので、住民票等を取得しに行くのと同じです。

そして、自動車登録業務に定型案件が多いのは確かですが、定型だから楽勝なんて思っているとトラブルの元です。
数次相続や法人の移転合併吸収に伴う登録、未成年者の取得等々・・・、他にもたくさん定型外の案件が発生します。

必要書類も変われば、追加で作成しなければならない書類も変わりますので、いつも通りの申請をしても受理されません。
そうなると期日に間に合わなくなり、依頼者さまに損害を与えてしまうというのは想像に容易いですよね。

行政書士が取り扱う商品は『権利義務に関する書類』です。
それらには必ず責任が伴います。

案件ベースで見れば結果的に楽な定型申請だったというケースはありますが、業務というくくりで見れば、楽な定型業務なんてありません。
〇〇業務の専門家です!と言うのであれば、これらを理解した上で責任を持って名乗ってほしいと思います。

許認可業務はなぜ安定しやすいのか?

許認可には更新が伴うものが多く存在します。
また、変更があれば届出をしなければならないもの、定期で報告書の提出が必要なものもあります。
つまり、最初の許認可の申請を請け負えば、付帯してそれらも仮押さえが入った状態になるということです。

変更届はほとんどが簡単なので自分で申請する事業主さまもいらっしゃいますが、そういったことに時間をとられたくないという事業主さまもいらっしゃいますし、それ以外の報告書や更新申請はこちらでスケジュール管理をしてあげるだけでも事業主様の負担軽減になるので、「それなら申請もお願いするよ」となりやすく、更新や報告の時期がくればそのままご依頼頂ける仕組みが出来上がります。

こういった流れから、報告書を作成するには日報の管理が必要だよね、とか、許可要件を満たすための適正な運営をするためには基準や通達を管理者がしっかり理解していないとダメだからそこのフォローが必要だよね、など、「これらを顧問契約でお願いできますか?」と相手から言ってもらえる機会が多いのです。
これが許認可業務が早期で事務所運営を安定に導く導線となります。

また、事業主さまは自事業のための営業活動を行なっていらっしゃるのでご自身の業界内外を問わず顔が広い人が多いです。
気に入っていただけると知り合いの事業主さまにそのまま繋いでもらえ、事業主さまのご紹介数珠繋ぎという素敵なリレーが始まります。

誠実に業務を行ない、誠実に依頼者さまに対応するだけで、それがそのまま営業活動に繋がるというのは、労働集約になりがちな行政書士業務において、とても有難いことです。
当事務所も現在ほぼ新規の営業は行なっておらず、この事業主さまご紹介リレーによって新たな出会いの機会を頂戴している状況です。

仮にまだ新規営業が必要な状態だったとしても、どの業界の許認可業務をするかを決めてしまえば営業先は明確ですよね。
市民法務の場合は主に、離婚しそうな人、身内が亡くなりそうな人がターゲットになるわけですが、そのターゲットをどうやって探せばいいのか?というのは答えのない問題です。

例えば病院や葬儀場に「もうすぐ相続ですよね?遺言書の準備はお済みですか?」なんて言えるはずもないのは明らかですから。
それに対して建設業の許可に関する営業をしたいと思えば、建設業関係の事業主さまにアポをとればいいだけなので迷うことなく動けます。

打ち合わせ1つとっても、相手さま事業所の営業時間内に行なわれることが多いので、土日や祝日は事務所を休みに出来ます。
家庭のある方や趣味を充実させたい方にとってはこれは大きなメリットだと思います。

ただこれは業種にもよりますので、飲食業や入居型施設事業者さまが相手の場合は土日祝日や夜間も業務対応が必要になると思います。
実際に当事務所でも障がい者グループホームを運営している事業所さまからは早朝にメールやFAXが来たり、土日に電話がかかってきたりします。

どういう働き方、どういう生活をしたいのか?という発想からそのライフスタイルに合った業種に絞って選択していくというのは、無理なく事務所運営を続けるために必要なことだと思います。

許認可業務はなぜ紹介が発生しやすいのか?

事業主さまからご紹介の流れが出来る仕組みは先ほど書きましたので、ここでは同業や他士業からの紹介について言及します。

業域が広いのが行政書士の特色であり、専門特化するのが1番早く軌道にのる近道であると言われている中で、今やほとんどの行政書士が専門特化体制で事務所を回しています。

しかし、専門特化すればその案件しかこないか?と言えばそうではありません。
専門分野以外の相談も必ず発生します。
その時に未知の業務に手を出すリスクや、支払わなければならない勉強コストを考えると、賢い行政書士のほとんどはその仕事を専門としている同業に紹介します。

専門特化の先生方はそうやってお互いに発生した専門外の業務を紹介し合うことで互いを補完しあっている状態と言えます。

ここに入っていくには自分がまず案件を紹介しなければなりませんので『まず与えよ』の精神で、信頼できる先生に仕事をお願いするところから上手に入っていきましょう。

他士業者からのご紹介についても言わずもがなですが、自分が業際を守って正しく仕事をしていると認知されれば、同じように業際を守って正しく仕事をしている他士業者と仲良くなれます。

他士業者からすれば許認可は取り扱えない業務なので、しっかり処理してくれる行政書士は重宝されます。
コミュニケーションのとれる他士業とお互いに仕事を紹介しあえばかなりスムースに業務は進みますし、それは依頼者の利益に資する行為です。

他士業者は業際で商圏を奪い合って争うための相手ではありません。
そんなことをしても依頼者には何も還元されません。
ともに依頼者の利益のために、お互いの専門的知識と情報を活かして協力し合うべき仲間となる方が八方に敵を作りながら仕事をするよりも事務所運営が随分と楽になるのは想像に容易いと思います。

第一に依頼者の利益のため、第二に自分の利益のため、業際を守ることで自然に事務所が回る仕組みが出来上がっていくことをもっと多くの新人さんに知ってもらえればと思います。


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