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【毎週ショートショートnote】「立方体の思い出」(410字)

「コロナの影響で今年の修学旅行の行き先は京都から立方体に変更になりました」

 先生の言葉を聞いた生徒たちからはいっせいにブーイングが上がった。

「先生だって金閣寺見たかったわよ。でも職員会議で感染リスクが少ない場所について話し合ってたら、立方体くらいしか残らなくて……」

 納得はできなかったが、中止よりはマシかと生徒たちはその一月後に立方体に向けて出発した。

 立方体では本当に辺が直角か測ったり、辺の数が十二個であるか数えたりして過ごした。
 田中が分度器を忘れてきたり、佐藤が辺の数が何度数えても十三個になると言って皆を怯えさせたりして、皆は思いのほか楽しい時間を過ごした。
 夜になると立方体を展開して、クラスごとに六つの面に分かれて布団を敷いて眠った。


 あれから十数年が経った。
 あのとき行った立方体はいまだに私の脳裏に鮮明に残っていた。ただ、立方体の展開図が十一種類のうちどれだったかは、いくら考えても思い出せなかった。







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