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004 相続預貯金の払戻しと遺産分割協議

前回は、平成28年12月19日の判例を紹介し、この判例により預貯金は不可分な財産であると結論づけられたこと、現在の各金融機関における相続手続きはこの判例の考え方に則って実践されていることを述べました。今回は、この判例の具体的な影響について、さらに述べたいと思います。平成28年12月19日の判例は、遺言がない場合、相続財産である預貯金(相続預貯金)を誰が取得することになるかは、相続人による遺産分割協議により決まることを判示しました。言い換えれば、相続人による遺産分割協議が完了するまでは、相続預貯金は誰の財産とも言えないということです。相続人による遺産分割協議が完了するまでは、言わば宙ぶらりんな財産になっているということになります。この判例の考え方に基づいて運用されている現在の金融機関実務では、遺言がない場合、相続預貯金は、相続人による遺産分割協議の結果(相続人の総意)に基づかなければ、1円たりとも払戻しを受けることができないとされています。金融機関は法令や判例を遵守して金融取引を実践しなければなりませんので、現在、各金融機関におけるこのような取扱いは厳格に実践されています。葬儀費用を支払いたい、借金の返済が滞らないようにしたいなど、急いで資金を必要とする事情があったとしても、(例外的に、法令に基づいて認められている相続預貯金の仮払いの手続きによる場合を除いて、)金融機関が柔軟な対応を見せてくれることは期待できません。したがって、相続預貯金を、相続開始の後、速やかに活用したいと思う相続人は、速やかに遺産分割協議を完了させなければならないということになります。しかし、多くの相続において、遺産分割協議を早々に完了させることは、なかなかどうして、簡単なことではないのです。

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