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阪急阪神とJR西日本はなぜメタバースに挑戦したのかという雑考


はじまりは春の阪急車内広告

2022/3/2、筆者が阪急神戸線の列車内にて撮影。

今年の春先、阪急にしては珍しいキャラクターを前面に押し出した車内広告出しているなと近寄ってみたところ見つけたのがこの広告。
初音ミクとケンシロウという時点でどういう組み合わせだと思いつつ面白いことやり始めたなーと思いつつも、イベントそのものについては気にも留めていませんでした。

阪急阪神vsJR西日本の新しい争い

2022年夏の戦い

JR西日本は1988年の民営化以来在阪私鉄各社に正面から競争をし始めたのは多くの鉄道趣味人の知るところです(わかりやすい例が阪急の主要3線に並行する路線愛称をつけたり「(JR)神戸線・宝塚線・京都線」)が…

そんな中、両社が以下のような展開をすることを表明。
・阪急阪神:JM梅田ミュージックフェスの第2弾を夏に開催
https://www.hankyu-hanshin.co.jp/release/docs/1306237dc73bc6ad9f41623f579fc26851a37047.pdf
・JR西日本:メタバース事業の取り組みとしてJR西日本グループがバーチャルマーケット2022 Summerにて展開するメタバース上の駅『バーチャル大阪駅』の詳細を発表
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220803_01_press.pdf

阪急阪神は再度阪急電車の車内への広告出稿、JR西日本は駅近くへの広告出稿もあったことでメタバースでも両社一騎打ちという、関西在住の当方としては「こりゃ何かあるぞ」という感想を抱きました。実際、当時は筆者の立ち位置としてはメタバースというのは知っていても積極的な立ち位置ではありませんでした。

イベントの中身

双方のイベント、それぞれメタバース内を覗いたのですが、基本となるのは


・阪急阪神:2.5次元系アイドルやVtuberなどのミュージックフェスが核。その他各社出展ブースも展示
・JR西日本:JR大阪駅の新ホームドア再現、関空特急「はるか」搭乗体験など実際にメタバース空間内を歩き回ることによる疑似体験が核


とだいぶ内容は異なってはいました。とはいえ、メタバースに対する先行投資的な意味合いは両社ともにそれぞれ垣間見えたところ。

両社の狙い

それぞれ、参考になる記事やニュースリリースが上がっています。

にじさんじ、キンプリも登場。阪急阪神HDが仕掛ける“メタバース音楽フェス”が狙うは「街づくり」

2022年8月社長会見(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220803_05_kaiken.pdf

阪急阪神側は、現在の阪急電鉄のルーツである鉄道と街づくりの延長線上にメタバースも存在しうる、と考えているようです。

阪急阪神HDにとってメタバース事業の最初のゴールは「バーチャルの街に集客し、収益化する」こと。さらに、バーチャルで梅田を知った人には、リアルの梅田の街にも関心を持ち、遊びに来てもらいたい。「リアルの街との双方向での集客」を見据えている。

https://www.businessinsider.jp/post-258064

一方のJR西日本。どちらかというとコロナ禍で大きく減った観光・インバウンド需要をバーチャル大阪駅への訪問を核に行ってみたいと思わせる取り組みがあったものと読み取れます。

コロナ禍による社会変容で、私たちの生活は大きな変化に直面していますが、これをチャンスと捉え、これまで「リアル」で磨いてきた駅を「バーチャル」へと拡張し、この2つの空間が相互に連動した、新たな価値創造にチャレンジしていきたいと考えています。
そのファーストステップとして、メタバース上の駅として、関西で初めてとなる、もう一つの駅『バーチャル大阪駅』を構築し、世界最大のVRイベントである「バーチャルマーケット」へ出展します。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220803_05_kaiken.pdf


気になったところ

ここまでは一鉄道趣味人としての記述が多かったのですが、ここからは両社ごとに気になった点を書きます。

阪急阪神:独自アプリでの入場、VRヘッドセット非対応

現在メタバース関係ではCluster、VRChat、バーチャルキャストなどのVRSNSのプラットホームが多くで活用されているのですがこれらと連携は特になく、独自アプリをスマホ、PCで利用する形態でした。加えてアカウントも作成して入場する形式。
アカウントは「HH cross」と呼ばれどちらかというと阪急阪神沿線ユーザーや宝塚歌劇ファンの使用を想定したもののため、沿線ユーザー以外からはやや利用しづらい印象もあります。
(但し、有料配信の一部はニコニコ生放送など他社サービスでも対応)

加えて、メタバースとは呼ぶもののここ近年隆盛著しいVRヘッドセット環境には非対応。またアバター持ち込みも非対応となっていました。
この辺は「推しTシャツ」などのアバターパーツが有償販売であることの絡みもあるのでしょうが。

JR西日本:直接的な課金コンテンツはなし。また「うめきた新駅」の構造は体験できず

これはJR西日本側、というよりプラットホームとなるVRChatの制約でもあるのですが、アプリ内やブラウザ版で直接課金をして何かを購入するようなコンテンツは一切ありません。
ちなみにバーチャル大阪駅を含む一連の会場となるVket2022 Summerでは阪神百貨店も出店があったのですが、これらもすべて商品紹介にとどまっていました。

また、これもどちらかというと鉄道趣味人寄りの感想なのですが「世界初 フルスクリーンドア先行体験!」とあったのでうめきた新駅の構造を見れるぞと思ったものの、実際の構造は現在稼働中のホームに新駅用のホームドアを設置していた、という点で少々ずっこけた感はありました。せっかくの仮想体験なのだからこの辺は工夫できなかったのかなと。

JR大阪駅5・6番線とフルスクリーンホームドア。VRChat上で2022/8/26撮影
実際のJR大阪駅5・6番線。2022/08/29筆者撮影

総評とこれからと

両方を見た感想としては「メタバースをプラットホームとしながらも、目指す方向は両社で違っており、競合しているわけではない」と。
煽り気味で阪急阪神vsJR西日本とは書きましたが昨今の(リアルの)鉄道事情もあって両社間の関係は少しずつ競合から協力関係へと移り変わっています。

阪急阪神側は上記の狙いにある宝塚歌劇のみならず阪神甲子園球場や、実は阪神のグループ会社であるBillboard Japan、ひいては「阪急阪神東宝グループ」と呼ばれるように東宝系ともつながりがあり(東宝は「東京宝塚劇場」をルーツとします)、エンタテイメントのつながりは意外に多い会社です。
その観点から、若い層にファンが多いVtuberのライブをメタバースで…というのは同社の取り組みの延長線上にあると断言してよいでしょう。

JR西日本はまだ初回のためやや評価に困るのですが、全世界をサービス提供範囲とするVRChatで展開するということで大阪駅や周辺地域(パラリアル大阪と称した大阪中心地をイメージした仮想市街の展開もされていました)、関空特急「はるか」のPR効果も狙っている部分はありそうです。
先行事例であるJR東日本の秋葉原駅のメタバースへの展開を含めて今後も何かしらの形での展開はあると予測しています。

追伸:
特にメタバース関係にはまだ詳しいほうではないため、精通している方からの突っ込みなどはTwitterのDMなどでお知らせいただくと助かります。

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