骨折り損のくたびれ儲け
我が家は山の上にある。
我が家からさらに坂道を上っていくと、住宅街の最も高い場所に辿り着ける。
そこからの景色がきれいだ。
下り坂の向こうに田園が広がり、さらに向こうに山々が連なる。
我が街のちょっとしたビューポイントだ。
話は変わるが、我が家に足の不自由なお袋がいる。
ある日のこと、お袋を車椅子に乗せてその坂道を上った。
あの景色を見せるために。
車椅子を押して坂道を上るのもトレーニングだと思って実行したが、これがなかなかきつい。
押しても押してもなかなか前に進まない。
車椅子のハンドルを握る手が痛み出す。
腕を伸ばして下を向きながら前進を続けていると、額から汗がポタポタとアスファルトの上に落ちる。
それでもやっと思いで上り切る。
車椅子の前に広がる大パノラマ。
ふとお袋を見ると、近くの家の庭を覗き見している。
「景色を見ろよ」と言ったぼくにお袋は言った。
「興味ないねん」
「通勤電車の詩」を読んでいただきありがとうございます。 サラリーマンの作家活動を応援していただけたらうれしいです。夢に一歩でも近づけるように頑張りたいです。よろしくお願いします。