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音が消えた日 ①

2021年10月4日、目が覚めたら世界から音が消えていた。
全く何も聞こえないわけではなく、海の中に潜っている時のように、自分が薄い膜で覆われて世界と断絶され、向こう側の世界の音がぼわーんという鈍い響きと共に振動として伝わってくる感じ。

寝起きだったこともあって最初は何が起こったのか全く理解出来なかったが、家族が何か話しかけてきているのにぼわーんという響きしか聞こえていないことに気が付き、これはアカンやつや!とようやく目が覚めた。

この日は朝から社内会議があったので、とにかくそれをこなしてから後の仕事は全てキャンセルして病院へ行こうと決めた。
突発性難聴は発症してから24時間以内に治療を開始できるかどうかが聴力の戻りに大きく関わると昔聞いたことがあったからだ。

聞こえない会議

朝イチの従業員管理職予定者を集めた定例会議で、とにかく今私は耳が聞こえていないので自分がちゃんと話せているかどうかもわからないから聞き取れなかったら教えてくださいと前置きし、伝達しておきたい事項の申し送りだけした。

いつもなら従業員さんからの申し送りもあるのだが、聞こえないのでしばらくの間は私への連絡はチャットやLINE等の文章ベースで連絡してもらうようお願いし、会社を後にした。

かかりつけ耳鼻科へ

耳が聞こえない状態で外を歩くのは平衡感覚が取りづらく、また、安全確認を視力に頼るしか無いので、慣れているはずの会社からの帰り道がすごく遠く感じた。

猛スピードで横を通り過ぎていく自転車や、急に後ろに人がいるということが本当に怖くて、聴力を奪われるということはこんなにも怖くて疲れることなのだと知った。

午前診療に間に合うように急いで行きたいのに、安全確認を視力に頼るしか無く、また足取りがふわふわして覚束ないため全く急ぐことが出来ない。
もどかしくもあったがとにかく落ち着いて確実に行動しようと思い直し、いつもより倍近い時間をかけてなんとか耳鼻科に辿り着いた。

病院についたらすぐに聴力検査が始まり、特に左耳は全くなんの音も聞こえていない状態であり、右耳もほぼ同様であることがわかった。
今すぐに入院して1週間ステロイドを打ち続ける必要があるとのことで、紹介状を書いてもらい、総合病院へ行くことになった。

総合病院にて

耳鼻科の先生が急を要すると連絡をいれてくださっていたようで、いつもめちゃくちゃ待たされる総合病院なのに、行ったらすぐに診察されて、一通りの検査の後、点滴が始まった。
点滴を受けながら、今から自分が10日間以上入院したらどうなるだろうと想像してみた。

パソコンの持ち込みは禁止されているので仕事はスマホでしか出来ない。
今抱えている案件は10日間止めても大丈夫な仕事もあるが、止められない仕事もいくつか思い浮かぶ。うん無理だ。

家はどうだろう。
子供はまだ3歳(保育園)と6歳(年長)で小さく、何をするにも親の助けが必要だが夫は家事が全くできない。
10日間も私が入院したら子供たちは毎日買ってきた惣菜を食べることになるだろうし、洗濯ができないから着替えがなくなる。
朝の幼稚園や保育園の支度だって夫は何もわからない。うん、やっぱり無理だ。

総合的に考えて現状で入院は現実的に無理だと判断し、入院を断るとお医者さんは強く入院を勧めてくれた。
ステロイドを毎日点滴するということは、体の抵抗力が無くなり、ありとあらゆるウイルスや病気に負ける防御力0の状態で外に出るのと同じだから大変危険だと。

入院していれば病気やウイルスへの感染リスクも軽減するし、何かあってもすぐに対応できるが、通院治療の場合は対応されるまでに時間がかかるため危険度は上がる、何よりも今回の突発性難聴はウイルス性のものではない以上、德留さんにはまとまった休養が必要です!とのこと。

こんなに心配して助言をしてくれるめちゃくちゃありがたい先生にお礼を伝えつつ、それでも子供を預けるところがないので帰らないわけにはいかないと説明すると、そういう事情ならどうしようもないですねと通院治療の方針へ舵をきってくれた。



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